第41話 不穏

 陛下の執務室に入るのは初めてだ。緊張する。


「カンナです」


「入りなさい」


 部屋からナトムさんの声がした。

 重たい扉を開くと、机に座って書類作業をしている陛下と、陛下の横にナトムさんが立っていた。他に人はいないようだ。


 部屋はかなり簡素だった。王の執務室なので、金ピカの部屋を想像したのだが、家具も壁も装飾も少なく地味な印象だ。部屋もそこまでは広くなかった。


「今日は侍女ではなくカンナが持ってきたのですね」


 カートに乗っているお菓子と私を見てナトムさんがにこやかに言った。お菓子を持って行くのはいつも侍女の仕事なのだ。


「はい。今日のおやつは1品、新作を作ったので、陛下の感想が聞きたくて」


 私が答えると陛下は初めて顔をあげた。

 眉間にシワが寄っている。お疲れのようだ。


 陛下が座っている机までカートを近づけて、陛下からお菓子を見えるようにした。


 今日のおやつは、この国の伝統菓子であるサーターアンダギーみたいな砂糖をまぶした揚げ菓子と、クルミとアーモンドの蜂蜜漬けと、プリンと、新作の砂糖不使用ドライフルーツだ!


 「陛下、ドライフルーツを作ってみました。一口食べてみて下さい」


 イチジクを陛下に渡し食べてもらった。


「上手いな、自然の甘さだ。砂糖に慣れすぎて果物の甘さを忘れていた。これはいい」


「ありがとうございます。では今後は、おやつのレパートリーに入れますね。では今日のおやつはどれにしますか?」


 おやつは選択式だ。ダイエットの為、食事内容は私が決めてしまっているので、せめておやつは選択式にしている。


 いつもは口頭で今日のおやつの種類を伝えてどれにするか決めてもらうのだが、今日は侍女ではなく私が持って行くので、全部まとめて候補のおやつを持って来てしまった。


 陛下はすごい真剣に悩んでいる。その姿が子供のようで、可愛いなと思って笑いそうになってしまった。


「カンナ、これは何で半分だけなのだ?」


 陛下はサーターアンダギーみたいな揚げ菓子を指差した。


「おやつは200キロカロリーまでと決めているので、1個丸々はカロリーオーバーなんです。だから200キロカロリー内におさまるように包丁で半分にカットしました」


「丸々1個はダメなのか?」


「いいですよ。でも1個食べるとなると明日はおやつ無しになっちゃいますがいいですか?」


「……」


 あ、また悩み出した。


 結局、陛下は悩み抜いてドライフルーツを選択した。陛下の横で様子を見ていたナトムさんが私に話しかけた。


「カンナ、残りのお菓子はいつもどうするのですか?」


「大臣や高官の方々に配っています。高級食材も使ってるので厨房の人間で食べるわけにはいかないですから。勿論、大臣達からいらないと言われたら厨房の皆んなで食べますが」


「あなたはそういう所、真面目ですよね」


 ナトムさんが変な所で感心していると、それまで黙っていたマグシムが言葉を発した。


「陛下、例の件で最終報告が出ましたので報告させて頂いても宜しいですか?」


 あ、まずい。お仕事の話だ。退出しなきゃ。


 私が急いで片付けていると、ナトムさんに留まるように言われた。


「カンナ、あなたも関係する話です。先日コバト大臣が殺されかけた件です」


「え!」


 以前キノコ料理を陛下に出した時、コバト大臣のパン皿にだけ何故か毒が塗ってあったのだ。結局、犯人と疑れた厨房の男は地下牢で何者かによって殺されてしまった。


 マグシムは私を見てから陛下に視線を戻した。


「犯人は地下牢で亡くなったあの男で間違いないようです。調べた所、どうやら彼は博打で多額の借金を背負っていたようで、ガラの悪い連中が何度も家に返済を求め訪れていたようです」


「そこに黒幕が大金の報酬をチラつかせ毒殺に協力させたという事ですか?」


 ナトムさんが腕を組みそう答えると、マグシムは頷いた。


「はい、おそらく……しかし男はただの実行犯で黒幕には辿り着きませんでした。そして問題なのはカンナがキノコ料理を振る舞った食事の席で、カンナと仲が悪いコバト大臣が毒殺されそうになった事です」


「カンナを犯人に仕立て上げようとしたのでしょうか。コバト大臣の自作自演の可能性もあるのでは?」


 そう言うとナトムさんは私をチラッと見た。


「その可能性もありますが分かりません。カンナを邪魔だと思う人間は沢山いますし、単純にコバト大臣を消したかっただけの可能性もありますから」


 ナトムさんは溜息をこぼした。


「森でカンナが殺されそうになった件も犯人は見つかっていませんし、困りましたね」


 部屋に沈黙が流れると、しばらく黙って話を聞いていた陛下はゆっくりと口を開いた。


「黒幕が分からなかったのなら、仕方あるまい。ただ、必ず近い内に動きがあるはずだ。マグシム、少しでも不審な動きがあったら私に報告しろ」


「はい」


「それから、カンナ」


「え、はい!」


 陛下に呼ばれ背筋が伸びた。


「お前はこれからも危険に巻き込まれる可能性が十分にある。城の中でも油断するな。そして人が多い厨房以外に行く時は、複数の衛兵かマグシムを護衛に付けろ。いいな」


「は、はい……」


 断言できる。

 自分の顔は、今絶対に真っ青になっているはずだ。


 怖いよ〜。

 神様、お願いだから日本に返してぇぇ!

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