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少し歩くと、元はしっかりした家だったのだろうが、修繕もされず、扉が外れかけていたり、窓の一部が壊れている家が立ち並んでいる。


道の真ん中を歩く彼らを家の軒に身を寄せている人々が黒々とした瞳で見つめていた。


「おねーた、おにーた」


壊れかけた家の一つからトテトテと歩いてきた三歳ぐらいの女の子が二人の目の前までやってきてそっと袖を引いた。


「にゃにか、ちょーらい」


しょぼんとお腹をさすって首を傾げておねだりする女の子の可愛さに悩殺されたレリアとコリアは慌てて何かないかポケットを探った。


おろしたての上着のポケットに何も入ってない事を知っているジェスは小さくため息をつき、自身の内ポケットから小さな飴玉を出してかがんで女の子に渡した。


「こちらをどうぞ、お嬢さん。ここで食べてしまいなさい」


「わかった、ありあとー!!」


ぱあっと明るい顔をして、その場で飴玉をほおばってから走り去っていった少女を見送ってから、ジェスはふうっと息を吐いた。


「レリア様、コリア様、こちらへ」


少し速度を速めてその場を通り過ぎるジェスに訝しみながらも、レリアとコリアもできるだけ速足で付いていく。


暫くして、コリアが付いてこれなくなったので、コリアをロナルドが、レリアをジェスが抱き上げて進むことになった。


「ねえ、ジェス、どうしてあの時、ため息をついたの?」


きょとんとした顔でレリアが尋ねる。


ジェスはレリアの方を見ず、速足で歩きながら苦い顔をした。


「……キリがないから、だよね……」


「コリア?キリがないって?」


「多分、この町の人、ほとんどが何らかの理由であの少女と同じく貧しいんだ」


「えっ?」


レリアが驚きの声を上げた。曲がりなりにも、ここは広大な辺境伯の領地。スタンピードがあったといえど、数年前まで一番に栄えていたはずの町だ。


ロナルドが苦い顔をして頷いた。


「そう、コリア様の言う通りだ。付け加えるなら、善意の施しでも、施せるほどにものを持っている奴は狙われる」


「なに、それ。めちゃくちゃ物騒じゃない!!」


憤るレリアに、ロナルドとジェスは顔をしかめて頷いた。


「この先に駐屯所があります、本日の目的地はそこです」


駐屯所があるのにこの有様なのか、と疑問は尽きなかったが、ジェスとロナルドが歩き出したことで、とりあえずこの話は棚上げとなったのだった。






「ジェスさんにロナルドじゃねえか。久しぶりだな……、今日は何の用だ?」


駐屯所に付くと、茶けた赤髪に鋭い眼光、顔に無数の傷がある大柄な男が一行を出迎えた。もっとも、出迎えた、というにはいささか好戦的ではあったが。


「やめろ、ルーズベルト。ジェスさん、ロナルドさん、すまないな。最近忙しくてリズも気が立っていてね……ん?そちらのお嬢さんたちは?」


「リズって誰かしら?」「ルーズベルトさんのことじゃない?」「ああ、ずいぶんと可愛らしい愛称なのね」


「聞こえてるぞ、クソガキども」


「まあまあ、リズ。子供の言うことだぜ。大人げない」


「お前に言われる筋合いはねえよ、いけすかねえロナウド」


バチバチと目から火花を散らせ始めた二人を笑顔でスルーし、黒に近い青の髪を持つ若い男がレリアとコリアに近づいてきた。ジェスもにこやかに迎える。


「お久しぶりです、シャロック団長。相変わらずお若く見えますね」


「よしてください、ジェスさん。俺はもう三十はとうに過ぎましたし、おとこやもめですよ」


どう見ても二十台前半にしか見えないその容貌をレリアとコリアはまじまじと見つめた。


「で、ジェスさん、この好奇心旺盛な子供たちは?」


「紹介いたします。この辺境伯家の跡継ぎのお二人、レリア様とコリア様です」


シャロック団長の目が見開かれる。


「それは、それは……「てめえ、ふざけんなよ!!これ以上この地に、災いを呼ぶ気か!?忌み子なんてつれてくるな!!」


叫ばれたその内容に、レリアとコリアははっと息を飲んだ。

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