#41‐1 文化祭のストレイキャッツ
時は瞬く間に過ぎていった。
——というわけで、気がつけば武闘大会一日目。
「いよいよ文化祭ですね、ソーヤくんっ!」
アリアが僕に微笑みかけた。
小さな教室。机を並べた喫茶室。簡易的な厨房で、僕らは最終確認をしていた。
「出たゴミはこの箱に入れておけばいいんだよね」
「うん。アイン、料理の作り置きは?」
「できてるよ。準備は万全さ」
各々が最終的な物事を確認する中、僕は軽く伸びをして、教室の入口を一瞥した。
引き戸のそばに、紙の看板。手書きで書かれた文字は「喫茶 ストレイキャット」。
「……これ、野良猫って意味なんですよ」
「へぇ……はぐれものの僕らにはぴったりだ」
「でしょう! 我ながらセンスがいい!」
ふふんと胸を張ったアリアに、しかし僕は少し俯いた。
「なら、衣装のセンスはどうにかならなかったの……?」
はっきり言おう。衣装のセンスは、少なくとも僕にとっては微妙だった。
一言で言うならば、短いフリフリのワンピースだ。
黒地のワンピースは全員同じ。肩口が膨らんでいて、膝上大体三センチの短いスカート。中はパニエでふわっと膨らんでいる。
そしてその上に、一人ずつ違う色のフリルエプロン。パステルな色合いで、単調なワンピースが華やかに彩られる。胸元には鈴のような小さなアクセサリーまでついていた。
フリルのソックスに、甲にストラップのついた靴。ご丁寧にハートのモチーフまでついている。
「ふふんっ。最高にカワイイじゃないですか!」
「恥ずかしいことこの上ないんだけど!」
「すっごく似合ってますよ? やっぱり銀髪にエメラルドグリーンは映えますねぇ!」
「話を聞いてえっ!」
エプロンの配色は、僕が緑、アリアはピンク、マーキュリーが黄色、クリスは赤。アインが紫で、レーネは水色だ。同じ色のリボンで髪をくくっているので、イメージカラーとしてもわかりやすい。
「はぁはぁ……んふふ、ソーヤちゃんは期待通りすごい逸材ですねぇ……」
「なんかアリア、いつもよりオヤジ臭くない?」
「髪型も似合ってますよぉっ!」
「やっ、顔近づけないでっ!」
僕は少し引いた。ちなみに僕の髪型はいつもより高めの位置で結んだハーフツインだ。たしかにいつもよりかわいくしたけど! というかさせられたけど!
唇を尖らす僕に頬ずりするアリア。そんな微笑ましい……微笑ましい? 光景をよそに、入口のベルが鳴った。
——喫茶 ストレイキャッツ、開店の時間だ。
「いらっしゃいませっ!」
*
「またのお越しをお待ちしてますっ!」
時間は瞬く間に過ぎていった。
「ようやく客足が途切れた……」
額に汗が滲んでいた。昼前のひととき。
「昼休憩にしようか」
休憩中、と書いた紙を入口に貼り付け、僕らは席に座った。
「すごい客入りでしたね……。休むヒマもないくらい」
レーネが口にする。
実際、この喫茶ストレイキャッツは想定を超えて人気を得ていた。
行列ができるほどではなかったが、客の波は途切れることなく続いていた。
「本当は誰か休めるはずだったんだけどねぇ……」
ため息をつくクリスに、僕は軽く伸びをする。
「いま、アリアとマーキュリーが宣伝に出かけてるけど……」
「そういえば戻ってこないわね。どうしたのかしら」
話していたとき、ガラッと教室のドアが開いた。
「大変だよみんな!」
「噂をすれば」
マーキュリーだった。その後ろからアリアも入室してくる。
「大変ですよみなさん」
「どーした? なにが大変なのさ」
アインの問いかけに、アリアは真面目な顔で人差し指を立てた。
「向こう——カロンさんたちのクラス、大盛況ですよ」
僕らはカロンたちと喫茶店の売上で勝負している。ちょっと忘れそうになってたけど。
「そのカロンさんたちのところ、喫茶ウルヴェンハント。ちらっと覗いたんですが……」
「すごい行列できてた。なんかいっぱいお客さんが並んでてね、あの子たちもいっぱい動き回ってたよー」
「その上、あれで全員じゃないみたいでした。……ほら、あそこ」
アリアがドアの方を指さした。
ドアに付いている窓。そこからこちらを伺う一人の影。僕らが見ていることに気づくと、ビクリと震えて逃げていく。
「……偵察、されちゃってるねぇ」
「しかもローテーションで回してるみたいで、文化祭で遊び回ってる子もチラホラいました」
「人数に余裕あるの羨ましいよね……」
そう言って笑うマーキュリーに。
「でも、高望みしたって私達にはここにあるものしかないんだもの。それでどうにかするしかないわ」
正論をぶつけるクリス。場は沈黙に包まれる。
それから十数秒ほど、コーヒーを啜る音だけが響いて。
「……どうしよっか」
レーネが口にしたとき。
すっと手が上がった。アリアだ。
「いい案があるんですよ」
言い放ったアリアに、自然と注目が集まる。
「……アリア、話して」
急かすと、彼女は息を吸って、話しだした。
「わたしたちは、もっと可愛くなるべきなんです」
「……は?」
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