第14話
「ガウガウガウ、ガブっ、ズルズル、ゴキュッ、ぷふぁー! 美味しいー、幸せー」
帰り道から少し逸れた場所にあるファミレスで鬼塚さんと食事中なのだが。
相変わらずというか、鬼塚さんの食事風景は圧巻だ。
チーズインハンバーグにカルボナーラ、ステーキとピザを頼んでご飯大盛りを三皿。
それを、俺が頼んだオムライスが来るまでの間にほとんど平らげてしまい、オムライスを持ってきた店員さんに「すみません、ストロベリーパフェ特大追加で」と。
若い店員さんは少し引いていた。
「んー、美味しいねえ。橘君のオムライスも美味しそう」
「よ、よかったら食べる?」
「え、いいの? あ、いや、ダメだよそんなの」
どうやらまだまだ食べれるようだ。
うーん、本当にすごい。
すごいという言葉以外思いつかない。
しかしこれだけ食べたら会計は五千円を優に超える。
鬼塚さんの家って金持ちなのかな?
吸血鬼って、勝手に貴族のイメージあるけど。
「んー、おいしかったー。早くパフェ来ないかなー」
俺より先に食べ終えてデザートを待つ鬼塚さんを見ながら、俺は帰り道での会話をふと思い出した。
俺となら、勘違いされてもいいっていうのは……つまり、俺なら彼氏だと思われても構わないってこと、だよな?
それって……い、いや、あくまでそう勘違いされても嫌じゃないってだけで。
あの言葉だけで、鬼塚さんが俺に好意を持っていると考えるのは早計だ。
落ち着け俺。
世の中には社交辞令って言葉もあるんだぞ。
「……」
「どうしたの? もしかしてお腹いっぱいでオムライス食べれなくなった?」
「あ、いや……うん、ちょっと多かったかな。食べる?」
「わー、いいの? 嬉しい」
食べかけのオムライスを鬼塚さんの前に置くと、目をキラキラさせながらスプーンを手に持って。
俺の食べたものなんて嫌じゃないかなとか、そんなセンチなことを考えてる間にもう、オムライスはお皿から消えていた。
これだけ可愛くて、これほど大食いだったらそれこそ大食いタレントとして今すぐにでもデビューできそうだな。
ほんと、美味しそうに食べるし。
でも、鬼塚さんって将来の夢とかあるのかな?
そもそも、彼女にとっての将来って、俺たちと同じ感覚でいいのかどうかも怪しい。
お母さんの事も含めて、吸血鬼について詳しく聞いてみたいけど、そんな話をしてもいいのだろうか。
「お待たせしました、パフェです」
話を切り出す間もなく、パフェがテーブルに。
そして再び目をキラキラさせながら鬼塚さんは早速スプーンで大きく一口。
「んー、美味しい! ねえ、橘君も一口どお?」
「え、俺? いや、それなら一口だけもらおうかな」
「うん。じゃあスプーン……あれ、一本しかないね」
「ほんとだ。えと、店員さん呼ぶね」
テーブルにあるスイッチを押そうとすると、その上に鬼塚さんが蓋をするように手を置いた。
「忙しそうだから、これで一緒に食べよ?」
「え、でも……」
「わ、私は別に気にしないからさ。ほら、あーん」
「あ……」
鬼塚さんが口をつけたスプーンがクリームを乗せて俺の口元に。
その瞬間だけで、俺は普段の何倍も頭をフル回転させた。
これは所謂間接キス。
そして、気にしないと言ってたけど明らかに鬼塚さんも照れてる。
これは食べていいやつなのか?
それとも、食べたらセクハラとかになるのか?
しかし無意識のうちに俺の口はゆっくりと開いていった。
そのまま、パフェが俺の口に運ばれた。
「ん……お、美味しい」
「で、でしょ? もういらない?」
「あ、いや、もう大丈夫かな、お腹いっぱいだし」
「そ、そっか。じゃあ、食べちゃうね」
俺が口をつけたスプーンで。
鬼塚さんはまたパフェを掬う。
それを口に運ぶ鬼塚さんの姿を、俺はドキドキさせられながら見守った。
彼女もまた、何度かこっちを気まずそうに見ながら。
パクリと、スプーンを咥えた。
「ん、美味しい……美味しい……はあ、はあ」
「お、鬼塚さん?」
「ご、ごめんなさい! ち、ちょっと……トイレ!」
「あっ」
鬼塚さんは慌てて立ち上がり、トイレに向かって走っていった。
急にどうしたのだろう?
さすがに食べすぎてお腹痛くなったのか?
♡
「……じゅる、橘君の味がした」
スプーンについた彼の唾液。
ほんの少しだけど、彼の味が私の口いっぱいに広がった。
美味しかった。
今まで食べたどんな食べ物よりも甘美で、優雅で、高潔な、そんな味がした。
私はその味を知ってしまった瞬間、目の前にいる彼が美味しそうに見えてしまった。
そのまま、襲ってしまいそうだった。
だからこうして、トイレに来たんだけど。
「……ふー」
っと深呼吸して。
赤黒く染まりかけた目が白く染まっていくのを鏡で確認してからもう一度大きく呼吸した。
「はあ……危なかった。気をつけないと」
トイレから出て、席にいる橘君を遠目から見る。
もう、美味しそうなんて思わない。
でも、あの美味しさだけは頭から離れない。
もしもあの勢いで、橘君を襲って血を吸ってしまっていたら……どうなっていたんだろう。
あれ、どうなるんだろう?
吸血鬼が血を吸ったら、相手はどうなるの?
な、なんか勝手にいけない事みたいに思ってたけど、そういえばお母さんから聞いたことなかった。
ううん、お母さんは何度か私に吸血鬼のことについて話そうとしてくれたけど、私は大丈夫だからって聞く耳持たなかったんだっけ。
……帰ったら、聞いてみよう。
もしかしたら、全然彼に被害がないかもしれないけど。
やっぱり、危険なものかもしれないし。
確かめるまでは、絶対に橘君をそういう目で見ないようにしないと。
よーし。
「すみません、あの席にジャンボパンケーキ二枚追加でお願いします」
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