第2話-4 My dool
誰かが言った。
「シンデレラの舞踏会のようだ」
お伽噺の王子は招待されたゲストたちの中から未来の妻を探す。ホストは自分と夫婦になるパートナーを探し出そうとしているのだ。
姿を見せないホストに苛立ちを抑えきれなくなったゲストもいた。
「何様のつもりだよ!」
そう、ホストは一体誰なのだろうか。ゲストたちには視線ばかりが注がれ続けている。それは明らかにパートナーを見定めようとするものであった。
不躾な視線に堪えきれずに踞るゲストもいた。
「帰りたい」
何故こんなパーティーに参加してしまったのだろう。後悔しても、既に遅かった。
扉は閉ざされたままである。誰もが覚った。ホストにはあの扉を開くつもりが全くないのだと。
極度のストレスのせいか、用を足したいと言うゲストはいなかった。喫煙者がいなかったことも幸運だったのかもしれない。しかしいつまでもこんな部屋に居続けるわけにはいかない。ゲストたちは出口を探し始めた。
とにかくその部屋から出たいという意思だけで、ゲストたちは行動した。壁をべたべたと触り、殴り、蹴った。開かないとわかっていても尚、入り口だった扉を再び開ける手段を探した。第三者に助けが呼べないかと、アンテナの立たないスマホをいじった。
異常に空腹感が襲ってきたり、喉が渇いたりもした。その逆もあった。
ゴミの多くはテーブルの上から床の上へと落とされ、見向きもされなかった。テーブルとイスさえゴミのように扱われ、立っていることの出来ない物もあった。
彼らにはもう余裕がなかった。焦りから、普段の彼らとはかけ離れた行動も選択させた。おかしくなど何もない。それこそ彼ら人の本性である。
誰もがそうであった。ゲストたちは皆焦っていた。
互いに互いを気にすることも少なくなった。人が豹変したと感じる者もいただろうが、口を挟む者はいるはずがない。
誰だって自分のことが一番なのだ。周りのことが見えなくなるなどいくらでもあるだろう。
人の見境がなくなった時、害をまず受けるのは人ではない。人以上に人の近くに居るのは「物」である。
だから、どんな時にでも物を丁寧に扱えるということは素晴らしいことなのだ。
そう。ホストはそんなパートナーを心待にしていた。
どんなに極限の状態であっても物に対して心を砕くことのできる人。それが理想のパートナーであった。
そんな人がゲストの中にいるだろうか。
ホストは運命のパートナーを探した。運命がそこにいるのだと信じて、二つの硝子の瞳で見つめ続けているのである。
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