第43話 ラスボス到来?

 家に帰ってから俺たちはソファーに座り、だらーっと脱力していた。


「なんかすごい一日だったな」


「はい。色々ありすぎました」


 母校に行き、蓮見先生の今の職場に行き、文字通りの涙の再会を果たし、野々花に見つかり、共同生活を解消して美鞠は実家に戻れと言われ……


 さすがに頭が混乱していた。


「野々花ちゃん、かなり熱くなってましたね」


「まぁな。でも野々花の言ってることも一理ある。少なくとも共同生活は解消すべきなのかもな」


「そんな……蒼斗くんはどこで暮らすんですか?」


「それはまあ、どっかに部屋を借りて暮らすよ。幸いというか、お金はあいつらから振り込まれるわけだし」


 俺がそう言うと、美鞠はムクっと身を起こして俺に顔を近づける。


「それはダメです。そんなことしたら進学するお金がなくなっちゃいます。進学して教員になるって蓮見先生と約束したばっかりじゃないですか」


「それは……まぁ……」


 これまではなんとなく目指していた教員だったが、先生と約束したことでどうしても叶えたいものに変わった。


「共同生活をしていれば家賃もいらないんですし、お金は進学するのに使えます」


「それはそうだけど、いつまでも甘えてはいられないだろ」


「甘えてるのは私の方なんですから気にしないでください」


 美鞠は必死で引き留めてくる。


「気持ちはありがたいけど……」


 俺の問題もそうだが、美鞠の方の問題もある。

 野々花が言う通り、お父さんといつまでも仲違いしている状況は問題である。

 しかし美鞠の気持ちを考えると、無理強いもできない。

 どうしたものだろうか……



 翌日の午前中。

 買い物に行こうと家を出る。

 朝から気温が上がり続け、既に外は出歩くのが危険なほどの暑さだった。


 普段は買い物に一緒に行きたがる美鞠も、夏が本格化してからは一度もついてこない。

 まあ欲しいものはリストに書き出しているので、一人で行っても困ることはないからいいけど。


「ん?」


 マンションから少し離れたところに見慣れない高級車が止まっていた。

 俺が近づいていくとドアが開き、中からスーツを着てサングラスをかけた男が出てくる。

 真夏にピシッとスーツを着ているという時点で、なにか物々しさを感じさせられた。


 男は辺りをチラッと確認してから俺に近づいてくる。


「積田蒼斗くんだね?」


「あ、あんたは誰だ?」


 いつでも逃げ出せる体勢で聞き返す。

 直感で分かっていた。

 こいつはクソ養父母の借金取りだ、と。


 借金の返済についてはかたがついたという話だったが、ああいう奴らは法律などは無視して付き纏ってくるものだと聞いたことがある。


 しかし男は驚愕の名を告げてきた。


「私は三津山暁久あきひさ、三津山美鞠の父だ」


「……え?」 


 ある意味、借金取りよりもヤバい。

 暑くて流れていた汗が止まり、冷や汗に変わった。

 暁久パパはサングラスをかけているので表情は分からないが、少なくとも笑顔ではなさそうだ。


「み、美鞠、さんのお父さん?」


「ちょっとお話できるかな?」


 暁久さんは有無を言わせない威圧感で俺を車に乗せた。



 車は海の方へと向かって走っていた。

 車内に会話はない。

 もしかしてこのまま港の倉庫とかに連れて行かれて殺されちゃうのだろうか?

 そんな気分にさせられるくらい、暁久さんは迫力があった。


「あ、あの……三津山さん」


「話はあとだ」


「すいません……」


 無言に耐えかねて先に謝ろうとしたものの、厳しい声で拒まれてしまう。

 生きた心地がしないまま連れてこられたのは港の倉庫ではなく、ハーバーエリアにある豪奢なホテルだった。


「ついてきたまえ」


「は、はい……」


 言われるままに付いていくと、ホテル内にある高級そうなカフェに案内された。

 海側のテラスからは港が見下ろせ、店内は南仏のリゾート地のようなオシャレな装飾がなされていた。


 二人で使うのが申し訳ないようなゆったりとしたソファーの席に案内され、俺たちは向かって腰掛ける。


「好きなものを頼みたまえ」


「ありがとうございます……」


 メニューを見て度肝を抜かれた。

 サンドイッチやパフェなど喫茶店の一般的なメニューが並んでいるが、桁を一つ間違っているのではないかという価格だった。


「しょ、食事は済ませていたので飲み物を」


 慌ててページを捲り、ドリンクの項を開く。


 アイスコーヒー 1800円

 ブレンドコーヒー 2000円

 生果汁しぼりたてフレッシュジュース 2800円


 椅子に座ってなかったら目眩を起こして倒れていたかもしれない。


 気を落ち着けるためにグラスに注がれた水を飲む。

 なんだかこの水までずいぶん高級なものに感じてしまう。


 戸惑っているうちに店員さんが注文を聞きに来てしまった。


「私はアイスコーヒー」


「じゃ、じゃあ俺もそれで」


 なんとかそれだけ答え、おしぼりで意味もなく手を拭く。

 完全に空気に飲み込まれてしまっていた。




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