最終章・明霞が選ぶ者。

第47話 今を選ぶ…。

明霞は一分一秒を惜しんで駅のホームに入る。

未だに心のどこかで、この決断の是非を問いている。

後を追ってきた望は何も言わずに明霞とは別の乗り口に立ち電車を待つ。


考えを変えるなら今だ。


そう思い、夢と恋の顔が何回も自分の中に出ては消える。

だが明霞はそれは後の事を考えたからで、自分の手で助けたい方を考えた時には答えは揺るがなかった。


そうしている間に、望の方には電車が到着して望が乗り込んでいく。


その姿を見て、この気持ちは不安感からくるもので、望を信じていないわけではないが、自分の手で助けたいからこそのモノだった。


入れ違うように明霞の前にも電車が来て飛び乗ると、明霞は恋の元へと向かった。


夢が嫌いなわけではない。

後少し考える時間があって、4月を迎えられていたら、こんな事にはならなかったと思う。

キチンと4月を迎えて、生活スタイルが変わった自分が悲しませない相手を見つけられると思っていた。

どこかでそれは夢なんじゃないかと思っていた。


だが今、高校生の明霞が選んだのは夢ではなく恋で、恋を守りたかった。

それこそ世良の「バカになれ」という言葉が明霞の中にあったからこそ、未来を見ずに今を選んだ。


今自分が守るのに相応しい相手は恋だった。

これが夢なら助けた後はどんな事が待っているか考えてしまう。

夢の事だから2人きりになったら何があるかわからない。


期待しない訳ではないが、期待したい訳ではない。

やはりまだ自分には早い。



だが望さんの言葉がなければ、夢さんの所に行ったと思う。

それは電話をくれたのが恋ではなく王子さんだったから。

恋は何も知らない。

今も耳には夢さんの声が残っていた。


たった一駅なのに長く感じる中で、明霞はそんな事を考えていた。


駅からボーリング場までは15分。まだ王子美咲からの電話から30分しか経っていないから、間違いはないだろうと明霞は自分に言いきかせる。


不思議なもので、改札をくぐる頃には夢の事は出なくなっていて、恋の事だけを考えていた。

明霞はカラオケ店に入ってフロントの店員を捕まえると、恋の写真を見せながら「30分くらい前に入った6人組。その中にこの子が居たはずだ!部屋番号は何処だ!?トラブルになる前に言え!」と怒鳴りつけ、相手の質問を遮ってもう一度問い詰めると、奥の部屋に居ると言われる。


明霞は他の客の迷惑にならないようにしながら、奥の部屋を目指して「恋!」と名前を呼んで部屋を開け放つと、そこにはジュースを飲みながら顔を暗くする恋が居て、周りには後輩達が4人居た。


呑気に今年流行りの曲を歌うやつが、明霞の登場に驚きながらもサビを熱唱する事を止めないでいた。


そんな中、驚いた顔で「明霞…?」と言う恋に、明霞は「バカ!何やってんだ!毎回毎回…帰るぞ」と言って部屋に乗り込んで行く。


前回までなら後輩達は狼狽えたが、それもなく普通にしていて後輩女子は、「ほら、来てくれたじゃん」、「これくらいしなきゃダメなんだって、行きなよ。また来週。月曜日にどうなったか教えてよ」と言って、恋に荷物を持たせて「料金は1時間分ね」なんて言っている。


「は?なにこれ?」と言う明霞に、中学の後輩が「明霞さんがどっち付かずで、あの子がいつも泣いてるからって言って、俺たちの彼女がひと肌脱いだんですよ」と言い、熱唱を終えた別の後輩も「だからファミレスで泣いてる彼女を皆で見兼ねて、狂言誘拐したんですって。きっとこうすれば先輩は来てくれるって、先輩が本気なら来てくれるって話してたんですよ」と説明をする。


「明霞…ごめん」と言って申し訳なさそうに謝る恋を見て、明霞は安堵と同時に、怒りと申し訳なさが込み上げてくる。



明霞が「バカ!お前…、夢さんが今田所に襲われかねない状況で、それなのにお前の方に来たのに何だこれは!?」と言うと、恋は「えぇ!?嘘だよね!?なんでこっちに来たの!?へんちくりん倒してきてよ!」と言う。


「夢さんの方は望さんに任せたんだよ。お前望さんに謝れよな」

「えぇ!?…お兄ちゃん怖いんだよ。でもなんで明霞はお姉ちゃんと私のピンチで私を選んでくれたの?」

「今言わせるな。ここでは察しろ。とりあえず帰る。行くぞ恋」


明霞は恋の腕を持つと、後輩達に「迷惑料じゃないけど恋が払う分の足しにして」と言ってお金を払うと外に出る。


外に出て「へへ、久しぶりに2人きりだね」と言って照れる恋を待たせて、望に電話をするが、出ない代わりにメッセージが入り、そこには[俺は母さんに電話をかける。お前は飛鳥おばさんにかけろ]とあって、言われたとおりに電話をすると、明霞は肩を落とす羽目になる。


夢の方も狂言誘拐ではないが、田所が来る飲み会の状況を利用して、明霞と話を進めようとしていて、とんだ人騒がせな話だし、明霞を諦められない夢は会って話がしたいと言うのを望は止めていたので、お互いの母親を介した変則的な話になっていた。


「なんなの山形姉妹」

「えへへ。ごめんね。ファミレスで偶然会った綾乃ちゃんと楓ちゃんが見てらんないって言って、助けてくれたんだよね」


「え?アイツらと友達になったの?」

「なったよー。だって明霞が友達作れって言ってたし、私はいつも明霞とすれ違った後で悲しくて泣いてたら、皆が元気出せって励ましてくれてたんだよー」


明霞はもう一度肩を落として「知らなかった」と言った後で、「恋、メシは?」と聞く。


「食べてないんだよねぇ。ファミレスでもメソメソしちゃってたしさー」

明霞は「ならなんか買って帰る。ウチで食べよう。鳥人間には行けなくなった」と言うと電車に乗り込んで、「とりあえず無事で良かった」とぶつぶつ言いながら恋に密着する。


最後には「吊り革持たないで俺の腕を持て」と言っていた。


恋は嬉しくなって明霞の腕に抱きつくと、明霞は「心配だから離さないでくれ」と言い、恋は「離さないよー」と言って微笑んでいた。

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