第30話 ルカの正体

 美鞠との約束の日はあっという間にやって来た。

 待ち合わせの喫茶店に向かう俺の足取りは重い。

 緊張をほぐすように深呼吸をし、グッと腹に力を込めた。


 彼女と知らない男が同居してるなんて聞かされたら、普通ブチギレる。

 数発殴られることも覚悟しないとな……


「どうしたんですか、蒼斗くん。ずいぶんと暗い顔ですね」


「そりゃそうだろ……むしろ美鞠はなんでそんなにハイテンションなんだよ」


「私の大切な人と大切な人の初対面の日ですよ? そりゃ気分も上がります」


 美鞠はにっこりと笑い、両手の拳を握る。

 世間知らずだと思っていたが、まさかここまでだとは思わなかった。


 もはや話しても無駄だと諦め、黙って美鞠についていく。


「ここです!」


「お、おう……」


 美鞠に案内されたのは、水色の壁にピンクのドアというメルヘンチックな喫茶店だった。

 店内は更におとぎの国感が強く、擬人化された動物の人形やらカラフルな絵皿などが所狭しと飾られている。


 店員さんもファンタジーゲームのキャラのようなエプロン姿だ。


「あ、もう来てます。蒼斗くん、こっちです」


 美鞠が手を振りながら向かった席には、眼鏡をかけたミディアムボブの女の子が座っていた。

 ハイテンションで手を振る美鞠を恥ずかしそうに見ている。


「蒼斗くん、こちらがルカちゃん、私の親友です」


「ちょっと美鞠。いきなりあだ名で紹介しないでくれ」


「あ、そうでした。手計てばかり遥香はるかちゃんです」


「えっ……?」


 ちょっと待て。ルカって……


「女の子だったのか……」


「当たり前じゃないですか。私、男の子の友だちは蒼斗くんしかいませんよ?」


 美鞠は不思議そうに俺を見ていた。


「そ、そうだったんだ……あはははは……」


「まあボクは見た目男の子っぽいって言われるからな」


 手計遥香は照れたようにうつ向く。

 って、ボクっ娘だったのかよっ! 紛らわしい!


「い、いやいや、見間違えたわけじゃなくて」


 どうやら俺の早とちりだったようだ。


 ホッとするとなんだか急におかしくなり、声を出して笑ってしまった。

 唐突に笑い出した俺に、二人は当然ながらびっくりしていた。


「どうしたんですか!?」


「いや、実はさ──」


 先日うっかり二人のメッセージのやり取りを見てしまったことや、今日は彼氏であるルカに殴られるとビビっていたことを正直に話した。


「あはははは!」


「ボクと美鞠が付き合ってるって! アハハハ!」


「笑ってるけど、普通そう思うだろ」


「だめ、お腹痛い」


「殴られる覚悟って! 愉快な奴だな! あははは」


 手計遥香はなかなか独特な喋り方である。

 はじめは驚いたが、慣れると気さくな感じがして悪くない。


 二人が落ち着く前に注文したケーキや飲み物が到着してしまった。

 メルヘンチックな店内に負けなず、メニューも可愛らしいものばかりだった。


「それで俺と手計さんを会わせた理由って? これからも俺と美鞠が暮らすために必要だったんだろ?」


 話題を切り替えると、ようやく美鞠は笑いをやめた。


「実はルカちゃんと私は一緒に同人誌を作ってるんです。だからうちに作業に来ることもあるんで、その前に二人の顔合わせをしたかったんです」


「なんだ、そんなことかよ……変な言い方するなよ」


 あれこれ悩んで覚悟まで決めたのが馬鹿みたいだ。


 ふと気付くと、手計遥香がジィーっと俺の顔を見ている。


「なに?」


「美鞠が言う通り、蒼斗くんって青葉に似てるな」


「ああ、美鞠が好きな『ベリー☆シャス』って漫画の主人公のことか。そんなに似てるかな?」


 どう反応していいのかわからず、頭を掻きながら首を傾げる。

 それを見た美鞠と手計遥香が「おおー!」と色めき立つ。


「な、なに?」


「その仕草、青葉もよくやるんだよ。名前や見た目だけじゃなくて、仕草も似てるんだな」


 手計遥香が目を爛々とさせながら頷いていた。


「そうなんです。蒼斗くんは青葉の生まれ変わりじゃないかって思ってるんです」


「なんで俺の生誕よりあとに始まったアニメキャラの生まれ変わりにならなきゃいけないんだよ」


 カオス過ぎる発言に苦笑いする。


 彼女らは俺と青葉の共通点をあれこれと話したあと、ようやく手計遥香の紹介をした。

 二人は幼馴染で、中学までの同級生だったそうだ。

 美鞠はうちの高校に入学したが、手計遥香はそのまま女学校の高等部に進学していた。


「漫画は小学生の頃から二人で描いてたんです」


「へぇ。手計の家は漫画禁止されてなかったのか?」


 問い掛けると手計遥香は不服そうに唇を尖らせた。


「手計って好きじゃないんだ。ボクのことは遥香かルカって呼んでくれ」


「じゃあルカ。漫画はオッケーなわけ?」


「いや。ボクのうちも禁止なんだ。だからバレないよう、こっそりと。作業するときは図書館か美鞠の家でしていた」


 美鞠と同じ学校ということはルカも『いいとこのお嬢さん』なのだろう。

 裕福な家庭なのはいいことだが、好きなことを禁止されるのは可哀相だ。


「私が一人暮らしを始めてからは、主に我が家が作業場でした」


「そうなんだ。なんか悪いな。俺が住み始めてからは来られなかったんだな」


「蒼斗くんの迷惑になるかなと思いまして」


「迷惑なわけないだろ。これまで通り二人で作業してくれよ」


「いいのかい?」


 ルカが目をキラキラさせる。


「いいも何も。大歓迎だ」


「やった! ありがとう!」


「蒼斗くん、ありがとうございます」


 二人は大袈裟なくらい喜んでいた。

 居候の俺に気を遣ってくれるなんて、二人ともいい奴だ。




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