第5話 山形家に行く明霞。

萩月明霞は「お兄ちゃんが反応してくれるから」の言葉に従って、なにかと言うと写真やムービーを撮られる。

今回は部活動で全員受験する文書処理検定、所謂ワープロ検定の説明と実践のムービーを撮られていて、山形家はそのムービーを見て[速いなぁ]、[早送りしてるみたい]、[本当に速く打てる人っているんだ]と届く中、なかなか返事を出さない山形望に、[お兄ちゃん、明霞がお兄ちゃんのコメント待ってる]と山形恋を偽って明霞が送信すると、[なんだ、明霞は相変わらず俺に甘えてるんだな。本当に速いな。恋、キチンと教わってこいよな。俺も今頑張ってると明霞に言ってくれ]と入ってくる。


もう恋は勿論だが、家族の全員が明霞を通じて届く山形望の言葉を心待ちにして、届くたびに明霞に感謝をしていた。


「明霞、今日もありがとう」

「ありがとうって…、お前ムービー撮りすぎ」

「仕方ないよ。お兄ちゃんが反応してくれるんだもん。でも本当に速いよね。明霞はなん級受けるの?」

「一級。一年で三級取って二年で二級取ったから一級」


ひとりっ子にも関わらず、面倒見がいいのは性格もあるが、昔から頻繁に会っていて望や夢から面倒くさそうに扱われている恋の相手をしているからで、今も頼られたり質問されたりすると答えてしまっている。


「はえ〜。凄いんだね。でもなんでパソコン部にしたの?」

「…三ノ輪先生に捕まったんだよ。あの人は俺が一年の時に赴任してきて、あの人当たりの良さで「是非パソコン部を見に来てください」なんて言ってきて、逃げられなかった。そもそも三ノ輪先生はウチに来る前は総合学科でパソコン部とかの副顧問してたから、資格取得の大事さを知って広めたかったんだって」


そう聞くと、恋は明霞の高校生活をあまり知らずにいた事に気付く。


「なんか明霞の高校生活を聞いた覚えがないや」

「まあそれは望さんと夢さんが始まりだろ?2人とも聞かれたくなさそうにしてるから、話さないでいい空気が生まれてくれたしな」

「まあお兄ちゃんもお姉ちゃんも帰宅部だったしね」

「マジで?そうだったのか…、まあ盆暮に会う時は会えるから、熱心な部活ではないと思ったけど帰宅部だったのか」


もう話しながら駅まで向かう事が当たり前になっていてなんとも思わない。

部活帰りの同級生達に「彼女と帰るのか?」と冷やかされても、明霞は「彼女じゃねーよ」と返すし、恋も友達から「いいなぁ〜」と言われても、恥ずかしがる事なく「えへへ」と返す。


そんな中、恋が「ねえ明霞、私も三級受ける」と言う。


「おう、後期の方を受験しろ」

「明霞は?」

「俺は前期も受ける。前期は夏前だ。後期の頃は引退してしまっているしな」

「なら私も前期!」

「早えよ」

「頑張るよ!」


「放課後教えても受かるかなぁ?」と呟く明霞に、恋は「なら今度の土曜日ウチに来て教えてよ」と言った。


「はぁ?」

「ほら、そこは臨機応変に部長と部員ではなく、明霞と恋としてさ」


明霞は話しながら土曜日に顔を出すと夢に会える可能性には心惹かれる。もう9ヶ月も会えていない。

忘れられる前に会っておきたかったので、「パソコンあるのか?無ければ筆記だけだぞ」と言うと、「あるよ。家族用の奴!リビングにあるよ!」と言われ、土曜日にお邪魔する事になった。


これに関しては萩月家も山形家も交流が再開されたことを喜ばれる。

明霞の父の明は「ありがとうな明霞、勝利達によろしくな」と言いながら、せっせと山形勝利に「明霞が邪魔をするって聞いたんだ。落ち着いたら会おうな」と送り、勝利からも「いや、恋の奴が迷惑をかけてすまないな。明霞くんのご飯は気にしないでくれよ」と返事をしていた。



土曜日。

ウキウキとした気持ちを隠すように、山形家を訪れた明霞には二つの誤算があった。

一つは夢が一日中在宅する訳ではなく、午後には外出してしまう事、もう一つは望に会えた事だった。


夢は大学生になってアルバイトを始めていた。

コレに関しては恋からの情報伝達の甘さを軽く恨んでしまうが、恋が家の話をしてきても望の事ばかりだったのに、夢の事を聞かなかった自分の問題もあったので今後直そうと思った。


久しぶりの夢は大学生になっていたからか、大学生という三文字が切り替えるからか、とても綺麗になっていて目を奪われた。


「ふふ。どうしたの明霞くん?」と聞く夢に、「いや、大学生って一歳しか違わないのに凄い大人に見えて…」と明霞が答えると、夢は照れくさそうにありがとうと微笑み、勝利は「まだまだ子供さ」と言って笑っていると、「なんだ?…明霞か?」と言って眠そうに降りてきたのは望だった。


「望さん。おはようございます」

「久しぶり。今日はどうしたんだ?」

「恋が検定を受けたいから特別に教えてくれって言うんで来たんですよ」

「そうか、恋が悪いな。でも会えて嬉しいよ」


山形家はこの数分だけでも静かに湧き上がった。

こんなに望が穏やかな顔でリビングに居たのは何ヶ月ぶりだろう。


「望さんは今日も仕事ですか?」

「ああ、飲食店は土日に休みなしだ」


その言葉に明らかに残念そうな顔をする恋や勝利。

明霞にはなんとかしたい気持ちと、夢にもう一度会いたい気持ちがあった。


「何時に帰って来ますか?」

「明霞?」

「俺、恋に勉強を教えるのもあったけど、夢さんや望さんの話が聞きたくて来ました。2人がいないと来た意味が半減だから待ちたいです」


明霞の言葉に望は「俺の話?なにについてだ?」と聞き返すと明霞は「大学と大学選び」と答える。


呆れ顔で「バカだな。俺は失敗したんだぞ?そんなの聞いてどうする?」と聞き返す望に、明霞は「ごめんなさい。失敗した部分が聞きたいんです」とハッキリと言った。


怪訝そうな顔で「明霞?」と聞き返す望に、明霞は「人の成功体験とか聞いても真似できないから、夢さんと望さんから大学の良いところとか悪い所とか聞きたいし、失敗体験が聞けたら、気をつけられるから聞きたいんです」と説明をする。


望は考えた事もなかった。

学校探しにしても何にしても、成功談ばかりを見ていたからこそ、明霞の言葉に「失敗を…知りたい?」と聞き返してしまう。


明霞が真剣な顔で「お願いします」と言うと、望は夢を見て「夢?お前はアルバイトか?」と聞き、夢が頷くと「何時まで?」と再度聞く。


夢も久しぶりに話した事が嬉しくなりながら、「21時だから帰ってくるのは大体22時…」と言うと、望は「明霞、泊まっていけるか?」と聞きながら、父母に「明霞を泊まらせてもいい?」と聞く。


まともな会話に嬉しくなった父母は、「勿論だよ!」、「明霞くんに望のスウェットを貸してあげていいわよね?」と返事をすると、望は明霞を見て「連休も近いから泊まってもいいよな?土曜日だと俺が帰ってくるのは早くて1時だ。待てるか?」と聞くと、明霞は「はい」と返事をして頷いた。

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