陰謀と逃走

母とイトが王室に居た事は幼い頃に父リモーからそれとなく聞かされていたが、この地でやり直そうとしたところへ災害に見舞われ‥‥娘を先立たれたイトの悲しみは計り知れないだろう。


ルコットはそれまでの景色を消した、暗く荒涼とした世界を目に哀しげに呟く。


「どうして神様はおばあちゃんを苦しめたのだろう」


「だがイトさんには君がいる。君がずっと励ましてくれたお陰で彼女は救われたのだと」


「そうかな」


そう言われ重い表情だったルコットは雨に濡れた顔をシャトルに向けた。

その時だった。


「話はそれくらいにしてくれないか!」


突然の威圧的な声に二人が驚くと、そこにセイル士官が立っているではないか。


「シャトル‥その女を捕まえろ」


獲物を捕まえるような表情のセイルにシャトルは確認するように尋ねる。


「セイル士官‥俺を嵌めるつもりだったのですね?」


「ふっ、察しがいいな」


セイルはにやりとする。


「あの婆を始末し、その娘も始末する。盗ませた重力浮遊車グラビティをこの地で見つけると、全てはお前がやった事だったと。

そうするつもりが台無しだよ」


「ばかな!」


極秘任務だと信じて従っていた自分が王室の疑惑のダシにされていたと知り、憤るように声を上げる。


「王妃に会わせる為ではなかったのですか?何故‥‥」


「王子は何も解ってないからねぇ。側に付いていたからやむなく人探しに付き合ってあげたが‥‥謀反を企む輩が追放された元王妃とその末裔を見つければ利用しかねん。

だから‥‥‥お前達はここで消えてもらう!」


セイルの殺気を帯びた叫び声で音を立てて現れたのは黒鉛のZ型重力浮遊車グラビティ


突き出た部分から扉が開き、顔を出したリシャの誘導でセイルは乗りこんだ。


セイルの乗ったZ型は片翼にも関わらず安定したバランスで突き進み、停めてあったA型の重力浮遊車グラビティを圧壊する。


「くそっ」


「早く乗って、逃げるわよ!」


急いでコバンに乗り込む二人にセイルは絶叫する。


「そんなおもちゃで逃げ切れると思ってるのかぁあ!!」


セイルのZ型と走り去るコバンはまるで大鷲とウサギのようだった。


あらゆる土砂や倒れた木の間をすり抜けていくコバンに対し、Z型は離れては幅寄せを甚ぶるように繰り返す。


「まさか‥‥こんな目にあうとは」


執拗な煽り行為に命の保証まで無くなったシャトルはドン底の縁に追いやられる。


「ははははっ、ここは不法区域なのだぞ。何をしてもお咎めは無いのだよ!」


「確かに‥‥」


コバンの車窓から身を乗り出したシャトルは銃を構える。


「だけどこの国には、カミサマの御利益の他に、タタリと言うものがあるんだ。‥‥悪い奴には必ず報いが起こるのだと」


接近してくるZ型に銃を撃つと、空へ響く音に反応した山の土砂が一気に落ちていく。


「ウグォッ!」


土と木々に埋もれ視界が塞がれていくZ型は片翼が押し潰され、バランスを崩したまま抜け出す事が出来なくなった。


「たっ助けて!」


暗闇に変わり、息も出来なくなったZ型の中でセイルとリシャの声はどんどんかき消されていく。


「‥‥助ければその娘‥お前を王妃にしてやる。だから命ばかりはあああぁぁぁ」


「そんなものはいらない」


調子の良いセイルの命乞いに言い捨てるように不法区域を後にするルコットは、手にした物を握り締める。


「私は‥‥これがあればいいのよ」

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