第四話
シェリーの家に行ってから数日が経った。
アルージェの体の傷もだいぶ良くなり、今日からフリードが戦いに必要なことを教えることになった。
フリードが基礎を教えて、気になったことをサーシャが指摘する完璧な布陣である。
「さてと、早速だがアル強くなるのに必要なことは何だと思う?」
普段と違う真剣な雰囲気で、フリードがアルージェに尋ねた。
「えと、強い武器とか?」
自信なさそうアルージェが答えた。
「確かにそれも一理ある。木の武器より鉄の武器の方が、切れ味はいいし、木が当たるより鉄が当たるほうが痛いからな。ただ、これは使い手によるとしか言えないな。今のアルが鉄の武器を持てばきっと重さで振り回すのが精一杯で狙ったところを切るとか、そういった精密な攻撃は難しい可能性がある。ただ、世の中には魔力が宿った武器とか防具もあって重さが無い、剣から火が出るとかそういうのもあるみたいだけど、今は考えないことにしよう」
それを言われてアルージェは少し考えてから「なら、まずは僕が強くならなきゃいけないんだね!」と答えを導き出した。
「そうだ!偉いぞアル!だから少し早いがアルの体を作っていこうと思う。そのためには厳しいことも言うだろうが、ついてこれるか?」
フリードは改めてアルージェの覚悟を確認した。
「うん!僕、頑張るよ!」
アルージェはまっすぐな瞳でフリードを見つめた。
フリードはそれを聞いて「ニィ」と笑い指導を始めた。
剣を頭の上からの叩きつける『振り下ろし』、斜めや横薙ぎに剣を振る『薙ぎ払い』、相手の急所に向かって打つ『突き』これ等を組み合わせた動きが剣を振るう上での基礎になる。
アルージェはこれらの動作を自分の身体に染み込ませるように素振りをしていた。
アルージェが使用している木剣はフリードがこの日の為に用意した木剣で、フリードの力作らしい。
素振りをするだけでは強くなるには程遠い、最速で強くなるには実戦形式で経験を積むこと。
だがアルはまだ小さい為、体が出来上がっていない状態である。
その為、体が出来上がってくるまでゆっくり時間をかけて徐々にという方針になった。
「はあ!やあ!せい!」
掛け声がするたびに、ブンブンと素振りをする音が聞こえる。
「アル!腕をしっかりと上げて!はじめと比べると段々と下がってきてるわよ!」
いつもは優しいサーシャだが、アルージェが強くなれるように心を鬼にして指摘する。
「はい!母さん!」
アルージェもそれに応えるように、素振りを続ける。
訓練を始めて数日経った。
今日もいつも通りサーシャとフリードの仕事が終わった後、訓練を開始した。
「やぁ!」
始めた時より、少し鋭い薙ぎ払いを出せるようになった。
「アルー!遊ぼー!」
あの事件以来、家に顔を出していなかったシェリーが遊びに来た。
「はぁ!」
アルージェは、シェリーが来たことに気付かず素振りを続けていた。
「アルゥ!!!!」
気付いてもらえなかったことに拗ねたシェリーが、先程よりも大きい声を出した。
「うわぁ!シェリー!気が付かなかったよ、ゴメン」
そう言ってシェリーに謝った。
「いいよー!それでアルは何してるのー?なんか楽しそー!」
シェリーはアルージェがしていた素振りに興味を示した。
「強くなるために父さんと母さんに、剣の振り方を教えてもらっているんだ」
そしてフリードから貰った木剣をブンッと一回振った
「あたしもやりたい!」
シェリーがそう言うとアルージェから木剣を取り、先ほどアルージェがやっていた動きと同じように剣を振るった。
「おぉ、シェリーちゃんも上手いじゃないか!」
少し離れていたフリードが近づいてきてシェリーに声をかけた。
「なんだったらシェリーちゃんもこれから一緒にやるかい?アルもシェリーちゃんが居れば更にやる気になるだろうしな。ハハハッ」
そう言って高笑いをするフリード。
「シェリーが一緒なら楽しそう!一緒にやる?」
「やるー!」
翌日には、シェリーが使う木剣が出来上がっていた。
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それから月日は経ちシェリーと一緒に修行を始めて2か月が経った。
「よーし、今日も始めるか!今日もいつもと同じでアルは俺が、シェリーちゃんはサーシャが見るから基礎から始めていこうか」
そういうとアルージェとシェリーはいつものように準備運動をして、走り込みと筋トレを始める。
シェリーはアルージェよりも年上だが体は出来上がってないので、まずは基礎のトレーニングから開始することになった。
筋トレが終わると素振りをして、剣の打ち込みをして足運びや体重移動等を学ぶ。
アルージェはフリード、シェリーはサーシャとペアを組み行う
初めの1か月程はフリードが二人とも見ていたが、サーシャがシェリーとアルージェの上達速度に違いがあると指摘して、各々が見ることになった。
アルージェとフリードが剣の打ち込みを行う。
アルージェが剣を右手で持ち踏み込み、右から左に振るう。
フリードはそれを剣を縦にして受け止める。
アルージェは受け止められたことを確認すると、少し後ろに距離を取り剣が地面と水平になるように構え突きを入れる。
だが、フリードは半身になって躱すと同時に剣を胴に当てるようにカウンターを繰り出す。
アルージェは突きをやめ後ろに距離を取ろうとするが、そうはさせまいとフリードは距離を詰めて右から左からと剣を振るう。
アルージェは何とか両手で剣を持ち守るが、ジンジンと手が痺れる。
フリードが剣を振る隙をみて、アルージェ攻撃を試みようとするがフリードに簡単に躱されてしまう。
アルージェは何度もフリードの剣を受け止めて、剣を握る力が無くなり手から飛んでいった。
「くそぅ!父さんずるいよ!」
悔しそうにアルージェは言う。
「ははは、本気でやらないとアルが調子に乗るかもしれないからな!」
フリードは剣を肩にトントンと当てていう。
「次は絶対同じ手は喰わないから!」
「おう! がんばれよ息子よ!」
横から軽やかに木剣の打ち合う音が聞こえる。
シェリーがサーシャに対して、剣を打ち込んでいるが、サーシャは難なく全て躱す。
サーシャからの応戦に対してシェリーも縦横無尽に動き躱している。
何度もそんな攻防があり、サーシャはシェリーに対して直線的な動きから、フェイントを混ぜた動きに変更していった。
シェリーはフェイントに戸惑い、手から剣を弾かれて落としてしまう。
「シェリーちゃん本当に剣は初めてなのよねぇ?あまりにもいい反応で返してくれるから楽しくなっちゃって、つい熱が入っちゃったわ!」
サーシャは先ほどまであんなに動き回っていたのに、息を上げることなくシェリーに話しかけている。
「はぁ、ふー、う、うん、触ったことも、はふー、無かったよ」
元気に答えてはいるが、シェリーは肩で息をしている
「すごいわねぇ、このまま行けば私より強くなれるんじゃないかしら!」
サーシャは嬉しそうに話す。
アルージェも先ほどの攻防戦をみて、シェリーはすごいと思った。
「よーし、じゃあ今日はこの辺にして、とりあえず水でも浴びるかー!」
「「はーい!」」
そうフリードが言うと、サーシャがなにやらボソボソと詠唱を始める。
「清泉の恵みを今ここに、『
唱え終わると桶の中に水が出てきた。
アルージェとシェリーはもう何度も見た光景だが、初めて見た時は大はしゃぎだった。
この現象は魔法と呼ばれるもので、この世界には炎・水・風・地・光・闇・無の属性を持つ魔法がある。
魔法は体内にある魔力を詠唱で形を作り、放出するもので、その人の魔力の総数は生まれた時から決まっているというのが通説である。
ただ、農村だと魔法に関する知識が浸透していない。
基本的には魔法を使わずとも道具で代用できるため、利用されることは少ない。
逆に町や都に行けば一定以上の魔法が使えるものは、それだけで食いっぱぐれることはないと言われている。
中でも光属性、闇属性の魔法は珍しい。
聖職者になる為には最低条件として光魔法が使用できることが定められているので、聖職者は非常に狭き門である。
初めて魔法を見た時にサーシャからこんな説明を受けていた。
ただ、アルージェとシェリーに魔法の才能が有るか今の段階では不明な為、教えることはしなかった。
「アルぅ! 今日も修行大変だったねぇ!」
「そうだね、もう腕が上がらないよ」
アルージェはそういうと腕を上げるが、全く上がっていない。
「ならさ、明日は基礎だけにしてあたしの家で遊ぼー??」
「えぇ、でもお休みすると弱くなりそうだし……」
シェリーよりも動けていなかった、自分に自信がないアルージェが小声になる。
「いや、アル明日は遊んでこい。こういうのには休息も必要だ。」
だがフリードがアルージェに遊びに行くように勧めた。
「で、でも……」
「シェリーちゃんもアルと遊びたいんだろ。たまにはいいじゃないか!モテる男はつらいねぇ」
そういって口笛も鳴らすフリード
「わ、わかったよ!明日はシェリーのお家で遊ぼう!」
「やったー! アルと遊べるー!なら明日はあたしちょっとお休みして、アルと遊ぶ準備するねぇ!」
声が弾むシェリー
「わかった、僕はお手伝いして、基礎やったら行くよ!」
そうしてシェリーはルンルンとスキップをしながら帰って行った。
二人の様子をフリードとサーシャは微笑んで見守るのであった。
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