第32話 結局買いました


ハァ~困った。


僕は、異世界も冒険者の仕事について良く解らなかったんだ。


だって……冒険者の仕事には『採取』という仕事があったんだ。


だったら『空気人間』のある僕は充分一人でも生きていける。


だが、それでも塔子と綾子は引き取って良かったと思う。


『ただの同級生』


『友達でも無く、寧ろ敵だった』


『役立たず』


それでも、寂しさは紛らわす事は出来る。


いきなり日本人が海外に1人で放り出されて習慣が違う中で生きて行く。


今の僕はそれ以上の状態だ。


そう言う環境では『ただ日本人』それだけで懐かしく思える。


今の僕もその状態になっているのかも知れない。


ただの知り合い。


それでも居てくれた方が良い。


それで、僕はというと今現在、奴隷商に来ている。


奴隷は高い?


買わないんじゃなかったのか?


いや、そうも言ってられない。


思ったより二人の介護は大変だった。


介護疲れ…….


結構慣れた気がしたがやはり大変と言えば大変なんだ。


それと、此処暫く働いていたら結構な金額が溜まったから、とりあえず、見るだけ来てみた。


「これは、これは、お客様、今日はどう言った奴隷をお求めで」


「女の奴隷を安い方から見せて欲しい」


「ハァ~解りました」


商売にならない相手、そう思ったのだろう。


いきなり溜息だ。


まぁ、安い物から見たい。


余りよいお客じゃないのは確かだよね。


奴隷商に案内された奥。


カーテンを捲り奥に進めば進むほど劣悪な環境になっていく。


この辺りになると最早、只の檻に殆ど布切れ一枚羽織っただけの奴隷が放置状態だ。


前の世界のペットショップの方がまだマシかも知れない。


「この辺りが一番安い奴隷ですね。まぁ碌な者はいませんよ。あと、男女は分けて無いんで、適当に見て下さい。欲しい奴隷が居たら声かけて下さいね」


「解りました」


うん、安いだけあってお爺さん、お婆さんばかりだ。


まぁ安いって事はそんな物だよね。


ハァ~これじゃ受け入れたら、下手したら老人介護になるんじゃないかな。


駄目だ。


心を落ち着かせ、少しはまともな奴隷が居ないか探す。


基本的には、若ければそれで問題ない。


ブサイクでもデブでも問題ない。


あくまで介護要員なんだから。


しかし、酷いもんだ四肢が欠損している者か老人ばかりしか居ない。すこし無理して、もう少しはまともな奴隷も買うしかないのかな。だけど、今後を考えたら余りお金は使いたくない。


檻を注意深く見て回ると、おかしいな。


凄い美少女が入っている。


金髪の長い髪に華奢な体。


透き通る肌。


まるで物語の王女、貴族令嬢にしか見えない。


だが……


安い訳だ。


顔半分、焼けただれた様な痣がある。


元が凄い美少女だけにそれが凄く目立ち醜く見える。


「あのさぁ、君は介護とかできるかな?」


「介護、今の状態の私を買って頂けますの? 介護ならやっていましたからある程度は出来ますわ」


凛とした雰囲気。


貴族の令嬢かと思っていたんだけど、介護も出来るのか。


「そう……ちょっと待ってね」


「はい」


僕はカーテンの外に居る奴隷商に声を掛けた。


「この子、買うとしたら幾らでしょうか?」


「怪物令嬢……本当に買われるのですか?」


「怪物令嬢? 詳しく話を教えて貰えますか」


「ああっ」


貴族の妾の子として生まれたが、その美貌を正妻とその娘に疎まれて、主が亡くなった時に母親共々追い出されたそうだ。


その際に顔は正妻の子、姉に薬品で焼かれたものだそうだ。


しかも、この薬品が曲者でどう言う配合か解らないが、ポーションの治療や魔法でも絶対に治せないそうだ。


「此処まで聞いても、買うかい? 顔半分は美少女だが、あの顔はどうやっても治せない。だから商品としての価値は全くない」


「顔は兎も角、仕事は出来るよね」


「出来るが……あんな化け物みたいな顔の女、傍に置いて置きたくないよな」


「そう……それが解ってて買うなら幾らで良いんだ」


「銀貨1枚+奴隷紋の代金銀貨3枚で良いよ」


約4万円か。


「凄く安く感じるんだけど、この場所は兎も角として、普通に店頭に出ている奴隷は安くても金貨20枚はしていたよね」


「普通の奴隷は、その位しますよ! 此処の奴隷は見ての通り通常の奴隷じゃないですから……」


確かにそうか。


塔子と綾子は目が見えない。


介護が楽になるなら、顔が焼けていても気にならない。


これで介護から解放されるなら、うん問題ない。


「それじゃ買いますので宜しくお願い致します」


「えっ、本当に……ありがとうございます」


これで明日から介護しないで良いなら……うんうん問題ない。


それに外見なんて僕は気にならない。


顔は兎も角、体なら僕も傷だらけで火傷の跡も残っている。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る