前世の記憶
シャーロット・ルーウェンという少女には、物心がついた時から違和感があった。
毎晩のように夢に見る知らない誰かの記憶。
この国ではない懐かしい何処か。
単なる子供の空想かと言えばそうなるが、それにしては妙にリアルな感覚に疑問を持っていた。
そしてシャーロットが“その事”に気が付いたのは7歳の春。
この国の第一王子であり婚約者のイアン・ウィル・ステファンとの初の顔合わせがきっかけだった。
初めて見るはずなのに何処か見覚えのある彼の顔を見た瞬間、シャーロットは全てを思い出したのである。
齢7歳という幼い少女にとって、前世で自分がプレイしていた乙女ゲームの【どのルートでも死亡フラグが立つ悪役令嬢】に転生したという事実はあまりに大き過ぎた。
その為、第一王子に会った瞬間シャーロットは気絶し、1週間。熱に浮かされ続けたのであった。
………… …………
あぁぁぁぁ!!どうしよう!?
落ち着け私。焦っても仕方がない。
まずは状況を整理してみよう。
私は1週間前に婚約者との初の顔合わせで倒れてしまった。
そして、その時とても重大な事を思い出したのだ。
どうやら私は【転生】というものをしてしまったらしい。
まるでゲームや空想の世界の話のようで現実味が無いけど、事実この体の主は私じゃないし...。
けどこの際そんなことはどうでもいい!
それよりも問題なのは私が転生した人物。
近くにあった手鏡を取る。
そこに映る少女の容姿は幼いにも関わらずとても美しい。まるで本やゲームの中の人物のように...。
まぁそれもそのはず、私が転生したのは前世でプレイしていた乙女ゲームの【悪役令嬢】。
西洋ヨーロッパ風のファンタジーを舞台にした世界で、貴族や魔力を持つ者が通うルーナロッサ学園。
そこに入学してきた魔力の才能を持つ平民の主人公が様々なイケメン攻略対象と恋をする、The・王道って感じの乙女ゲームだ。
悪役令嬢もといシャーロット・ルーウェンという令嬢はこのゲームに出てくるいわゆる【邪魔者】。
公爵家の一人娘として幼少期から両親に蝶よ花よと育てられたことによって自分の気が済まないと許さない、とんだ我儘令嬢に育ってしまったんだけど...。
その結果、メイン攻略対象のイアンルートでは良くて国外追放。悪くて処刑。
良くも悪くも公爵家の没落は確実。
最悪だ...。
前世では、17歳までしか生きられずに終わってしまったのに、また早死するなんて絶対に嫌!
今世こそは、のどかな領地にでも行ってのんびり平和な田舎ライフを過ごしたい。
それに両親や使用人も大切な家族。皆優しい人達だし...。
私のせいで家が没落して路頭に迷うなんて可哀想過ぎる。
あぁ~どうすれば良いの~....。
途方に暮れていたその時、誰かが扉をノックした。
「どうぞ。」
一声かけると聞き慣れた声が返ってくる。
「失礼します。シャーロット様、ご気分は如何でしょう...?」
そこには、私の専属侍女であるマーガレットが立っていた。
「大丈夫。ありがとう、マーガレット。」
そう言うとマーガレットは心配そうな表情で言った。
「それなら良いのですが...、顔色が少々悪いのでハーブティーをご用意致しますね。それと今日、婚約者様が見舞いに来るとのことです。」
「見舞い?」
「はい。午後に第一王子イアン・ウィル・ステファン様が見舞いに来るとお聞きしています。」
「...今日の、午後に来る?」
「はい。」
「...第一王子の、イアン様が?」
「はい。」
どうやら今日、私の第一の死亡フラグとなる人物が見舞いに来るらしい。
何度も頷くマーガレットを見て思った。
こんなことになるならもっと気絶しとけば良かったと...。
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