第33話 恋の願い。

恋は夢と明霞から話を聞いてヘトヘトになっていた。

明霞に罪はないと思えているのは、自身に明霞への恋心があって、明霞は真剣で優しくて、山形家の事を考えてくれているから、夢への盲目的な憧れがとっくに消えたのは顔を見ればわかる。だが根深い憧れで今も近くにいると照れさせる。

それだけなのはよくわかる。


学校と帰り道で明霞は恋と居ると癒されていて、それは顔に出ていて、恋はなんとか明霞を支えたかった。

だから時間の許す限り人目を気にせずに抱きしめ合った。


家では夢から何があったかを聞く事を忘れない。

先日の中野真由に絡まれた話では、恋も頭を抱えて「そんな変な女は放っておくんだよお姉ちゃん」と苦言を呈した程だった。


その姉はここのところ少しおかしい。

前以上に明るいが、ソワソワしていて明霞からのメッセージを待ったりしているし、明霞も忙しいのに、中々連絡が来ないとイライラカリカリしている。

それなのに空き時間は何かを必死に調べたり読み漁ったりしている。


その熱量が明霞に向かうと、次に会う明霞はヘトヘトで、それを支えたくて恋もヘトヘトになっていた。


まだ恋が耐えられたのは、明霞がなんでも打ち明けてくれて、夢が聞けば答えるから、今が偽装交際で、夢とは腕を組んでも明霞から抱きしめる事はしていない事。

あの安堵の顔で抱きしめてきて、深呼吸をして「はぁ……」と漏らす明霞を自分しか知らないと思っているから耐えられていた。



学校帰りのお決まりコース。

遠回りをして歩いて公園のベンチで少し話す。


座るなり疲れからか萎む明霞に、「明霞?大丈夫?」と恋が話しかけると、明霞は申し訳なさそうに「恋こそ大丈夫か?」と聞き返す。


それは明霞が恋の本気に気づいた時から気にするようになっていて、花火大会の後からは夢と会った後は口癖のように聞いていた。


恋は努めて明るく「私は平気だよ!」と返すと、明霞は「ごめんな」と謝る。

もうこれだけで恋はいてもいられずに「悪いのはへんちくりんとその女だよ!」と言って明霞を抱きしめる。


明霞は恋を抱き返すと、深呼吸をして「はぁ……」と漏らす。

そして「前の話通りなら田所は近々異動になるはずだから、そうしたらフェードアウトできるはず」と言った。


今の明霞にはその点に賭けるしか無くなっていたが、明霞自身は気づいていない。答えは出ていた。

今の明霞はいかに軟着陸をして、夢を傷つけずに守りながら終われるかになっていた。


「もう、明霞はAO入試でしょ?いくら願書を出したからもうすぐだよ?」

「そうだな」


恋は心ここに在らずな明霞の返事に、「お姉ちゃんもこんな時なのに明霞に甘えてさ」と不満を口にする。

恋は実の所、何度か夢に向かって明霞への扱いについて苦言を呈した。


だが夢の答えは「明霞くんなら平気よ」、「明霞くんにしか頼れないもの」で話にならない。


恋がキチンと明霞に夢への不満を口にしたのはこの日が初めてで、注意されるかと思ったのだが、明霞も「本当だよなぁ…」と弱々しく不満を口にする。


「明霞?疲れてるね。もっとギュッとしていいよ」

「マジか?なら膝の上に座ってくれ。後ろから抱きつく。あったかい。癒される」


明霞のくたびれ具合に、恋は驚きつつも喜んで、明霞の願いに従って明霞の上に座った。



あっという間に過ぎる時間。

「もう帰らないと」

「そうだな」

「またこうしようよ。今度のお姉ちゃんとのデートの後はどこ行きたい?」

「うち。俺の部屋。ずっとこうしてる。夕飯は母さんに任せる」


片言で恋の首に顔をつけて、ぐりぐりしながら深呼吸をする明霞に、「体育の後だから臭いよ?」と恋が言っても、「恋の匂いだから平気だ」としか言わない明霞。

恋はくすぐったい気持ちの中、ゴタゴタが早く終わればいいのにと見えた一番星に願っていた。



そんな恋の願いは無惨に散ることとなる。

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