第46話 乂阿戦記1 終章 これは始まりの物語の終わりの闘い-10
一方その頃、ユノ、ヨクラートル、ホエル達はというと……。
「……なんでこんな日に限って寝坊するかな?ユノ……」
小さな紅阿をおぶりながらヨクラートルがボヤく。
「ごっめ〜ん!昨日ホエルと話し込んだら遅寝しちゃって!ちょっと仮眠取るだけのつもりだったんだけど爆睡しちゃった…どうして目覚まし時計は鳴らなかったのかしら?とにかくごっめーン!」
ユノが両手を合わせ謝る。
「あらあら、子供達の試合はもう終わっちゃったかしら?」
呑気に困るホエル
「まぁ、まだ大丈夫だろ、今から急げば間に合う」
「ま、待ってくださーい!」
母達の後をまだ7歳の阿乱が息を切らして追いかけてくる。
「ほうら、阿乱ちゃん、早くしないとお兄ちゃん達の試合が終わっちゃうわよ?」
「うん、急ごう」
「そうね、急ぎましょう」
5人は大急ぎで闘技場に向かった。
「あら、皆様遅かったデスネ」
「ごめんなさい、イブさん」
「もう始まっちゃってますか?」
「大丈夫デス、神羅様、雷音様、雷華様、ミリル様、鵺様、オーム様、エドナ様、獅鳳おぼっちゃまの出番はまだ残ってマスヨ」
「そうですか、間に合ってよかった」
「それじゃあ、賓客観戦室にご案内いたしマス」
賓客観戦室は雷音チームベンチのすぐ近くにあった。
アーレスタロスとナイトホテップの激闘で闘技場はまたもメチャクチャになり、スパルタクスがまた氷の封獣を使い修復していた。
阿烈、ジャムガ、スパルタクス、ガープ、羅刹の破壊中和のおかげで観客席への被害はほぼなかったようだ。
ヨクラートル達は雷音達の控え室に立ち寄って第二インターバルで休憩中の神羅達に声をかけた。
「おう皆んな遅れてスマンスマン!試合が全部終わってなくてよかったよ!」
「む、なんだ漢児?お前子供達より先に退場になったのか?それでも狗鬼空手道場の跡取り息子か?母さんは不甲斐ないぞ!」
「まあまあユノちゃん、これは乂家と永遠田両家の親睦を深める練習試合なんだからあまり厳しいこと言いっこなしよ。」
そこにいた全員が呑気な自分達の親から一斉に視線を逸らす。
自分達は親善試合どころか本気の殺し合いをしてたとかバレると怖いからだ。
「あちゃー、予想以上にインターバルが長くかかったから母ちゃん達がきちゃったよ!」
「…せっかく雷音が目覚まし時計細工して観戦に来させないようにしたのにね……」
「あー、うん……まあ、しゃあないって」
「そうだな」
「……ああ」
こうしてホエル達が到着した頃にはすでに試合は終盤に差し掛かっていた。
アナウンスと共に最後の決着をつけるべく選手達が姿を現した。
最後にして最強の敵ナイトホテップは既に入場している。
アーレスタロスとの激闘でボロボロになった鎧を脱ぎ捨て新しい鎧に着替え終わっている。
雷音達はこの決戦に向け打ち合わせを済ませていた。
簡単に言えばこの戦いは獅鳳を前面に押し出し残り全員はサポートに回ろう!である。
ぶっちゃけ怨敵ナイアを倒した今、雷音達にとって残りの試合は本当に親善試合も同然だった。
確かにあのナイトホテップは政治的な背景から敵と言える存在なのだが、いわゆる彼はカッコいい敵だった。
なにせ乂阿烈とタメを張る大人物で、アーレスタロスと真っ向から闘った漢らしい勇姿は悪党ながら子供達の心を掴んで離さなかった。
ナイトホテップの息子獅鳳は母を死なせた父を憎みたくて仕方なかった。
だが出来なかった。
敬愛する漢児と演じた名勝負が頭にこびり付いて離れないのだ。
兄と慕う漢児が内心ナイトホテップを尊敬していると気づいたから余計にそう感じたのだろう。
試合前漢児は迷える獅鳳にアドバイスをくれた。
「獅鳳、親父さんのことが気になってるんなら逃げるな!ムカついてる事があるんならバーンと殴りつけてこい!言ってやりたいことがあるなら目一杯ぶちまけてこい!お前の親父と闘ったがありゃ生半可な漢じゃねえ!アレにゃ小細工がねえ!口先だけの言い訳がねえんだ!こっちが十ぶつけたらキチンと十を返すそういう漢だ!お前が何を言ったところでビクともしねぇからぶつかってけ!そんでダメだったらぶん殴れ!…まあなんだ、要はキチンと親子喧嘩して来い……中途半端に大人ぶってそれとらしい理屈で自分を納得させるなよ……お前はまだガキでいいんだ……だから親子喧嘩して来ていいんだよ!あの親父にはガキのダダをぶつけていいんだよ!お前は優しい奴だから今までダダをこねようとしなかった。でもたまにはガキらしく癇癪をいっぱいぶちまけて来てみろよ?あの親父はきっと喜ぶぜ?」
その言葉を聞いたとき、不覚にも泣きそうになった。
自分が欲しかった言葉を全て言ってくれた気がしたからだ。
そう、これからはじまる試合はただの親子喧嘩
良くも悪くも優等生な性格の獅鳳は、自分を引き取ってくれたユノに遠慮があり我儘と言うものをほとんど言った事がなかった。
(アイツに…あの憎たらしいクソ親父に言いたいことをいっぱい言ってやるんだ!)
闘技場にて獅鳳は雷杖ドゥラグラグナを剣に変え翠の勇者に変神する。
雷華が勇魔共鳴を発動し獅鳳の背を守る。
雷音も魔剣クトゥグァをミリルと勇魔共鳴する。
オーム、エドナ組の前面はオーム、神羅、鵺組の前面は神羅である。
試合再会の銅鑼がなる。
始まってすぐオームの氷の魔法を唱えミリルが雪精召喚の魔法をとなえた。
攻撃の為ではない。
自軍の試合を有利に導く為の地形製成である。
彼等は闘技場に雪が降り積もる氷の森を作り上げた。
幸い闘技場はナイアの魔法でいたる所に氷柱があり、それで雪つもる氷の木々を作り上げた。
地面もまたスパルタクスの氷の封獣の修理の影響で雪積もる大地を作り上げるのにとても都合が良かった。
オームはさらに変化の魔法を唱えメンバー全員の姿を獅鳳の姿にかえた。
「おいおい、全員が獅鳳の姿に変える必要あるのか?」
ナイトホテップが怪訝な表情で尋ねる。
「あるよ」
「なんでだ?」
「俺達全員あんたに言ってやりたい文句が一緒なんだよ!」
獅鳳に化けた雷音が叫ぶ!
「ナイトホテップ!今から私達が言う文句は全部獅鳳の思いだって肝に命じろ!」
獅鳳の後の雷華が叫ぶ
「サタン叔父さん、貴方獅鳳くんのパパなんだからもっと獅鳳君に優しくしなきゃだめじゃ無い馬鹿〜!!」
獅鳳に化けた神羅が叫ぶ!
「せや!ウチの可愛い弟分を泣かすなんて最低や!ワレホンマもんのアホやで!」
獅鳳に化けたエドナが叫んだ!
「ぐぬうううう」
ナイトホテップはぐうの音も出ない様子で黙り込む。
彼の心の中には言い返す言葉が見つからないのだ。
彼は確かに息子に対して冷たい態度を取っていたのだから……。
「ナイトホテップ殿、ドアダの長としてのお立場から様々な事情はお察ししますが、ワザと嫌われて距離を取ろうとするのはいささか行き過ぎかと…」
オームは冷静にナイトホテップに助言する。
「な、なんの事だ!?」
珍しくナイトホテップが狼狽する。
「大叔父貴悪い!俺家計簿つけてたから気づいてたんだけど、獅鳳が狗鬼家に引き取られてから凄い援助金が口座に入ってたろ?あれ、大叔父貴だよな?最初はヨドゥグ親父かガープ爺ちゃんからだと思ってたんだけど二人とも知らないって言うし…」
漢児は両手を合わせ大叔父貴に謝罪する
「え〜とサタンちゃんごめん!ウチの子供達が色々聞いてくるから貴方の援助金の事みんなに話ちゃった!!」
賓客席からユノは両手を合わせサタンに謝罪する
「ユ、ユノ!?」
まさかバレていたとは思わなかったナイトホテップは慌ててしまう。
「うえ〜ん!大叔父様誤解しちゃってごめんなさい〜!実はウチの家の家計大叔父様の援助金で成り立ってるんです〜!だから援助金は打ち切らないで〜!あと出来たらもう少し増額して欲しいですぅ!」
絵里洲が両手を合わせ大叔父貴に頭をさげると、ユノに後頭部をしこたましばかれた。
「……やれやれだぜ」
ジャムガが呆れたようにため息をつく。
「……むぅ、ナイトホテップはお前の父ユドゥグ殿と同じタイプのダメ親だったのだな……」
阿烈の問いにジャムガは
「うむ、だからウチの姉君ユエはやたらナイトホテップを毛嫌いしてたのだろう……我らが父ユドゥグの事がやたら頭にチラつくのだろう…」
そう言ってジャムガは鵺を見た。
「貴方みたいな男達っていつもそう…独りよがりな理由で格好つけて、これでいいんだって自己満足して家族を守った気になっている……はっきり言ってそう言うの伝わらないわよ?むしろ迷惑…ストレスが溜まるだけ……」
鵺は冷たくナイトホテップに吐き捨てる。
「理解不能……人の感情はやはり難しいです」
白水晶は首を傾げる。
「面倒くさいお父さんなのだ」
ミリルが呆れる。
「……父さん!」
獅鳳が絞り出すような声で父を呼ぶ。
「ごめん、父さん……俺、ずっと…母さんが死んだのは父さんのせいだって思ってたんだ……でも違ったんだろ?……何か俺には言えない事情があったんだろ?……」
獅鳳は涙をこらえながら言う。
「ち、違う!俺は俺の野心のためエクリプス復活計画を推し進めた!その結果リュエルは死んだ…それに嘘偽りはない!……」
「わかってる!多分それは本当の事だ……でもそれが全部じゃ無いはずだ。母さんの死の状況について俺は詳しく知りたい!だから7年前母さんが死んだ時何があったのか詳しく教えて欲しい……」
ナイトホテップは苦虫を噛み潰した顔で答える。
「……それはできん!アレはドアダの最高機密だ!お前がいかに我が息子であろうと話すわけにはいかぬ!そしてリュエルとの約束がある!お前をエクリプスと関わらせる訳には断じていかぬ!…………」
「…………ありがとう…………俺をキチンと想ってくれて……それがわかっただけでも俺はあなたを父さんと呼べる。でも俺は決めたんだ…7年前の母さんの死の真相を調べ上げ、仇がいるなら絶対倒すって決めたんだ!!」
「…………」
「……頼むよ……父さん……俺に真実を教えてくれ……いや、教えてくれなくても俺は勝手に自分で真実を見つけだす!」
「………………わかった…………話そう…………」
「!…」
「…………ただし俺を相手にこの試合を勝ち抜いたならだ!約束しろ!俺に負けたら翠の勇者を止め、エクリプスには2度と関わらないと約束しろ!今後は地球で平凡な普通の暮らしを送ると俺に約束しろ!そうすればお前が勝ったとき全てをお前に教えよう!」
「!!……わかったよ父さん……約束する」
「では、始めるぞ……」
こうして父親であるサタンと息子の対決が始まったのだ!
「さあかかってこい!お前の全力を見せてみろ!俺も全力でお前を叩き潰す!」
「よし!みんな散会!」
獅鳳のその一言でメンバーは皆即席で作った雪原の森に逃げ姿を隠した。
「試合終了まであと5分や!逃げて逃げて逃げまくるで!!」
「ウーハハハ!サタン伯父さん!試合に勝てば言う事聞いてくれるって、ちゃんと言質取ったんだからね!」
「ナイトホテップ殿!ぶっちゃけ僕らじゃ勇魔共鳴はおろか皆で機神招来しても貴方には勝てない!だから試合の時間切れを狙います!」
「ほう?」
ナイトホテップは不敵に笑う。
「そうか……いいだろう!これもまた戦いだ!この俺との試合を最後まで戦い抜いてみせろ!どんな形の勝利でもいい!見事俺を倒せたらお前らの勝利を認めてやろう!だが、もし時間切れになって俺が勝っていたらその時は貴様ら全員相応のペナルティは覚悟しておけ!!!」
「わかったわ、でも私たちは負けないわよ?サタン伯父さんを倒してみせる!」
そう答えたのは神羅だった。
彼女は本気で勝つつもりだった。
(この勝負絶対に負けられない……!)
神羅の心にはそんな決意が宿っていた。
それは神羅だけではなく他の7人も同じ気持ちであった。
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