第2話 だって結人には綾人にはない良いところがたくさんあるんだから
しばらくバイクで走り続けて駅前のカフェに到着した。駅前を通るたびに思ってはいたがやはりお洒落な雰囲気が漂っていて強い場違い感がある。
「やっぱり帰っていいですか?」
「勿論駄目に決まってるじゃん」
「そこを何とか……」
「じゃあ私の新しい下着選びに付き合ってくれるなら許してあげてもいいけど?」
そっちの方がもっと無理だ。やはりカフェに付き合うしか無いらしい。夏乃さんと店内に入るとすぐに店員から席に案内された。
「ここは私が奢ってあげるから好きな物を注文して良いよ」
「ありがとうございます」
メニュー表を見るとどれもこれもそこそこ良い値段していたため奢ってくれるのは非常に助かる。
ただしあまり長居はしたくないため飲食に時間が掛かりそうなものは避けたい。色々と迷ったがホットコーヒーを注文する事にした。
「夏乃さん、俺は決まりましたよ」
「何にするの?」
「ホットコーヒーにします」
「オッケー、私の方も決まったから注文するね」
夏乃さんはテーブルに設置されていた呼び出しベルで店員を呼ぶ。そして注文を伝えるわけだが夏乃さんはとんでもない言葉を口にする。
「すみませんホットコーヒー二つと……それから
「……えっ!?」
俺は夏乃さんの言葉を耳にした瞬間、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。カップル限定特大パフェを頼むとは思ってすらいなかった事は言うまでもない。
「ち、ちょっとカップル限定特大パフェって何ですか!?」
「ああ、メニュー表に載った写真を見たら美味しそうだったから食べたくなってさ。男女で来てないと注文できないって書いてあったからつい頼んじゃった」
「無茶苦茶過ぎる……」
「って訳だからよろしく」
ニコニコとしている夏乃さんに対して俺は呆れ顔になっていた。そう言えば昔から夏乃さんは思いつきで行動する事が時々あったため多分今回もそれだろう。
それから少ししてホットコーヒーとともにテーブルに運ばれてきたカップル限定特大パフェはその名の通りかなり巨大だった。
周りの席からも視線を向けられているため居心地が悪いったらありゃしない。
「結人も食べる?」
「いや、俺は遠慮しときます」
「でも多分一人じゃ食べきれないと思うから結局は結人に手伝って貰うと思うけどね」
「……後先考えずに頼まないでくださいよ」
「ごめんごめん、でもこんなに大きいとは思ってなくてさ」
一応謝罪の言葉を口にする夏乃さんだったが、多分悪いとは思っていないに違いない。そんな事を考えつつ俺は渋々一緒にパフェを食べ始める。
「それで最近調子はどうなの?」
「めちゃくちゃ雑に聞いてきますね……まずまずってところです」
「そっか、それは良かった」
「まあ、やっぱり何をやっても兄貴には勝てませんけど」
俺が自虐的にそう話すと夏乃さんはパフェを食べる手を止めて少しムスッとした表情になってしまう。
「結人って昔から何かあるたびに綾人を引き合いに出してるけど私的にはあまり感心しないな」
「でも皆んな俺の事を兄貴の劣化版とか下位互換とかって思ってますよ」
「そんなの思いたい人にだけ勝手に思わせておいて無視すれば良いんだよ。だって結人には綾人にはない良いところがたくさんあるんだから」
そう口にした夏乃さんの表情は真剣そのものだったが俺は信じきれないでいた。その理由は夏乃さんが兄貴以上にハイスペックな人間だからだ。
優秀な兄貴ですら敵わない夏乃さんから見て、そんな兄貴の足元にも及ばない俺のどこに良い部分があると言うのだろうか。
「あっ、信じられないって言いたげな顔してるね」
「だってそうでしょう」
「まあ良いよ、本人すら知らない結人の良いところを私だけで独占させて貰うから」
「……ちなみに兄貴には無い俺の良いところって何ですか?」
「それは秘密」
そう言い終わると夏乃さんは再びパフェを食べ始める。そんな様子を横目で見つつ俺は兄貴にはない自分の良いところを改めて考えてみたが、パフェを食べ終わる頃になっても思い浮かばなかった。
「ふぅ、美味しかった」
「めちゃくちゃ満足そうな顔してますね」
「そりゃパフェを食べるためにわざわざ結人とここまで来たんだから満足するに決まってるよ」
「……あれっ、さっきはメニュー表を見て美味しそうだったからつい頼んだって言ってませんでしたっけ?」
俺の言葉を聞いた夏乃さんはニッコリとした笑顔を浮かべる。その瞬間俺は全てを察した。
「ひょっとしてまさか初めからあのパフェが目的だったんですか……?」
「あちゃー、やっぱりバレちゃったか」
どうやら今回の件は全て計画的な犯行だったらしい。
「ったく、俺を巻き込まないでくださいよ。夏乃さんが頼めば一緒に来てくれそうな男なんて俺以外にもたくさんいるでしょ」
「だって変な勘違いさせちゃっても可哀想じゃん」
「俺が勘違いするって可能性は考えなかったんですか?」
「えっ、もしかして勘違いしてくれたの?」
「勿論してませんけど」
最近はほとんど無いが俺の事を兄貴と勘違いした女子から告白された挙句がっかりされた経験があるため、絶対に勘違いなんてしない自身がある。
それに夏乃さんは俺の事を弟的な存在としか思っていないはずだ。今回パフェを食べるために俺を利用したのもそれがあっての事だろう。
「……結人は相変わらず拗らせてるね」
「それが俺って人間ですから」
「そんなんじゃ一生彼女出来ないんじゃないの?」
「心配していただかなくてももう既に彼女はいるので大丈夫です」
まあ、画面の中からは絶対に出てこれないが。そんな事を考えていると夏乃さんはコーヒーカップを手に持ったまま固まってしまった。
多分俺の言葉は予想外だったに違いない。そのまま数秒間フリーズしていた夏乃さんだったがすぐに動き出す。
「一体どこの誰と何がきっかけで仲良くなっていつから付き合い始めて、二人の関係がどこまで進展しているのかを私に詳しく教えて欲しいな。あっ、勿論分かってるとは思うけど嘘をついたり誤魔化そうとしたら絶対に許さないから」
そう口にしながらテーブル越しに詰め寄ってくる夏乃さんの迫力は凄まじかった。何が悪かったのか分からないがとにかくこのままではまずい予感しかしない。だから俺は慌てて弁明をする。
「か、彼女と言っても二次元ですよ」
「ふーん、じゃあ本当に彼女がいないって事を証明してよ」
「証明しろと言われてもどうやって?」
彼女がいる証明ならまだしもいない証明なんて一体どうやれというのか。
「とりあえずスマホに入ってる連絡先とかを見せてくれたら信じてあげる」
「えっ、それは……」
「もしかして見せられないの?」
「分かりました、見せますよ」
逆らうと後がめちゃくちゃ怖そうなため大人しく従うことにした。
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