第101話 オール電化ならぬオール魔化

 おれの提案に、丈二はやっと笑みを見せた。


「なるほど、ファンタジーらしくなってきましたね。具体的には、どのように?」


「例えば、電気やガスの代わりに、魔力石と魔力回路を使うとかね」


「フィリアさん、魔法で電気を生み出すことはできるのですか?」


「電撃魔法がありますので、上手く調節できればきっと……。それに、明かりや暖を取るのでしたら、魔力から直接、光や熱を生み出せば良いかと」


「それなら生活については楽になりそうですが……さすがにインターネットはどうにもなりませんね?」


 フィリアは残念そうに頷く。


「はい……。わたくしもぜひインターネットは欲しかったのですが、今のわたくしの魔法知識ではどうにもできそうにありません」


「リモートワークができない以上は、宿に住み着くわけにはいきませんが……」


 そこでおれが口を挟む。


「でも、そもそもリモートワークは、通勤が大変だから必要なんだよね? だったら、通勤が楽になればいい」


「それは、まあ。安全で高速な移動方法でもあれば……。そうか、一条さんが使っていた、飛行魔法をご教授いただけれるのですね?」


「それもいいけど、あれは結構難易度高いから、まずはべつの手段。フィリアさん、従えた魔物モンスターを、馬みたいに乗りこなすことはできるよね?」


「はい、もちろん可能です」


「なら丈二さんには、グリフィンを乗りこなしてもらう」


 丈二は目を丸くした。


「グリフィンを、乗りこなす?」


「ああ。おれたちの先行調査と、今上がってきてる大規模調査の報告からしても、第2階層最強の魔物モンスターはグリフィンだ。安全確保のために飼い慣らすわけだけど、せっかくだし、他のことでも役に立ってもらおうよ」


「空を飛ぶ魔物モンスターに乗って、出勤というわけですか?」


「飛ぶのは第2階層限定だけどね。ダメかな?」


「いえ……いえ! とても素晴らしい提案です。私の中の少年が熱くなります」


「丈二さん、そういうの好きだもんね。まあリモートワークじゃないから、ロゼちゃんと四六時中一緒にいられるわけじゃないけど」


「それはまあ、一般的な夫婦でもそうですし、大丈夫ですよ。それに、第1階層にも仕事場ができる予定なのです。そこでなら、ロザリンデさんも同行できるかもしれません」


 その発言に、おれとフィリアはくすりと笑ってしまう。


 今、ナチュラルに夫婦って言ったね。


 言いました言いました。


 声は出さずに、視線と仕草でフィリアと語り合う。


 丈二はやはり自覚がないらしく、首を傾げる。


「なにかおかしかったですか?」


「いや気にしないで。とにかく、工事でできないことは、魔法や魔物モンスターで補う。そういう感じでいいかな?」


「ええ、オール電化ならぬ、オール魔化の宿といったところですね」


「魔化って書くと、だいぶ字面の印象が悪いけどね」


「では私は改めて資料をまとめて、この方針を上に伝えてみましょう。少し時間がかかるかもしれませんが、今度こそ通してみせますよ」


 丈二はやる気に満ちた目を見せる。おれも力強く頷きを返す。


「オーケイ。ならおれたちは、その間にグリフィンを手懐けておこう。ロゼちゃんに伝えておきたいことはあるかい?」


「そうですね……。では……信じて待っていて欲しい、と。いつまでも寂しい思いはさせない……と」


 やっぱりどう聞いても、恋人への言葉っぽいんだよなぁ。


 とか思いつつ、おれは頷く。


「わかった。伝えとく。じゃあ、行こうかフィリアさん。まずはミリアムさんの店だ」


「はい、武器を新調せねばなりませんものね」



   ◇



 こうして武器屋『メイクリエ』へ訪れたところ……。


「いらっしゃいませ。……おや、一条先生にフィリア先生?」


「あれ、君は……」


 店番をしていたのはミリアムではなく、穏やかそうな若い青年だった。


 見覚えがある。魔法講座のとき、紗夜や丈二と並んで、才能を発揮していた青年だ。


「確か、早見はやみ敬介けいすけくん……だったよね?」


「覚えててくれたんですね」


「まあね。でもどうしたの、こんなところで」


「見ての通りの店番ですよ。ここの店員なので」


 フィリアは感心して胸元で手を合わせる。


「まあ。ミリアム様は、いよいよ人を雇ったのですね」


「僕が押しかけたみたいなものですけどね」


「冒険者の仕事はいいのかい?」


「あっちはぼちぼちです。もともと僕は、聖剣とか魔剣とか魔道具とか、ファンタジーなアイテムに興味があったんです。せっかく魔法があるんですから、それを生活の役に立たせてみたいんですよ」


「へえ、それはいい考えだ」


「まあ、まだ全然なんですけどね」


「どんなのを作ってるんだい?」


「んー、まだ構想ですけど……。魔法をプログラムで再現して、スマホアプリで発動させようとしてみたり、魔素マナで通信してみたり? 全然、上手くいってな――」


「通信、ですか!?」


 フィリアが激しく食いついた。


「そ、それはインターネット的ななにかですか?」


「え、いや、そんな大したものじゃないですけど……もっと応用すれば、それもできる……かも?」


「詳しくお話を伺っても!?」


「えっと、べつにいいですけど……あ、いや、でもおふたりとも、今日は買い物ですよね?」


「それは後でもいいのです」


「いえ、今日は買い物して早めに帰ったほうがいいと思います。なんか店長、おふたりにカンカンでしたので」


「えっ」


「この前の生配信で宣伝してくれたのはいいですけど、それで忙しくなっちゃって。今は一旦落ち着きましたけど……店長、今度顔を見せたらただじゃおかないって言ってました」


「あ……。迂闊でした。あれはつい癖で……。で、では今日のところは早めに退散を――」


「もう遅いぞフィリアー!」


「ひぁああ!?」


 気配もなく背後に現れたのはミリアムだった。


 フィリアを羽交い締めにして、ふふふふっ、と邪悪に笑う。


「覚悟しとけって言ったよねぇ。なのに来たってことは、『覚悟して来てる人』ってことだよねぇ……?」


「やめてくださいミリアム様! ご勘弁を!」


「問答無用~! フィリアにはおもちゃになってもらう!」


「な、なんてことだフィリアさんがおもちゃにされてしまうー」


 女性ふたりのくんずほぐれつな様子を期待して、おれはつい棒読みセリフを言ってしまうのだった。




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次回、拓斗とフィリアはまともに買い物できるのでしょうか?

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