第33話 オトナのラブロマンス

「これもいいなー。あ、これとか面白そう。ん? これも聞いたことあるタイトルですね。やはり古典から攻めるのがセオリーなんでしょうか?」


 美鞠はあれこれと目移りさせながら画面をスクロールさせていく。


「なんで洋画ばっかり探してるんだ?」


「えー、だって邦画で、しかも高校生の恋愛ものとかだったら、なんだか生々しくないですか?」


 美鞠は少し照れたように笑う。


「確かにな……」


「それに私はもっと大人の恋に興味があるんです」


 子どもっぽい恋愛もしたことがない奴がよく言うよ。

 という目で美鞠を見る。


「……なんですか?」


「いや、別に」


 流石に今の視線の意味は気付いたようで、美鞠は少し怒った目で俺を睨む。


「それにしてもみんな似たような感じで、どれがいいか分からなくなってきました。中華街でお店を決めるときみたいな気分です」


 独特な例えだがなんとなく分かるので、笑ってしまった。


「適当でいいだろ。これなんてどうだ? 『恋する街角』ってやつ。評価点高いみたいだし」


「いい感じですね。了解です」


 適当に選んだ『恋する街角』をスタートさせ、俺たちはソファーに座る。


 舞台はニューヨーク。

 キャリアウーマンの主人公アネッサは億単位のお金を動かし巨大都市の開発を行う。

 学生時代の友達はみな結婚しており、ささやかながら幸せな人生を送っている。


 一方アネッサはセレブたちとパーティーなどを開き、華やかな世界に身を置いていた。

 しかし一人きりの部屋に帰ると言い切れない虚しさに襲われている。


 そんなある日、彼女は売れない劇団員の男ジュードと出会う。

 みすぼらしい服装で夢だけを追うジュードを見下していたアネッサだが、次第に惹かれていく。

 と、ここまではよくありがちなラブストーリーだったのだが──


 Anessa……


 Oh……jude……C'mon……


 突如抱き合いながらベッドに倒れ込んだ二人は、激しくキスをしながらお互いの服を荒々しく剥がし合う。


 えっ……

 いきなり!?


 裸になった二人は抱きしめ合いながらベッドの上で揺れる。


 バカな……朝チュンじゃ、ないだと……!?


 アネッサはゆさゆさとバストを揺らしながら、天井を見上げて熱い吐息を漏らしていた。


 マジかよ……

 なんでこんなものを美鞠と観なきゃいけないんだ。

 めちゃくちゃ気まずいじゃねぇか!


 チラッと横を見ると、美鞠は顔を真っ赤にし、うつ向いていた。


「な、なんか、ちょっとアレだな、これ」


 俺はリモコンを手に取り、電源を消そうとした。

 しかしものすごい速度で美鞠が俺の手を握り、それを阻止してきた。


「せ、せっかくここまで観たんですから、最後まで観ましょう。き、気になりますし」


「そ、そうか?」


 せっかくここまで観たと言っても、まだ始まって二十分も経ってないんだが……


 俺たちはお互い身体を硬直させながら、無言で画面を眺めていた。


 気まずい時間は五分ほど続いた。

 しかしホッとしたのも束の間、十分後にはまた新たな濡れ場に突入してしまう。

 摩天楼を見下ろすホテルの一室、車の中、人気のない海辺、時にはパーティ会場のトイレで二人はいたしまくってしまっていた……


 美鞠は太ももをピタッと閉じてモジモジと腰を動かしていた。

 耳まで真っ赤にし、うつ向きながら上目遣いで画面を見ている。


 俺はポケットに手を入れ、ポジションをひたすら直さなければいけない事態に陥っていた。


 くそ……

 DVDならパッケージを見てヤバそうなのに気付けたのに。

 サブスクの弊害だな、これは。


 ストーリーは濡れ場と濡れ場の繋ぎ程度の、あってないようなものだった。


 惹かれ合い、すれ違い、喧嘩して、最後は誤解も解けて仲直りのハッピーエンド。

 絵に描いたようなありきたりの物語だった。

 こっそりネットで検索すると、原題は『NAKED LOVE』だった。

 誰だよ、恋する街角なんて洒落た邦題つけたのは……


「な、なんかありがちなストーリーだったな」


「え、ええ、そうですね。捻りがなくて先が読めました」


「そもそも恋人になるまでのお互いの気持ちとか全然わからなかったし」


「アメリカの人はあんな感じなんですかね。あまり日本人には参考にならない恋愛観でしたね。ははは……」


 二人とも敢えてラブシーンには触れず、ストーリーの感想を言う白々しい時間が過ぎる。


 しかし──


「アネッサさん、おっぱい大きかったですね……」


 耐えきれなくなったのか、美鞠がポロッとこぼした。

 さすがにそんなところ見てなかったという言い訳は通用しないだろう……


「ま、まぁ、そうかな。でも美鞠も大きいよな」


 って、何を言ってるんだ、俺は!?

 あまりにも衝撃的な鑑賞会だったので、頭がぽーっとしてしまっていた。 

 美鞠はボッと顔を真っ赤にして胸元を腕で隠す。

 しかしムギュッと潰れてしまい、余計胸が目立ってしまっていた。


「……蒼斗くんのえっち」


「み、美鞠が変なこと言い出すからだろ!」 


「わ、私は映画の感想を言ったまでです」


 映画の感想がおっぱいの大きさってどうなんだよ。

 まあ確かにそれくらいしか語るところがない作品だったけど……


「な、なんだか眠くなっちゃいました。おやすみなさい」


「お、俺も眠くなってきたな」


 眠気なんてゼロだが、俺たちはそそくさと自室へと戻った。

 さすがにホラー映画の時のように一緒の部屋で寝ようという話にはならなかった。そりゃそうだ。

 その夜は布団に入ってもずいぶん長い時間眠れなかったのは言うまでもない。

 恋愛初心者の俺たちに、オトナのラブロマンスはまだ早かったようだ。



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