第121話 【生配信回】ユイちゃんネルの第3階層攻略①

 紗夜の依頼は、割と簡単なものだ。


 紗夜たちの生配信の撮影に、裏方として同行して欲しいというもの。


 ただし、その途中で、本当にどうしようもない大ピンチが訪れたら助けて欲しいとのことだ。


 それは紗夜たちに限らず、他の冒険者たちのピンチも含む。


 紗夜としては、おれたちにいい印象を持たない者たちがピンチのときにこそ、おれたちが助けに入って「やっぱりモンスレさんはすごい! 頼りになる!」と言わせたいらしい。


 そんなに上手くいくとは思わないが、おれたちも第3階層の様子は直接見ておきたかったのもあって、引き受けたのだ。


 で、おれとフィリアが行くとなれば、ガードの役目があるからと丈二もついてくる。そして丈二が来るならロザリンデも一緒になる。


 この4人なら戦力としては最強に間違いないが、あくまで主役は紗夜と結衣。本当のピンチが来ない限り、おれたちは基本的に手は出さない。


 またみんなの活躍を奪っていると思わせないためだ。


 というわけで、第3階層。聞いていたとおり、第1階層に近い洞窟の中、撮影を開始する。


 おれがスマホカメラを構え、フィリアは魔法で光源を確保。丈二はコメント確認用の画面を持ち、ロザリンデは周辺を警戒してくれる。


 ネットで事前に予告しておいた時間になって、配信開始。前髪を上げて気合を入れた結衣が、手を振りながらカメラの前に現れる。


「こんにちはー! ユイちゃんネルのユイちゃんです!」


「こんにちは、ユイちゃんネルの、紗夜です」


「今日は生配信で第3階層攻略の様子をお届けするよー! みんなー、応援してねー!」


"はじまった"


"応援するよー"


"ユイちゃんかわいい"


"紗夜ちゃん、前よりかわいくなった?"


"ダンジョンから生配信、だと?"


"中でネットできるようになったのは本当だったのか"


"これ、誰が撮ってんの?"


「はい、今日は他の冒険者さんに撮影をお願いしています。さすがに自分で撮影しながらは大変なので」


「なのでそこそこ経費かかってます! 良かったら支援してねー! なんちゃって」


"いいや! 限界だッ! 支援するね!"[¥10000]


"これでスタッフさんに飲み物でも……"[¥1500]


「わ、本当に支援してもらえちゃった! みんなー、ありがとー! ユイ、ご期待に応えられるように頑張りまーす!」


「ありがとうございます! ではでは、さっそく攻略開始しますね。といっても、なにか起こるまでは暇なので、それまでは雑談しつつ、コメントに答えていこうと思います」


 という感じで、第3階層の奥へと進んでいく。


「第3階層は、もう結構攻略が進んでて、マップも共有されてるんです。それで、第4階層があるとしたら、入口はここじゃないかって予測されていたりします」


「でも、すごく強い魔物モンスターがいるみたいで、みんな前に進めてないらしいんです! 今日はユイたちも、その魔物モンスターに挑戦です!」


"ボスモンスター的なやつなんかな?"


"なんか賞金出てるらしいね"


"危なくなったら逃げてね!"


"こんなかわいい子たちがモンスターにやられるところなんて見たくない"


"(この流れ、やられてるところも見たいとは言えないな……)"


"なあに、いざとなれば変身がある"


「いや、変身してもべつに強くなるわけじゃないですよー」


"でも期待してる"


"かっこかわいいところ見せてね!"[¥5000]


「えっと、まあそれは機会があれば……」


"あんまり乗り気じゃない?"


"大丈夫、紗夜ちゃんはやってくうちにノリノリになる"


 などと雑談混じりに進んでいく。すでにマップがある分、迷いはない。


 やがて何度か魔物モンスターに遭遇するが、紗夜も結衣も危なげなく撃破していく。


 苦戦報告の相次いでいた、ラギッドボアを相手にしても楽勝ムードなくらいだ。


 装備が以前より良い物に更新されているが、ふたりのスタイルには大きな変化はない。紗夜がクロスボウから、ショートボウに変えているくらいだ。


 紗夜は基本的に遠距離から矢を射かけ、状況によっては剣を抜き、必要に応じて魔法で対応する。一方、結衣は大盾で紗夜を守りつつ敵に肉薄、より大きく威力を増したメイスで叩く。


 あらゆる敵に対応できる紗夜の多彩さと、その紗夜をどんなときも守りきる鉄壁の結衣。シンプルだが非常に強力なパーティだ。


 第3階層の先行調査にも参加していたと聞いていたが、ここまで成長していたとは、なんだか鼻が高い。


"そうだった、この子たちかわいいけどめちゃ強いんだった"


"かわいい子の真剣な眼差しっていいよね"


"いい……"


 そうして順調に進んでいき……。


「そろそろ、噂の強敵魔物モンスターが出るっていうポイントです」


「待って。もう誰か戦ってるよ!」


 結衣が指差す方向にカメラを向ける。広い空間の中、3人の冒険者の姿がある。対峙しているのは、大型の爬虫類だ。


 四足歩行で俊敏。硬い鱗は生半可な攻撃を弾き、口からは炎を吐く。


「なにあれ、ドラゴン!?」


「イメージよりかっこよくないっていうか、動きがキモいです!」


 結衣の印象は正しい。特徴だけ挙げれば火炎竜レッドドラゴンのようでもあるが、ドラゴンはもっと大型で、それゆえに鈍重だ。そして知能も非常に高い。こんな本能に任せたような動きはしない。


 あれは火蜥蜴サラマンダーだ。


 ドラゴンより遥かに格下だが、第3階層の他の魔物モンスターと比べれば確かに強敵だ。


「よ、よくわかんない敵ですけど! あのパーティ、苦戦してるみたいです! 共同戦線を張ろうと思います!」


 そして紗夜はカメラに――いや、おれに目を向けた。


「見守っていてください」


 おれはカメラを構えつつ、小さく頷く。親指を立てて返す。


 紗夜と結衣は一斉に駆け出していった。


"見守ってるよー!"


"撃破期待してる!"


"がんばれー!"


 視聴者コメントと同じ気持ちでおれは彼女らの背中を見送る。


「あの! ユイちゃんネルの紗夜と結衣です! 助太刀します!」


 相手の冒険者は、髪を金色に染めた荒っぽそうな女性だった。実際、荒っぽい声が返ってきた。


「あぁ!? んだよ、モンスレの取り巻きかよ? いらねーよ! 獲物横取りされたらたまんねーし!」


"うわ、感じ悪っ"


"今までにないタイプ来たな"


"紗夜ちゃんどうする?"




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果たして紗夜は、感じの悪い女冒険者にどう対応し、火蜥蜴サラマンダーとどう戦うのでしょうか!?

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