#47 天使の爪痕
怪獣王、撃破。
その光景を目の当たりにして、私はただ震えるしかなかった。
——なんだったの、あれ。
ソーヤが天使のような格好で、爆発的に魔法を使って——あっという間に、怪獣王が崩れだした。
信じられないような光景に、私はただ慄くほかなくて。
しかし、次の瞬間に私は目を見開く。
天使が、落ちてきた。
鼻血を垂らし、空中で後ろに倒れ、そのまま高度を落とし始めた。
「ソーヤっ!」
「あっ、ちょっと! クリスちゃん!」
マーキュリーの静止も振り払い、私は彼のもとに駆けていく。
伸ばした手は間に合わず——彼は頭から地面に激突した。
「ソーヤっ! 返事して、ソーヤっ!」
呼びかけるも、返事がない。わずかに首を動かし応えようとした素振りを見せ——少年の意識は果てた。
「——ッ、
回復魔法を使う。苦手だけど、やらないと彼は——。
最悪な想像。それを覆そうとして。
「
涙が出ていた。鼻水も出ていた。
泣きべそをかきながら必死に彼を蘇生しようとする私に。
「……落ち着け。バカはどっちだ、馬鹿野郎」
低い女声が耳朶を打った。
「よく見ろ、嬢ちゃん。こいつは気絶しているだけだ。じきに息が戻る」
赤髪の女——ヴィクトリアが、金髪の少女を抱きかかえながら私に話しかけた。
「でもっ」
引き下がらない私に、彼女は一つため息をついて。
「——あの
ここまで説明されてやっと、やっと私は引き下がった。不承不承と言った感じで。
「後で校舎の保健室に担ぎ込む。その時は手伝ってもらうぞ」
「……わかったわ。けど——」
周りを見る。事態はまだ収束していない。
黒い粒子になって空気に溶け消えていく怪獣王の残骸と——それをぼうっと見つめる怪人がいて。
「——あれをどうにかしなくちゃ」
呟く私に、視線を合わせるヴィクトリア。やがて怪人は頭を押さえだし——。
そのときだった。
「ゐやぁ、お見事」
気配もなく、「それ」は現れた。
「——ッ!?」
一瞬で戦闘態勢に移行する私達。崩壊しかけたスタジアムの中央にぬっと現れた仮面の少女。色素のない老婆のような白髪に黒い着物を身にまとい、不気味な笑顔のような白黒の仮面をつけた少女は。
「ご安心を。——ワタクシはあんたさん方に危害を加えるつもりはござゐやせんので」
両手を上げた。
投降を示すそのポーズに、しかしヴィクトリアは剣を構えたまま。
「信じられねぇな」
吐き捨てる。そんな様子を見て、仮面の少女はその仮面を一枚落とし、表情を切り替える。
下から現れた仮面は、少し悩むようなもので。
「では、かうすれば信じられますかゐ?」
少女はぱちんと指を鳴らした。
瞬間、苦しむように頭を押さえていた怪人は、まるで糸を切られたマリオネットのようにがくんと力を失い。
ざっと黒い粒子が怪人を包んで——それが晴れると、そこにはクラスメイトの少女——グレンダが転がっていた。
ほかに数人いた怪人もそうだ。すべての怪人が倒れ、元の人間へと戻っていく。
「——これで、信じられるで
呆気にとられたような私達に、仮面は再び笑顔になった。
私達は顔を見合わせ。
「……あんた、名前は?」
尋ねると、少女の仮面はにまっと不気味な笑みを浮かべた。
「ワタクシは怪人二千面相。以後、を見知り置きを」
ばしゅ、と音が聞こえる。なにかが裂けたような音。
なにが裂けたのか。——空間だった。
「——二千って、ちょっと多すぎじゃないかな。具体的には百倍くらい」
たしか、ヴィクトリアと同室の——。
「スミカ。こいつは」
「わかってる。見てたよ」
何処かから空間を引き裂いて瞬間転移してきたらしい彼女——スミカは、怪人二千面相を名乗る少女を睨む。
「だうかいたしました? そこの御人」
「その古風をはき違えたような喋り方、やめてくんない? 読みづらくて仕方ないんだ」
「おやおや、くふふ。同士の頼みとあらば、考へておきませう」
「怪人に同士扱いされる謂れはないんだけど」
「だつて、『さう』でせう? ——貴方もまた、此の世界の『特異点』。違ゐますか?」
「……っ」
苦虫を噛んだような表情を見せ、スミカは一つ息を吐いた。
「続きは取調室で聞くわ。……長話になりそうだ」
スミカの使った捕縛魔法は、怪人二千面相をあっさりと捕らえた。
周囲には静寂が満ちる。私はただ茫然自失として。
「……終わった、の……?」
口にした疑問に、ヴィクトリアが答える。
「そうだな。とりあえずセン公呼ぼうぜ」
「……ええ、そうね」
頷く私。周りを見ると、ソーヤを含め数人の生徒が倒れている。ヴィクトリアはカロンを背負ったままだ。
「こりゃ、後処理が大変だ」
ヴィクトリアの呟きが、広いスタジアムにポツリと反響した。
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