第18話 うーん、彼氏って事にするとか?
龍神水舎を後にした俺達は授与所でおみくじを引いていた。正月に初詣へ行っておみくじを引いた時は吉だったはずなのでそれよりも良い結果が出て欲しい。
「あっ、結人見て。私のおみくじ大吉だったよ」
「良かったですね」
「これも私の日頃の行いが良いおかげかな」
おみくじの結果を見せてきた夏乃さんはかなりハイテンションな様子だ。よっぽど大吉を引けて嬉しかったに違いない。
この流れで俺も大吉が出ないかなと思いながら俺は自分のおみくじを開く。そこには末吉という文字が書かれていた。
「末吉って事は吉より下だからランクダウンしてるじゃん」
「私の勝ちだね」
「おみくじに勝ち負けなんて無いでしょ」
「それはそうかもしれないけどさ」
「まあ、運勢よりも書いてある内容の方が重要だと思うので」
そう口にしながら俺はおみくじを上から順番に読み始める。願望や学問の項目には結構良い事が書かれていたため内心喜んでいたわけだが、恋愛の下に書かれていた文字を見た瞬間俺は思わず声を上げてしまう。
「えっ!?」
「どうしたの、何か凄い事でも書いてあった?」
そう言って夏乃さんは俺が持っていたおみくじを覗き込んでくる。黙っておみくじを見ていた夏乃さんだったがすぐに俺が驚いた理由に気付いたらしい。
「へー、恋愛に諦めなさいって書かれる事もあるんだ」
「……縁結びの神社まで来て引いたおみくじがこの結果なのはいくらなんでもあんまりな気がするんですが」
「むしろめちゃくちゃレアだと思うからある意味ラッキーじゃない?」
「そんなの全然慰めになってませんよ……」
神から恋愛を諦めろと言われる事なんてよっぽどだろ。冗談抜きで軽くトラウマになりそうだ。もうおみくじなんて当分の間は引きたくないし、なんなら視界にすら入れたくない。
「私のおみくじの恋愛項目には思い通りになるって書いてあったから皆んな割とポジティブな事が書かれてるのかと思ってた」
「めちゃくちゃ良い事書かれてるじゃないですか、俺のおみくじと交換しません?」
「そんな事をしたら私の恋愛が叶わなくなっちゃうかもしれないから却下で」
そんな話をしながら俺達は境内の指定箇所におみくじを結び始める。おみくじは持ち帰っても別に問題ないらしいが結果があまりにも悲惨過ぎてそんな気にはなれない。
「何でおみくじを結ぶかって結人は知ってる?」
「確か神様との縁を結ぶ為ですよね……」
どこかでそんな話を聞いた事があったため一応知っていた。まあ、今思い出すまでは完全に忘れていたわけだが。
「そうそう、神様との縁を結ぶ事によって物事を良い方向に導いて貰うって考え方があるんだって」
「もし本当に神様がいるなら俺にこんな酷い結果を突きつけてきた事に対して文句を言いたいんですけど」
「そんな事をしたら罰が当たりそう」
それからおみくじを結び終わった俺達は来た時とは逆方向に参道を歩いて次の目的地へと向かい始める。そして二人で雑談しながら歩き続けて芦ノ湖のほとりまでやって来た。俺達の目的は湖上に立つ朱色の鳥居だ。
「これが平和の鳥居なんですね」
「めちゃくちゃ映える写真が撮れそう」
鳥居越しに芦ノ湖の絶景が広がるこの場所は絶好の撮影ポイントのようでかなり長い行列ができていた。平和の鳥居と芦ノ湖の景色は多分箱根の中でもトップクラスの映えスポットに違いない。
ちなみに平和の鳥居は第二次世界大戦後に連合国と締結されたサンフランシスコ平和条約を記念して建てられたようだ。
扁額には当時の首相が記した平和という直筆の文字が書かれているようだが湖側を向いているため残念ながら俺達がいま立っている陸側からは見る事が出来ない。順番を待ってから平和の鳥居前で二人の自撮り写真を撮る。
まるで湖に浮いたように佇む鳥居の前で撮った写真はめちゃくちゃSNS映えしそうだ。そう思っていると夏乃さんは早速SNSに撮った写真をアップしようとしていた。
「ち、ちょっと待ってください。ひょっとしてまさかそれをあげるつもりですか?」
「そうだけど何か問題でもある?」
「問題しかないでしょ、夏乃さんだけならともかく何で俺が一緒に写っている写真をさらっと上げようとしてるんですか。てか、そもそも俺の事は一体どう説明するつもりなんです?」
どう考えても投稿を見た人に色々と誤解を与えてしまいそうな気がするのだが。
「うーん、彼氏って事にするとか?」
「いやいや、兄貴とか凉乃も夏乃さんのアカウントをフォローしてるんですから普通に考えて駄目でしょ」
凉乃に誤解されるのも困るがそれ以上に今回のプチ旅行を兄貴に知られる事だけは絶対に嫌だった。せっかく母さんに対して今回のプチ旅行の件を口止めしたというのに全てが無駄になってしまう。
「そこまで言うなら今回は勘弁してあげる、お姉ちゃんに感謝してよ」
「とりあえずありがとうとだけは言っておきます」
そう口にはしたが感謝する気なんてこれっぽっちも無かった事は言うまでもない。
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