第34話 小さな一歩
「おい今、陛下からいただいた物を売ったと言ったのか?」
マグシムが驚愕の表情でこちらを見る。
「だからそうだって……もう! この間、料理長にこってり怒られたから、お願いだから親子そろって怒らないで」
「嘘だろ。信じられない。普通、家宝にするだろ。お前やっぱり、頭ぶっ飛んでるな」
マグシムが希少生物を見るような目で見てくるので少し傷ついた。
「私だって、売りたくなかったけどさ。現金が無いんだもん」
「陛下は売った事知ってるのか?」
「事後報告だけど。どこからそんなお金出てきたんだって聞かれたから、正直に応えたよ」
「陛下は何て?」
「そうか、って」
「マジかよ……他の国の王だったら、こんな事したら激怒して、下手したら処刑もんだぞ。は〜お前みたいな変人、この世に存在するんだな」
「そりゃどうも」
マグシムと話しているうちに学校に到着した。ちょうど昼の時間を知らせる鐘が、神殿から聞こえる。
早い時間に城を出て、いくつもの学校を回り、ここが最後の学校だ。何とか間に合った。
「カンナ! お腹空いた!」
「あ、ミネル君だ! おーい!」
最後の学校はミネル君が通っている学校だ。窓からミネル君や、他の生徒も顔を出して手を振っている。
お昼の時間に突入してしまったので、いつもは先生が食事をよそって生徒に渡すのだが、今回は私も手伝った。
先生がパンを配っている間に、私が鍋のフタを開けて、子供達が家から持参した器にスープをよそっていく。
今日の献立はパンと、豆や野菜やベーコンがたっぷり入ったクリームシチューだ。ベーコン以外は残り物で作った。本当ならパンとスープ以外にも食べさせてあげたいが、今は仕方無い。
それでも、食事を渡した時の子供達の嬉しそう顔を見ると、やって良かったと思える。
「わぁ、お姉ちゃんありがとう!」
あの女の子だ。前に私が授業で答えられずに落ち込んでいた時に声をかけてくれた子。この子はお昼の時間に、ご飯を食べている子を見ないように、下を向き必死に復習をしていた。その子が今、嬉しそうにスープを食べている。
子供達の笑顔を見て自然と顔がほころんだ。
それにしても、私が最初に来た時より生徒がかなり増えている。やはり給食の影響はかなり大きかったようだ。
今まで教育は必要無いと言っていた親達も、昼ご飯が食べれるならと、子供を通わせるようになったとか。
ミネル君が売れなかったパンを無償で配っている貧民街の子供達も、学校に通えるようになったらしい。
ただ、生徒数が増えると、それだけ食数も増える。肉や魚は城でも余る事はあまり無いから、今の募金の額では足りなくなってしまうだろう。厨房以外の場所でも募金をお願いしなくてはいけないかもしれない。忙しくなりそうだ。
それから数日後――その日はマグシムは急用の為、他の衛兵さんが護衛に付いてくれていた。
「カンナさん、近衛騎士でなくて申し訳ありません」
同じ歳くらいの衛兵さんが申し訳なさそうに頭をかいた。
「とんでもないです。こちらこそ付いて来てもらって申し訳ありません」
全ての学校に給食を配り終わり、衛兵さんと仲良く帰っている時だった。
いきなり目の前に数人の男達が立ち塞がった。
……なんか嫌な予感。
男達は皆、屈強な体つきをしている。
その男達の真ん中に40代位の男が立っていた。上等の絹の服を着ている。ひと目でただの平民でない事は分かる。
「あなたがカンナさんですね」
「いえ、違います」
「嘘をつかずとも良いですよ」
分かってるなら聞くなよ。
私が睨むと、その男は髭を撫でながら、にこやかに笑った。
「カンナさん、少しお話ししませんか?」
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