エルフと結婚して後悔しています。どうにか離婚出来る方法はありませんか?

神風のぼる

第1話「プロローグ」

ラジオパーソナリティ「う~ん、フッw まあ~家族全員、無事に命が助かると良いですね! では次の相談のお便りです! ラジオネーム『パラサイトエルフに寄生されて』さんから!」


『ラジオパーソナリティさん、こんにちは! いつも番組を楽しく聴いています。早速ですが、僕の悩みを相談させてください。悩みというのは婚約者についてです。もうすぐ結婚して半年が経ちます。しかし、今ものすごく後悔しています。ええ、結婚したことを後悔しているのです。

 あのクソニート野郎となっ‼ 273才にもなって夜中に一人でトイレに行けねぇってマジか⁉ いやオメェはさぁ! 毎日、毎日! 家に引きこもってゲームばっかやってる暇人だから良いかもしねぇけどよ! こっちは明日も仕事なんだよ‼ なのに、いちいち俺を起こすんじゃねぇよ‼ しかも二時間に一回だぞ⁉ 二時間に一回‼ どんだけ頻尿なんだよ‼ だから夜にコーラをガブ飲みすんじゃねぇて、いつも言ってんだろうがよぉぉぉぅぅ‼ 

 ……………すみません。つい取り乱してしまいました。ご察しの通り、僕のフィアンセは穀潰しです。働いていません。家事もやりません。それどころか、僕が結婚前にコツコツと貯めた四〇〇万を勝手に使ってはFXで全て溶かしました。

 はっきり言って、もう限界です。今すぐにでも離婚したいです。だけど、それには問題が一つあるのです。え? どんな問題ですって? わかりました。少し長くなりますが、お話しましょう。僕達が如何にして出会い、そして婚約を結ぶまでに至ったのかを………これから話す若気の至りに満ちた愛のラブストーリー物語を聞いていただければ、僕の現在置かれている悩ましい状況を理解していただけるでしょう。さすれば離婚に対する、より的確なアドバイスを授けてくださると思います。

 では全ての始まり。ヴァギナと運命の出会いを果たしたあの瞬間、僕は彼奴を殺そうとしました………………………』


「ふぅ~今年は中々の豊作だっぺ!」

 

 全体主義国家ヘルニア王国で農業を営む一人の男。名はチンコン・ディック。二十九才、腰痛持ち。

今日も元気に労働中! 


『お国のために働くぞ! お国のために働くぞ! お国のために働くぞ! 徹底的にお国のために働くぞ! ヘルニア王万歳! ヘルニア王万歳! ヘルニア王万歳!』


 ラジオからは労働意欲向上歌が流れている。ハードハート大学の最新の研究によると、労働中に音楽を聴くと作業効率が三十四ポイント上がるとされている。そのため我が国では『国家勤労奉仕』中は必ずラジオをチャンネル1に合わせる規則があった。

 これは重要な規則の一つだ! もし違反すれば、本来上がるはずだった作業効率分を時間で埋めなくてはならない。十ポイントあたり一時間であるから、だいたい三時間半の追加労働が課せられるのだ。


「ふぅ~今日も良く働いたっぺ!」


 それから、ようやく十六時間にわたる『国家勤労奉仕』を終え、クタクタの体でベッドに入る。


『農業部門、7503ポイント。前日比、プラス五パーセント。建築部門、3884ポイント。前日比、マイナス十パーセント。IT部門、225ポイント。前日比、プラス三パーセント。ポルノ部門、45450721ポイント。前日比、プラス六パーセント……………』


 夜に合わせることが義務付けられているチャンネル2では、今日の『国家勤労奉仕』の成果が報告されていた。


『各部門の合計47975551ポイント。前日比、プラス四パーセント。国民の皆さま、お疲れ様でした。今日は、まずまずの成果です。しかしながら、もっと頑張れるはずです。国民が一人一人努力して国家の発展に尽力すれば、今日は2+2=4でも、明日は2+2=7となり、そしてやがては2+2=80となります。お国のため、ヘルニア王のためにもっともっと一生懸命に働きましょう! では明日も元気に労働!』


 成果報告が終わると一転して、艶めかしい音楽が流れだす。


『今月は産めよ殖せよパコパコ月間です。夫婦仲良く、音楽に合わせてヤリましょう。独身の負け犬はチャンネル3へ変えてください』


 俺はチャンネルを3に合わせた。


『我が国では、少子化が進んでおります。このままいけば将来いずれ国が滅びます。全てあなた達のせいです。どうして結婚をしないのですか? あなた達は非国民です。国から受けた恩を仇で返そうとする国賊なのですから……。いい加減になさい! 親は黙っていますが、本当はあなたに結婚してほしいのですよ! 孫の顔が見たいのですよ! それなのに……………! ちなみに本日、ヘルニア王は異次元の少子化対策として、三十才以上の独身を死刑とする法律を無理やり可決させました。早速明日から施行です』


「……………………………………………」


『フフ、どうです? 少しは結婚する気にもなりましたか? エッ? それはソロハラ(脚注1)だろう? もう~! プンプン(怒)! せっかく心配してあげているのに! そんな理屈っぽい態度をして斜めに構えていると、あっという間に三十なんて過ぎますからね! そうなったら死刑ですよ! 死刑! ふんっ‼ 後悔しても知りませんからね!』


 俺は部屋の電気を消した。しかしラジオからは未だに口うるさい説教が流れている。

 消すことが出来ないのだ。ラジオだけは、二十四時間スイッチをONにしていないといけない規則があるのだ。


「…………………ふぅぅ~~……………俺の人生……なんだったんだろう………」


 休みなく毎日繰り返される過酷な労働。生きるために働くのではなく、働くために生きていたようなもの。

 俺には辛い日々の慰めとなる家族はなく、友達もなく、年齢=彼女なしの童貞。そうなのだ、二十九にもなって童貞……。それでも一度は、一万円札を五枚握って、ヘルニア王国歌舞伎町風俗街に出向いてみたこともあったが、『個室付き浴場♡』の店先に立つ客引きお姉さん達に情けなくともビビってしまい、そのまま卒業出来ずじまいになった。


「……………一億受精レースで勝利した結果が……………これなのか?」


 お父さん、ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい。

 息子は、受精競争には勝っても生存競争では負けました。明日は僕の三十才の誕生日、そして僕は死刑囚の身となります。



(脚注1)ソロハラ……結婚していない男女に対するハラスメントのこと。シングルハラスメントと同じ。


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