第五話「アリスの秘密」
軽い雑談をしながら横一列で歩く。
「そういえばあなた達の名前聞いていませんでしたね」
公園を出てからどれくらい経ったかしら。不意に、オルフが思い出したように言ってきた。
「ボクはセサミ!」
「あたしは美遥よ」
「セサミさんと美遥さん……改めてよろしくお願いしますね」
オルフの物言いに違和感を覚える。少々間があったような。
「よろしく!」
セサミの言葉で我に返る。あたしも何か言わないと。
「えぇ、よろしくね」
「お二人はどちらからいらしたんですか?」
「
セサミの回答にオルフは目を丸くする。
「初耳です。この世界にそんな名前の町があったなんて」
どうやら何か勘違いさせてしまったらしい。
「あー、えっとね、あたし達異世界から来たのよ」
正直に述べると、彼女はさらに目を丸くした。
「異世界?美遥さん達がどうして……」
何かを言いかける。詳細を尋ねようと口を開くも言葉を発するのはセサミの方が一足早かった。
「何かあるの?」
「あぁいえ。別に……」
オルフは曖昧に答えた。彼女は絶対に何かを隠している。確信したあたしは語気を強めにして尋ねる。
「ここへ来るまでに会った子達みんなあたしのこと『アリス』だって勘違いしてたの。どういうことか教えてくれない?」
ヒントちゃん(最初に出会った妖精さんのことだ)もラウビィも、そしてメイシェッタもあたしの名前を『アリス』だと思っていた。そしてオルフの反応も少々違和感があった。それには間違いなく理由があるはずだ。
「いっ、言います!だから怒らないで……」
オルフは怯えたような声で言った。勘違いしているようなので一応否定する。
「別に怒ってはいないんだけど……」
「そのですね」
耳に入らなかったのか、彼女はかしこまった様子のまま言葉を紡いだ。
「今まで異世界から来たのはみんな『アリス』という名前の女の子だったんです」
あぁ、そういうこと。あたしはすぐに納得した。
「なるほど。それで主のことをみんな『アリス』だと思ったと」
「そういうことだと思います」
「どうして『アリス』なのかしらね」
不思議なのはそこだった。どうして『アリス』である必要があるのかしら。この世界が丸ごと『不思議の国のアリス』をモチーフにしているから、とか?
オルフもそこまではわからないらしく、申し訳なさそうに言った。
「それはわかりません。違う名前の方が来るのも、男の子が来るのも初めてでして」
「正確にはオス猫だけどね」
「えっ!?」
セサミが訂正すると、オルフは素っ頓狂な声を上げた。
「そりゃ驚くわよね……」
当然の反応だと思うわ。
「きっとこの世界が『アリス』に飽きたんだよ」
あろうことかとんでもない発想に至るセサミ。あたしは反射的に完全否定した。
「いやそれは無いでしょ」
「でも、何か理由があるんだと思います。そのことも魔法使い様に相談してみましょう」
「そうだね。じゃあお城へ急ごう!」
「させるもんか!」
セサミが言った途端、一つの声と共に人影が飛び出してきた。ピンク色の髪をした男の子だ。動揺を抑えつつ尋ねる。
「あ、あなたは?」
「誰だっていいだろ!とにかくここは通さないぞ!」
名乗らない上に道を塞ぐなんて失礼な子ね。苛立ったあたしは軽く下唇を噛む。
「通してよ!」
セサミが怒鳴った。男の子の言動に対して怒りを覚えたのはあたしだけではなかったらしい。
「どうしても通して欲しいなら、おれたちの出すなぞなぞに答えてみろ!」
「なぞなぞ!?かかってこい!」
なぞなぞと聞いた瞬間、セサミが目を輝かせて叫んだ。
「切り替え早くないですか……?」
オルフが困惑した様子で呟く。全くその通りね。
あたしは彼女の言葉に心から同意した。
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