今と未来と夢と恋。

さんまぐ

序章・前年度

第1話 萩月明霞の不満。

親とはなんて無責任なのだろう。

萩月明霞はぎつき めいかは盛大に不満を抱いていた。


萩月明霞は17歳の高校二年生で、きょうだいは居ない。

だが、きょうだい同然に育った人間が3人居る。

山形望やまがた のぞむ山形夢やまがた ゆめ山形恋やまがた れんの3人。


それは萩月明霞の父あきらと山形3きょうだいの父、山形勝利かつとしが親友同士で、自身が生まれる前から交流があり、幼い頃からきょうだい同然に育てられてきた。


だが今年の一月から交流は消えた。

その前から気配や片鱗はあった。


長兄の望は20歳。

次が夢で18歳。

3番目の恋は15歳。


親とは身勝手な生き物で、父の明は「勝利に会いにくくなった」と、母の飛鳥あすかにボヤいていた。


ただでさえ今年度は微妙な時期で、前半は山形家に会えたが、後半は会えなかった。

夢と恋の受験があって、最後に会ったのは夏のお盆休みの時だった。


そこに大学生の望は居なかった。

父の明が寂しそうに「望くんはもう大人なんだねぇ。寂しいなぁ」と漏らすと、一緒にビールを飲んでいた山形勝利は、「もう次の冬には成人式だぜ?いつまでも親の相手なんてしてくれねーよ」と言って笑った後で、「明霞くんも後三年もしたら来なくなるよな?」と萩月明霞に話しかけていた。


萩月明霞が明言せずに言葉を濁そうとすると、父の明が「明霞は来てくれるよな?」と言った後で、夢と恋にも「夢ちゃんも恋ちゃんも、これからも来てくれるよね?おじさんとおばさんだけじゃ退屈だろうから、明霞も連れてくるからね」と言って、3人並べてスマホで写真を撮ると、「夢ちゃん、恋ちゃん、受験頑張ってね。おじさんはこの写真を次に会うまでの宝物にして頑張るね」と言っていて、山形勝利の妻のあいから「もう、ウチの人より子供たちを大切にしてくれるんですから」と笑われていた。


明霞もその時は軽く考えていて、半年もすれば夢と恋の受験も終わり、また会えるようになる。

その後は自分の受験へと続くが、そこはなんとかしようと思っていた。



明霞は中学生の頃から山形夢に淡い恋心を抱いていた。

だが微妙な距離感の為に、連絡先の交換なんかは申し出れずに居た。

それでも、親達は頻繁に連絡を取り合っていて近況は聞けていたし、届く写真も見せてもらっていた。


萩月明霞からすれば年下というのは有難い。

努力の一言で進路変更が出来る。

夢は女子校に行ってしまったので、高校は追えなかったが、大学は共学に行くと言っていたので追いかけられる。

そうすれば同じ学校なのを理由に連絡先の交換が出来る。


そこから始められる。

そう思っていた。


怪しまれないようにキチンと勉強はしていた。

志望校を荒唐無稽な夢物語と言われないように、常に成績をキープし続けていた。


それなのに年末以前、秋口から雲行きが怪しくなり、冬には嫌な話が飛び込んできて、父の明は「勝利に会いにくくなった」と漏らすようになっていた。



山形家にトラブルが起きていて、ソレのせいで萩月家と山形家の交流が絶たれそうになっていた。

それはお盆休みに会わなかった望が、大学になって始めたバイト先の社員に心酔してしまい、大学を辞めると言い出したからだった。


お盆休みも「明おじさん達には悪いけどバイトに行く」と言って来なかった。

バイト先は飲食店。


板前店長は高卒で身を立てて、店まで持った成功者で35歳。熱心に働く望を気に入ってくれて、閉店作業後に沢山話して沢山酒を飲んだ。


望は父母には話せていないが、大学で小さな挫折を味わっていた。

それを埋めるように見つかったバイト先での出会い。

学歴至上主義に真っ向勝負を挑む板前店長の言葉や態度は、天啓や神託そのものだった。


そしてトラブルに繋がる。


望は大学不要論を唱え始めて、口癖は「大学いらない」になる。

次第に、大学を辞めて板前店長のようになりたいと言い出すと、板前店長も「望が本気なら俺は応援する」と言い出し、「やるなら早い方がいい」と言われた望は、大学2年の冬に、父親である山形勝利に「退学届に一筆頼みたい」と言い出した。

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