#18
本館のリビングで集まっている皆はルナが来るのを待っていた。
黒斗はルナから貰った地図を広げて場所の確認をしている。
待ち合わせ場所はここからずっと西へ向かった小さな丘。
敷地を出てからも結構な距離を歩くと聞いている。
今から向かって間に合うとは到底思えないのだ。
五分ほど待っていると二階からバタバタと急いでいる音が聞こえた。
「おっまたー!」
ルナは駆け足で階段を降りてくると、右手に持っている籠を皆のいるダイニングテーブルの上に置いた。
籠の中には水晶のような石が付いたブレスレットが三人分とネックレスが二つ入っている。
「これ、さっきまで作ってた
ルナはそう言って籠を差し出し全員に魔晶石ブレスレットを渡した。
間に睡眠は挟んでいるが、昨晩から先程まで作っていたと彼女は話す。
魔晶石は大地から溢れた魔力が結晶化したもの。
それそのものは柔く、魔力も微量しかない。
魔法を付加させるのは難しいらしく、コツを掴むのに時間がかかったそうだ。
一つ目のブレスレットを作った時に試用はしており、しっかり効果は出ているから大丈夫だとルナは自信を持って話している。
虹色のような魔晶石はひし形の形をしており、ワンポイントのオシャレなブレスレットとして馴染んでいた。
三人は魔晶石ブレスレットを腕に付け各々でそれを眺めている。
「あと、瑠璃にこれを付けてもらいたいんだ。」
「……ネックレス?」
「うん。
身体に害はないから大丈夫だよ、とルナは微笑みながら話を続ける。
籠の中に入っているもう一つのネックレスは
無属性クリスタルとは名前の通り無属性の魔力を宿す水晶で、普通の水晶とは少し違い特殊な効果を
それに特定の場所を記憶させる事で迷うことなくアトリエに辿り着く事が出来るのだとか。
これと似たような物を作りたいんだ、とルナは話す。
「わかった。身に付けるだけでいいの?」
「うん! 自然と魔力が貯まっていくから満杯になったら完成!!……って言いたいところだけど、未知の領域だからやってみないとわからなくて。」
「そうなんだ。そっちの魔導コンパスはどうするの?」
「これは
すぐに渡せるかは様子見だという言葉に三人は怪訝そうな顔をしている。
彼が言っていた
下手をすれば戦闘になるだろうとルナは予測していた。
昨夜、念の為にと黒斗の防壁魔法を確認していたルナは、「これなら何かあっても多少は無事でいられるだろう」と
範囲は狭いがある程度の攻撃から二人を守れる程度にはしっかりと張れている。
物理攻撃を防ぐ防壁魔法が他の属性魔法を防ぐ事が可能かを検証出来るかもしれない。
ルナは色々考えながらも「なんでもない。」と皆に笑ってみせた。
「それじゃあ行く前に……。そのブレスレット……うーん、《スピーダー》って呼ぶ方がわかりやすいか。体感面では普段と変わらないから違いがわかりにくいだろうし、動作確認がてら一回別館の周りを順番に歩いてきてよ。」
外に出て、三人は言われた通り順番に別館をぐるりと一周する。
隣接する本館と大きさが違うとはいえどそれなりに距離はあった。
ルナの言う通り体感的には付ける前と変わらず、見える景色に違和感もない。
だが歩いている姿を見ると明らかに移動速度が上がっているのを確認出来た。
スピーダーは半日ほどで効果が切れてしまう代わりに、魔力をチャージする事で壊れるまでは何度も使えるらしい。
「直接魔法をかけるよりは手間が省けるし、何より黒斗の修行に必要だったしね。これから遠出する時は使ってくれていいよ!」
ルナはそう言ってニカッと笑うと「そろそろ行こうか」と犬の姿に変身した。
風魔法を唱えるとつむじ風がルナを囲んでいる。
三人は彼女についていけるのだろうかと少々不安だったが、いざ歩いてみると出会った頃とほぼ変わらない足取りで安堵していた。
アトリエを出て道すらもなく変わり映えもしない森の中、一時間も満たない頃にツタをはわせる大木を通り過ぎる。
少しだけ敷地を見て回っていた黒斗だけは、ここまでの移動にかかった時間が速い事に気付いていた。
確かにこのスピーダーがあれば敷地全域を野宿すること無く歩き回れそうだ、と魔晶石を眺めながら考える。
アトリエからここまでの道中で目印になるようなもの、印象的なものはツタをはわせる大木のみ。
ルナから貰った地図がない限り確実に遭難するだろう。
この先も見る限り歩いてきた道のりと似たようなものだ。確かに魔導コンパスというアイテムがあるのも頷けるな、と黒斗はそこで考えるのをやめた。
そのまま何事もなく西へ十五分ほど歩いた先で木々の密度が減り地面が少し広がった場所に出る。
少し休憩しようとレジャーシートを敷いて皆で座った時だった。
「……お? あれは……。」
人型に戻っていたルナは何かを感知し南側を向いて立ち上がる。
何事かと皆も同じ方向を向いた。
黒斗だけはビビっている。
「さっすが、ビビりの黒斗だなぁ!」とルナはからかいながらも、魔力感知で視たものに目を輝かせていた。
「あれは、くまくまベアーだ!! ちょっと行ってくる!!」
そう言って軽い足取りで走り出した。
「「「くまくま……くま!?」」」
三人はその名前にツッコミを入れルナが走って行った方向を見続ける。
どうやらこちらに向かってくるようで、遠目ではあるがくまくまベアーと呼ばれたものの姿が徐々にくっきり見えるようになっていく。
「アイツ、あの時の魔獣じゃね!?」
黒斗が半べそをかき逃げる体勢を取りながら様子を伺っていると、隣りにいる
「あの魔獣……私たちが知ってるのと
よく見てみるとその魔獣はグレイッシュレッド……つまり赤みのある毛並みをしている。
あの時、黒斗と
「おーい!!」
ルナは嬉しそうに両手を振りながらくまくまベアーの元へ近寄っていく。
魔獣の目はルナを睨みつけており、右手を振りかざし、その手が光り彼女を目掛けて何かを飛ばしてきた。
軽々とその魔法を避けると地面に直撃し、地面一帯が炎で燃え上がる。
「これ、ヤバいんじゃないかな……。」と瑠璃の表情がだんだん青ざめていく。
火が広がると大きな山火事となり、最悪アトリエまで被害が及ぶ可能性は十分にあった。
それだけ炎の広がりは速いのだ。
「
ルナが呪文を唱えると彼女の右手から大量の水が飛び出し、水の勢いで身体が宙に浮かんだと同時にそれが炎へ直撃する。
瞬く間に炎を消し去ったのだ。
宙に浮いた状態で「
ぶつかる直前で反時計回りに回転し勢いよく一蹴り入れると、魔獣は蹴られた方向へ勢いよく飛ばされていく。
地面に足を付けそれを見届けたルナの口角は普段以上に上がっており、まるで戦闘狂のような顔付きをしていた。
「おっまたー! 蹴り飛ばしてきたよ!!」
ルナはご機嫌な様子で三人の元へ戻って来るとレジャーシートの上に
一部始終を見ていた三人は言葉を失い呆然と彼女を見つめている。
視線を感じたルナが首を傾げていると、彼女の右隣に居る
「ルナ……あの……
「んー? あー、ボクが勝手に付けたアイツのあだ名だよ。だってアイツ、熊じゃん?」
「あの魔獣って何者なの?」
「実はボクもよく知らないんだよねぇ……。アイツ喋れないからさぁ。あ、でも
「知らんけど!」とルナは笑いながら話を続ける。
彼女の知る限り熊の魔獣は先程の種類のみ確認しており、毛並みの色によって使用する魔法が異なるようだ。
「えっとー、さっきのくまくまは火属性、黒斗と
「そうなんだ……。じゃあさっき言ってた
魔法には「火」「水」「雷 」「氷」「土」「風」「光」「闇」と複数の属性が存在する。
宝石は効能上
それが無属性クリスタルだ。
どの属性にも嵌らないからこそ、他属性の魔法や化合物を掛け合わせる事が出来るというが……。
「まぁ簡単に言うと、どの属性にも当てはまらないけど実際のところ何なのかわからないんだよね。例えようがないというか。」
「ふぇ……そうなの?」
「まだまだ調査が必要なんだよねぇ」と言い、ルナは考え込んでしまった。
無属性クリスタルは魔導具製作において必要不可欠な鉱物。
――コレ、探すの大変なんだよなぁ。
今までは修行と称してルナが収集していたが、魔力感知を発動しても遠くにある無属性は感知しづらく探すのも面倒だったと思い返していた。
――修行を始めて間もない黒斗に集めろって命じたらラクになるんじゃ……?
ルナの脳裏によからぬ事が浮かんだ。
「黒斗も魔力操作を習得すれば応用次第でこういうアイテムを創れるようになると思うよ。」
「えっ、例えば?」
「黒斗の場合は防壁魔法だから……防御力を上げられる魔晶石とか?」
「へぇ……。」
「反応薄っ!! もっと興味持ってよ!!」
「んな事言われてもなぁ……。」
――ぐぬぬ。この流れじゃ言いづらい……。どのみち今は探せないだろうしもうちょい先かも……。
ルナは肩を落とし、日を改めて話そうと決めた。
「あ、長話しちゃった。そろそろ行こうか。」
ルナは立ち上がり足をポンポンと叩き汚れを落とすと目的地のある方向へ身体を向け、皆を案内するのであった。
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