第23話 報告


「……んあ?」


 ……デジャブだ。

 でも知らない天井だ……。


 俺はいつも寝ている部屋とは別の部屋のベッドで目を覚ました。


「いっ……!」


 上体を起こすと、右脇腹が痛んだ。

 患者着をめくると、包帯やらガーゼでガッチガチになっていた。


「まあ、流石にあの攻撃を喰らったんなら、こうなってもしょうがないか」


 ゾルタックスの強さは目に見えて分かっていたので、この傷の深さには納得していた。


「あれからどれだけ経ったんだろう……」


 俺は試しに、手をパンパンと鳴らしてみる。


「お、お呼びでしょうかっ!」


 ノアが音に反応して部屋に飛び込んできた。

 

 こういうのちゃんと教育してるんだ。

 

「いや……。まずおはよう、だな」


「えっ、あっ、お、おはようございます! 意識が戻って何よりです!」


 凄いあたふたしてるな。

 でもこの感じだと余り日数は経ってないんだろう。


「とりあえず、あの日から何日経ったか教えてくれるか?」


 落ち着くよう、ゆっくりとノアに聞いた。


「あっ。えっと、ゾルタックス様が屋敷に来てから6日経ちました……」


「む、6日!?」


「は、はい……」


 ほぼ一週間経ってるじゃねぇか!


「ノア! 今すぐザカンかルシアを呼んできてくゴハアッ!」


 起き上がってすぐ大声を出したら、口から血が噴き出した。


「キャアアッ! まだ傷が治っていないので安静にしてください! 誰かいませんかー!」


 ノアは悲鳴を上げながら、部屋を飛び出していった。




◇ ◇ ◇




「具合の方はいかかでしょうか?」


「吐血したのに大丈夫なわけないよね? よくそんな冷静に聞けたねルシア」


 ノアはすぐに看護師とルシアを連れてきた。

 看護師の方は、俺の看護着の上を脱がして、傷の具合を診ている。

 ルシアは何やら服が汚れていたので、何か肉体労働をしていたのであろう。


「そこまで呂律が回るのならば安心です。それで、この6日の間に起ったことを説明するということでよろしいでしょうか?」


「ま、まあそうだな。よろしく頼む」


 一刻も早く何が起こったのかが知りたい俺は、ルシアの声に耳を傾けた。


「はい。ではまず、ゾルタックスによって破壊された屋敷の箇所。及び抉られた地面についてですが、ゾルタックスたち騎士が元通りにしたので、問題はありません」


「そうか」


 自分たちでやったことだもんな。

 これぐらいやってもらわなきゃな。


「そして、斬撃によって溢れてきたあの液体を、水魔法を使えることができるカショウと共に調べてみました。やはり温泉でした。少し離れた場所に山があるので、そこが原因だと思われます」


 温泉かぁ。

 そういえばこの世界ではあまり見かけなかったな。

 これも商売ネタになるかもな……。


「さらに水質を調べたのですが、なんと魔力が含まれていたのです。それはカショウによって分かったのですが、なんでも今までで一番扱いやすい水であるということと、長時間手を浸からせていると、魔力量がごくわずか増えていたそうです」


 水魔法は水や液体を生成し、操ることができる。

 しかし、元々存在する水や液体を操った方が、圧倒的に魔力の消費を節約することができる。

 そんな水魔法使いだけあって、魔力が含まれている水はすぐに分かったのだろう。

 魔法が使える部下も手に入れられるとは、深手を負ってまで戦った甲斐がある。


「この温泉は今後有効活用していきたいな」


「はい。今現在もカショウが調べています。では次に、居住区の家についてです」


 家か。

 大工のおっさんに任せてたけど、設計図ぐらいできたのかな?


「現在6軒建て終わりました。現在7、8軒目を建築中でして――」


「ちょちょちょっ。ちょっと待て! もう6軒も建て終わったのか……?」


「は、はい。私も驚いたのですが、大工のオオヅチさんが、恐ろしい程建築への熱が凄いらしく、さらにゾルタックスたちの労働速度が尋常な速さなため、ものすごい速度で家が建っていきます」


 1日2軒換算?

 二手に分けて建てているのか?

 どうなってんだこの世界の筋肉は……。

 ここ最近雨も降らないし、このまま一瞬で終わるんだろうな。


「あとで見に行ってみる。他に何かあるか?」


「はい。バーンさんが、傷が回復したら商品開発に手伝ってほしいと。スーさんからは、病人や怪我人のほとんどが回復傾向にあると言っていました」


「回復してるんなら良かった。あと商品開発は向こうから来てくれたら協力できると伝えてくれ。今はそんなに動き回れないからな」


「分かりました。あっ、ゴドルーのアジトから回収した金品財宝は宝物庫に保存し、帳簿に正確な数字で財産を記しておいたので、後程のちほどリンドラ様のお部屋でご確認ください」


 回収できたか。

 どれぐらい資産が増えたか楽しみだ。


「以上か?」


「はい。リンドラ様が回復次第、会議を開くつもりなので、覚えておいてください」


「分かった。では報告は以上ですので、失礼します」


「ああ。ありがとう」


 ちょうど、看護師による触診も終わったので、2人は一礼して部屋を出ていった。


「――ノアも看病とかありがとな」


 近くで見守っていたノアにも感謝をする。


「い、いえっ! これぐらい当然です!」


「そうか。これからも頼んだぞ」


「は、はいっ!」


 さてと、傷に触らないよう、のんびり部屋に向かうとするか。


「じゃあ立て続けに悪いけど、部屋の片づけしてもらってもいいかな?」


 片づけを頼むのはなんか情けないというか、しょうもないというか。


「分かりましたっ。おひとりで大丈夫でしょうか?」


 ノアはゆっくりとベッドを立ち上がる俺の体を心配してくれた。


「ありがとう。何かあったら誰か呼ぶよ」


 俺はそう言うと、ゆっくりと部屋を出ていった。


 しばらくは患者着でいっか。

 正装より断然楽だし。


 のんびり屋敷を歩いていると、窓から外の景色を見下ろせた。

 どうやらここは3階らしい。

 登る回数が少なくて良かった。


 外を見てみると、皆が笑顔で活発に働いていた。


「――この調子なら、軌道に乗るのももう少しかな?」


 俺は笑みを浮かべながら、再び自室に向かって歩き出した。

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