第32話 他の方法で

「ナトムさん、お疲れ様でした」


「カンナ、私の力不足で申し訳ない」


 学校給食の議案は承認されなかった。

 過半数いかなかったのだ。

 過半数まであと少しだったのに……学校給食の道は閉ざされてしまった。


「ナトムさんのせいではありません。元から難しい案件だったんです」


「私の根回しも足りませんでした。それにコバト大臣に恨みを買うまいと、席を立たない議員もいましたからね」


 そうか、そういう所も計算して根回ししなくてはいけないという事か。熱意や必要性を訴えても、必ず全ての議員に思いが届くわけじゃ無い。


「陛下は味方してくれると思ったのに……」


 この給食の話をした時に陛下は良い考えだと言っていた。だけど議会では一切助けてくれなかった。


「カンナ、陛下は何でも味方してくれるわけではありません。反対意見が多い中で陛下が無理やり賛成を促せば、議会はその案を承認せざるを得ない。過半数で決める議会の存在意義がなくなります。勿論、陛下が意見を言う事はありますし、最終的な決定権は陛下です。ですが、基本的に陛下が誰かの肩入れをする事はありませんし議会の決定を覆す事もありません」


「はい……分かりました」


「カンナ、あの時、陛下が味方をしなかったのは、あなたを守る為でもありました。魔女だと騒がれているあなたに、陛下が味方につけば、要らぬ敵を作ってしまいます。だから陛下は黙っていたのです」


「……はい」


 なかなか思うようにはいかないものだ。こんな小娘の案が、議会の承認を得ようなんて無理だったのか。


「とりあえず、この件は一旦保留です。1度失敗してしまったので、再挑戦しても、なかなか承認は難しいでしょうが、諦めず作戦を練り直しましょう」


「はい」





 その夜――部屋に戻ると、のろのろと移動し窓際の机に座った。


 机にあごを乗せて窓の外を眺める。当然、夜なので外は真っ暗で、景色は見えない。


 きっと陛下が味方してくれるから大丈夫だと、どこかで安心していたんだ。自分の愚かさにうんざりする。結局、自分は1人では何も出来ないのだ。たとえ、ご飯が食べれない子供達に何かしてあげたいと思っても。


 深い溜息を吐いて、窓から視線をずらすと、ある物に目が止まった。


 机の端に飾ってあるそれは……陛下から貰ったサファイヤの耳飾りだった。 


「そういえば、自分が身に付けるには不相応じゃないかと思って、一度も付けていないんだ」


 耳飾りをじっと見つめる。


 こんな夜中でも蒼く光輝いていて、とても美しい。観賞用にはピッタリだ。


「本当に綺麗だなぁ」


 まさか、自分が異世界とはいえ王様から宝石を贈られるなんて、誰が予想出来ただろうか。


「家宝にするかな。もし生き延びられたらだけど」


 サファイヤを人差し指でつんとつつく。


 案が通らなかったショックは大きいが、それでも議会に参加した事によって、より決意は強まった。


 絶対にあの子達にご飯を届けたい。小さな事しか出来なくても助けたい。


 私は管理栄養士だ。

 そして既に食べ物が食べれない残酷な世界を知ってしまった。議会で案が通らなくても、自分1人では何も出来なくても、仲間を集めれば可能かもしれない。


 もう一度、陛下から送られた耳飾りを見る。そして、慎重にその耳飾りを手に取った。すごく重たい。


 陛下は優しい人だ。これからやる事もきっと分かってくれる。


「じゃあ、いっちょ頑張りますか」

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