第24話 もしかして結人は童貞って言われて興奮しちゃった?

 ビュッフェで料理を食べながら盛り上がっているうちに気付けば制限時間の九十分が経過していた。俺達は会計を済ませて店の外に出る。


「今日はいっぱい話せたね」


「はい、結城先輩のおかげで楽しかったです」


「ありがとうございました」


「結人もこんな美人な幼馴染のお姉さんがいて幸せだな」


 健二と翔、海斗は三人とも完全に鼻の下が伸びておりデレデレしただらしない表情になっていた。これは間違いなく堕ちたに違いない。

 俺は夏乃さんによって堕とされた男子を過去に何人も見てきたためよく分かる。まあ、告白した奴らは一人の例外なく撃沈させられていたが。


「じゃあ俺達はそろそろ帰りますので」


「はい、ストップ。結人にはまだ付き合って貰うから」


 俺が三人と一緒に帰ろうとしていると夏乃さんから右手を掴まれて止められた。


「えー、家に帰って明日の予習をしたいんですけど」


「残念ながらそれは認められないかな」


「もう晩御飯もさっき済んだんですからこれ以上する事なんてないでしょ」


「つべこべ言わない、ってわけだから結人を借りるね」


 そう言って夏乃さんは三人の方を見る。皆んな頼むぞ、 ビシッと何か上手い事を言って夏乃さんの暴走を止めてくれ。


「どうぞご自由に」


「煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」


「またな、結人」


「あっ、おい!?」


 なんと三人は俺の事を見捨て帰り始めた。男の友情ってこんなにも儚いものだったのか。


「結人の友達の了承も得られたし行こうか」


「……はい」


 もはや逃げられない事を悟った俺は大人しく従う事にした。それから俺は夏乃さんと一緒に歩き始める。


「それで結局どこに行くんです?」


「うーん、どうしようか?」


「いやいや、何も予定が無いのに俺を付き合わせようとしないでくださいよ」


 俺は思わずそうツッコミをいれた。どうやら夏乃さんは何も考えていなかったらしい。


「とりあえずステラバックスに行こうか。久々にステバで何か飲みたかったし」


「分かりましたよ、それ飲んだら帰りましょうね」


「うん、前向きに検討するよ」


「それって初めから約束を守る気がない人のセリフだと思うんですけど……」


 そんな会話をしながら俺達はステラバックスを目指して歩き始める。ステラバックスは若い女子に人気で学校でもよく新作の話題などで盛り上がっている姿を見るが実は俺は行った事がない。

 だから今日がステバデビューだったりする。少し歩いて店に到着した俺達は早速順番待ちの列に並ぶ。


「私はキャラメルフラペチーノにするけど結人はどうする?」


「……ちなみにおすすめって何ですか?」


「ステラバックスラテが初心者向けかな、それがステバで一番ベーシックなメニューだから」


「ならそれにします」


 名前だけ聞いてもどんな飲み物かイマイチよく分からなかったが別に好き嫌いなどは特にないため問題はないだろう。そんな事を思いながら待っているうちに俺達の順番がやって来る。


「キャラメルフラペチーノのグランデでカスタムのチョコソースとチョコチップが一つとステラバックスラテのトールが一つ」


 夏乃さんは慣れた様子で注文をしていたが俺は色々とちんぷんかんぷんだった。


「グランデとかトールって何ですか?」


「ああ、サイズの事だよ。SMLとかじゃなくてショートとトール、グランデ、ベンティって呼び方になってるんだ」


「へー、なんかちょっとお洒落ですね」


「それと飲み物にはカスタムでトッピングを追加できるシステムになってるから」


 なるほど、さっきのチョコソースとチョコチップは追加のトッピングだったのか。ステバ初心者過ぎて全く知らなかった。受け取りカウンターで注文した飲み物を受け取った俺達は四人掛けの席に着く。


「ステバ童貞を卒業した気分はどう?」


「どうって言われても別に普通ですけど、てかびっくりするので急に童貞とか言わないでくださいよ」


「もしかして結人は童貞って言われて興奮しちゃった?」


「そんな事ないですって」


 口ではそう言いつつ実は興奮していただなんて口が裂けても言えない。夏乃さんの口から出た童貞卒業というワードは破壊力抜群だった。


「てか気になってたんですけど夏乃さんは何でこっちに座ってるんですか……?」


「何でだと思う?」


「……いや、全く想像すら付かないんですけど」


 夏乃さんは四人掛けのシートに座ったにも関わらず何故か俺の隣に陣取っているのだ。対面の向こう側に座るのが普通だと思うのだが。


「正解は結人にくっつきたかったからでした」


「ちょっ、辞めてください!?」


 急に密着してきた夏乃さんに俺はそう抗議したが辞めてくれそうな気配は全く無い。めちゃくちゃ目立っているから辞めてほしいと思う反面、ちょっとドキドキしている自分もいた。


「結人を虐めるのはこれくらいにしてあげようか、やっと二人も来た事だしさ」


「えっ……?」


 夏乃さんの言葉の意味が分からずポカンとしていた俺だったがすぐに意味を理解する事となる。夏乃さんの視線の先を見るとそこにはいつも通りニコニコした凉乃とあからさまに嫉妬の表情を浮かべた兄貴が立っていた。

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