99話 目標達成の確認
――年が明けた。
俺たちは約束通り、一年前に立てた目標が達成できているかどうかの確認のために初詣に来ていた。
千彩都と開渡を加えた六人は久しぶりだ。
冬矢の歩くスピードがゆっくりになるので、人混みに揉まれる浅草寺は避けて、俺たちは人の少なそうな神社に来ていた。
参拝してから出店で食料を調達し、落ち着いた場所に移動した。
立てた目標を達成できなかったら何か一つ秘密を暴露するという話だった。
ちなみにそれぞれの目標はこうだ。
俺は『テストで一位取ること』。
冬矢は『一年間で五十ゴール決めること』。
千彩都は『週に一度は家で料理手伝うこと』。
開渡は『地区優勝して都大会ベスト8』。
しずはは『国際コンクールでダントツの一番』。
深月は『しずはが出場しないコンクールは全部一位取ること』。
人によっては難易度が違うが、どれも難しい目標だったはずだ。
「じゃあ俺から。一位はとれなかった。というか一位って超ムズい。頑張ったけど最高は六位だったなぁ」
勉強は頑張ってはいたけど、上には上がいる。でも最後のこの一年間は六位よりは上を取りたい。
「俺たちの中じゃ光流が一番勉強できるしな。まぁ善戦したほうだろ」
冬矢がフォローしてくれる。
そんな冬矢の目標は……。
「この通り無理だった。怪我する前でも十五ゴールはしてたから、年間だったらいけてたと思うんだけどな」
冬矢がプレゼント交換でもらった深月手作りの手袋をつけながらそう言った。
ちなみに深月も冬矢の手袋をつけてきていた。
「まぁ、大変だったよな。俺も腰痛めてた時期あったし、スポーツに怪我はつきものだ」
開渡がそう言った。
そういえば開渡は昔よりもイケメンになってきている気がした。彼女ができると変わるのかな。
「去年のおみくじ凶だったからな〜。まぁ、全部が凶だとは言えないけど……なっ、光流?」
「なんでそこで俺に振るんだよ」
冬矢が突然俺に視線を向けてくる。
バンドができるからって話だろうけど。
「俺は目標達成したぞ。都大会ベスト4まで行った。関東大会はベスト16だったけど全国の道のりはまだ遠いわ」
目標達成した開渡にもまだ壁があるようだった。
「とりあえずおめでとう。じゃ三年になる今年が勝負だね」
「あぁ、そうだな」
テニスは競技人口も多いだろうからな。上に行くにはかなり大変だろう。
「じゃあ私ー! 料理は普通に毎週は無理でした! なんか途中で諦めちゃったというか、強制されてる感が私には向いてないらしい」
千彩都は達成できなかったらしい。、
「確かにそういう人はいるかもね。将来社会人になれる?」
「あー、どうだろ。あはは」
大人になればもっと拘束感が増えるだろう。
多分目標の決め方が良くなかったと個人的には思った。
何かのために目標を立てるのであって千彩都の場合はちょっと違う。これが開渡の為に週に一回はお弁当作るとかなら結果は違ったかもしれない。
「私は一応今出られるコンクールでは、多分頑張れたと思うな」
しずはの目標。世界には多数の国際コンクールがあるが、彼女の中では満足した結果のようだった。
最近のピアノ事情はよく知らないけど、学校が休みの日は結構忙しくしているらしい。
「そっか……おめでとう」
「凄すぎて凄さがよくわからなくなってきてる」
「私は私は普通だから。意外とそんなもんだよ」
実力は秀でていても、プライベートを派手にしているわけではない。
そういう人もいるだろう。
「私も達成したわよ。しずはが出てないコンクールでは総ナメしたわ」
深月も達成したらしい。そもそも才能があったからな。
しずは以外に負けては彼女のプライドが許さないだろう。
深月も世界進出していくのだろうか。
「ってことで皆揃ったな」
全員が目標を達成できたかどうか確認し合うと、パンっと手を叩き冬矢が話し出す。
「達成できなかったのは俺に光流に千彩都。ペナルティは何か一つ秘密を暴露すること。覚えてるな?」
皆コクコクを頭を縦に振る。
「じゃあ俺から。中学卒業したら秋皇学園に行こうと思ってる。まぁ多少はレベル高いけどな」
「マジ!? てか進路決めるの早いな。まぁ俺らも頑張ればいけなくもないところかもな」
秋皇学園。多少なり偏差値の高い高校として知られている。
なによりこの高校が人気なのは、自由度が高いとして校風だからだ。
やりすぎなければ見た目のお洒落もある程度は許容されており、さらに帰国子女枠もあることから多数の帰国子女もいるという話もある。
「一番の理由はあそこの女子の制服すげー可愛いんだよな」
「またそういうの〜。まぁ私でも可愛いと思うけど」
冬矢の理由は単純なものだった。
千砂都も同意するほどだ。相当可愛いのだろう。
確かに自由度が高い校風は俺も良いなとは思う。
「だからよ。俺はお前らとせっかく仲良くなったからさ。できれば同じ学校行きたいと思ってる」
「それって……」
冬矢の言いたいことがここで理解できた。
「――お前ら行きたい学校決まってないなら、
「…………」
俺達は互いに顔を見合わせた。
まさか冬矢がこんなこと言い出すなんて。
他にも友達は多いだろうに。俺達にだけ言っているのだろうか。
「いきなりだな。……俺はどこにいてもテニスはできるけどな」
「私も大学ならまだしも、どこの学校って執着してるわけじゃない」
開渡と千彩都は今のところ高校のこだわりはないようだ。
俺もどこの高校にしたいというのは今は特にない。
何かしらの部活の強豪校に行きたいという人なら別かもしれないけど、そうではないしな。
「俺は同じ高校でも良いよ。知ってる人いた方楽しいだろうし」
「さすが光流〜っ! でも強制はしてないからな? 行きたいとこあるなら遠慮すんなよ」
もし高校に入ってもバンドするなら一緒の方が良いだろうし。
「しずはと深月はどうなんだ?」
冬矢が二人に聞いた。
「ん〜ほとんど考えてなかったな。高校にはこだわりないけどね」
「私もこだわりはない。それに知ってる人がいた方が良いっていうのはわかる……」
しずはと深月が答える。
深月の場合は知り合いがいた方が過ごしやすいだろうな。
特にしずはと一緒なら。
「三年になったら進路相談あるだろ。その時には多少なり方向性が見えてくるだろ」
いやでも考えさせられる時期は来るだろう。三者面談もあるだろうしな。
進路は親とも相談しなきゃならない時がくる。
「光流はどうなの?」
さっき言ったはずだが、再度しずはに聞かれた。
「俺は冬矢と同じ高校でも良いと思ってる。こだわりないからね」
「ふーん。そっか」
「なんだよ〜」
なんだか歯切れが悪い。
「…………私も行こうかな。光流も冬矢もいたら楽しそうだし」
「いいぞいいぞー! こいよ!」
何も決めてなかったしずはだが、俺たちの話を聞いてか方向性を決めはじめていた。
冬矢もそれを煽った。
「――とりあえずこの話はもういいから進めようぜ」
進路の話は長くなりそうだ。
今は秘密の暴露の話だからな。
「じゃあ次私ー!」
順番的に俺が言おうと思ったけど、千彩都が割り込んできた。
「私の秘密は〜、実はこの一年でアイドルオタクになりました!」
えええ!? と驚くことではないけど知らなかったことではある。
「どんなアイドル好きなんだよ?」
冬矢が聞いた。
「と言ってもイケメンの男の子とかじゃなくて女の子! しーちゃんも深月ちゃんも可愛いけど、アイドルってまた違うの。キラキラしてるって感じ!」
「へぇ〜。俺にはあんまわからないけどアイドルってあんま歌うまいイメージないんだよな」
アイドルによるだろうけど、少しはわかる。
ダンスが激しくてテレビの生中継だと口パクも多い気がするし。
「ふふふ。冬矢、甘いよ。その下手な感じもいいんだよ。実際にライブに行ったらハマっちゃうんだなこれが」
「だからファンもつくんだろうな」
ドヤ顔で千砂都が言う。ちょっと生き生きしているのが、面白い。
開渡的にはこういったものは大丈夫なのだろうか。
「ちなみに開渡にもちゃんと言ってるよ」
「男性アイドルなら少し思うところがあるけど、女性アイドルなら全く気にしてないよ」
「理解ある旦那だな」
「でしょ〜っ」
"旦那"という冬矢の茶化しも綺麗にスルー。
ちょっとやそっとじゃ二人の関係は壊れそうになかった。
ただ、恋人になれば趣味のようなことも相手に確認をとったほうが良いのだろうかと感じた。
全て受け入れるのは難しいことだとは思うけど、趣味を理解してくれる恋人は嬉しいはずだよな。
「じゃあ最後は俺だね」
俺にとっての秘密はルーシー関係くらいしかないような気がする。
「…………」
このメンバーなら良い。
冬矢にしか話していなかったことを話そうと思った。
でも、なぜか言葉が出てこなかった。
「光流、話したくないことは話さなくていいんだからな」
俺の状態を見てか、冬矢が気を遣ってくれる。
「…………」
もう少し考えてみた。
でもやっぱり、口には出せなかった。
ここは神社。周囲には複数の初詣を楽しむ人々が行き交っている。
何よりも"罰ゲーム"のようなペナルティ。
俺が目標を達成できなかったことで、話す内容ではないと思ったのだ。
それではあまりにもルーシーに顔向けできない。
この話は、そんな罰ゲームで話して良いことではない。そう気づいた。
「光流……無理しないでね」
しずはから心配するような声が聞こえた。
せっかくの初詣。一年の始まり。
そんなめでたい日にこんな暗い雰囲気にしてしまっては皆に申し訳ない。
「皆ごめん。俺、今は話せる秘密ないみたいだ。皆だから話せないとかじゃなくてね。だから俺だけ悪いんだけど、このあとカラオケ行かない? カラオケ代奢るからさ。それでチャラにしてくれないかな?」
俺以外の四人が顔を見合わせた。
「俺は良いぜ。まぁ、このペナルティだって別にそんな真面目なもんじゃない」
冬矢が賛成してくれる。
「俺もだ。話したくないことは話さなくて良い。誰だって、身近な人にも話せないことあるだろ。あとこんなガヤガヤした場所だしな」
開渡も俺の心を読み取ってか、フォローを入れてくれた。
「うん。それで良いよ」
「私も」
千砂都としずはも賛成してくれた。
「皆、ありがとう……。気を遣わせちゃったね」
「良いって良いって」
こういう時、ノリだからといって強制させてくる友達じゃなくてよかった。
たまにいるよな。限度を知らない人って。
「ちょ、ちょーっと待ってよ!」
「深月?」
しかし、深月一人が何か思うところがあったみたいだ。
「私も秘密を話さないことについては問題ないわ。でも……」
「でも?」
深月がミトン型の手袋を口に当て、白い息を隠しながら言った。
「――カラオケじゃなきゃだめ?」
つまり、言いたいことはこうだろう。
「ええと。深月カラオケ苦手?」
そういうことだ。
「苦手というか……行ったことないというか。歌いたくないんだけど……」
これは深月に悪いことをした。
人の嫌なことを強制してもしょうがないよな。
「じゃあ他の――」
「いいじゃんいいじゃん! 深月行こうよ! 嫌だったら歌わなくていいよ。初体験!」
俺が別案にしようと言おうとしたところ、しずはが被せるようにそう言った。
「あ、あんたはいいでしょうけどね。なんか雰囲気がチャラいというか……」
「深月ちゃん……さすがにそれは悪く考えすぎ〜!」
どう思ってチャラいと認識したのかわからないが、カラオケは陽キャでも陰キャでもどんな人でも行くはずだ。
ただ、歌うことが得意ではない人はカラオケに苦手意識はあるかもしれない。
「マジで嫌なら別の案考えようぜ」
「そうだね。深月ごめんね」
「いや、そこまで謝らなくても……」
冬矢の意見に俺も同意し軽く謝罪したが、深月はそうしてほしいわけではなさそうだった。
「途中でやっぱり嫌だって思ったら私と一緒に帰ろう?」
「まぁ、あんたがいるなら……」
「やったぁ!」
しずははどうしても行かせたかったようだった。
俺は冬矢やその他の友達とカラオケは行った経験はあるが、しずは達とはない。
何度も行った経験があるのだろうか。
「深月、無理しちゃだめだからね」
「――あんたの奢りっていうならこの際構わないわっ」
「そっか」
深月は少しプンスカしながらも、何度も見たことがある表情をしていた。
絶対に無理という感じではなさそうだ。
こうして俺はルーシーについて詳細な話をせずにに済んだ。
深月には申し訳ない気持ちもある。だからこそ彼女にとって良い経験になるようにしないとな。
――俺達は神社から離れて、カラオケ店へと向かった。
ー☆ー☆ー☆ー
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