第十一話

グレンデが家にお邪魔するということで、大慌てでサーシャがおつまみになりそうなものを用意し始めた。


「すまんな、サーシャ急に来てしまって手間をかける」

少し申し訳なさそうにグレンデが謝る


「そんないいのに、久々に私も話したかったから気にしないでー」

テキパキと酒好きな人が好むつまみを作っていくサーシャ


「フリードはもうあの剣は使っとらんのか?」


「まぁ、畑仕事で剣は使わないし、今はアルージェとシェリーに教えるためにこれくらいの木剣しか使ってないな」

木剣のおおよその大きさを手で表現するフリード


「そうか残念じゃなぁ、あの剣を自在に操れるのはお前さん以外そうそう見ることができんからなぁ」

少し残念そうに話し容器に入れてあった酒を飲み干し、容器をテーブルの上に置く。


それを見たフリードはすかさず次を注ぐ

「あれくらい、王都に行けばそこらで使えるやつがいるだろ」


「使えるのと操るのじゃ大違いじゃよ」

注いでもらった酒をチョビチョビと飲むグレンデ。


「はい、どうぞー」

そういうと完成したつまみをテーブルの上に置くサーシャ。


「おぉ、これは美味そうじゃわい!!」

上機嫌で頬張るグレンデ


「サーシャもあの剣はもう使っとらんのか??」


「そうねぇ この前久しぶりに振ってみたけど、やっぱり一線で活躍してた時よりは、衰えちゃっててちょっとショックだったわ」

少しため息をつきながら顔を腕で支える仕草をする。


「サーシャもアルージェに剣を教えているんじゃろ?昔の勘もすぐ取り戻すじゃろうて」


「私はアルよりシェリーちゃんを教えてることの方が多いのよ、シェリーちゃん優秀すぎてたまに熱くなりすぎちゃうのだけれど、フフフ」


「ほう、サーシャが優秀と言うか、どんな剣筋なのか見てみたいのぉ」


「あの子はすごいわよー、このままいけば私なんてあっという間に追い抜かれちゃうんじゃないかなぁ」


「そうかそうか、そんなにか!やはり見てみたいなぁ」

シェリーの剣に非常に興味のわいたグレンデ


「見に来たらいいじゃない、結構な頻度でアルとシェリーちゃんの稽古つけてるし」


「そうじゃなー、また暇な時にでもよるかのー」


「爺さんいつでも暇そうだけどな!」


「まぁな! カカカカカッ」


酒も入っているので、声も大きく非常に盛り上がっていた。


「それで爺さん、俺たちと一緒にこの村に来て本当に良かったのかよ」

不意にフリードがそんなことを尋ねた。


「何を今更、いつかスローライフする予定だったのが、早まっただけじゃわい、なにより今日で弟子も出来たしな、今後も楽しみで仕方ないわ!」

特に気にする様子もなく答えるグレンデ


「そうか、ならいいけどよ、王都に戻りたいとかそういうのは無いのか?」


「無いな、ここでの生活の方がよっぽど有意義じゃ」


「あんなことが無ければ、今も王都一の鍛冶屋と呼ばれてただろうに」


「過ぎた話じゃ、それにあれは儂が悪い」


「まぁ喧嘩っ早いのは爺さんの特権だしな!」


「んあ?喧嘩売っとるんか?」


「冗談だよ冗談!」


「ふんっ!」

グレンデは鼻息を荒くした。


「それにしても爺さんが直談判しに来たのはびっくりしたぜ、アルージェにはそんなに光る何かを感じたのか??」


「そうじゃな、儂が教える最後の弟子にはピッタリな逸材じゃ!今からやってれば間違いなく儂を超えるぞ!」


「またまた、孫みたいな年齢だからかわいく見えてるだけじゃないのか?」


「それもあるかもしれんが、それだけじゃここまでわざわざ足をはこばんじゃろて、まだ、修理した手際と作業に対する熱意しかみとらんが、間違いなくアルージェはすごい鍛冶屋になれると確信しておる」

グレンデは真っすぐな目をして、将来を見据えていたしていた。


「爺さんにそこまで言わせるか、アルほんとにすげぇんだな」

さっきまではしゃいでいたが、

疲れてサーシャの膝で寝ているアルージェに視線を向ける


「アルは私たちの子なのよ? すごいに決まってるじゃない!」

アルージェの頭を撫でて微笑みながらサーシャが言った。


「そうだなぁ、アルはすげぇ肝が据わってるよな、あの時だってボロボロになって帰ってきたが、俺達に泣きつくことなかったしな」

フリードはしみじみと初めてシェリーと近所に遊びに行った時のことを思い出していた。


「なんじゃ? 転んで大けがでもして帰ってきたのか?」

まだ小さいアルージェがボロボロになるのはそれくらいだろうと高を括っていた。


「いやぁな、俺たちもアルとシェリーちゃんから何も聞けてないから詳しくは知らないんだが、恐らく村長のとこの息子と何かで喧嘩になって、無抵抗のまま殴り続けられてんだよ、まだ四歳の子供がだぜ?」


「なんと、それでも主達には何も言ってこなかったのか?」


「あぁそうだ、確かに泣いてはいたが、ただ一言強くなりたいって言われただけで、誰にされたとかそういうのは一切なしだ、恥ずかしいと思ったからかもしれないが、それだけなら親に泣きつくだろ普通、あの時からアルはほんとにすげぇやつになるんじゃないかって、期待してんだ俺達、稽古の時も泣き言一つ言わないしな」

そういうとフリードも容器に入っていた酒をグビッと飲み干した。


「ここに来る途中アルージェと話したが、訓練ではなく遊びだと思ってるみたいだぞ、本来なら近所の子供と虫つぶしたりして遊んでそうな歳なのにな

 フリードのいう通り大物になるかもしれんな」


「そうだなー」


しみじみとした雰囲気の中夜が更けていった。

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