第29話 視線
婚約破棄の打診書が届いてから三日後。
アリシアは侍女のタラッサと護衛騎士を伴い王都の目抜き通りの端にある小さな店まで来ていた。
先日結婚した友人のリサに贈るためのアクセサリーを注文していた店だ。
ロゴス国では友人の幸せな結婚生活を願ってアンクレットを贈ると、贈った側にも幸せがやってくるという言い伝えがある。
アリシアはリサの結婚が決まってすぐにこの店でアンクレットを注文していた。
通りの端にあるとはいえ、その店はかなり有名だ。
なぜならその店のアンクレットは贈った側も贈られた側も幸せになる確率が高いと言われているから。
ただし、店主はなかなかに気難しい性格で、たとえどんな高位貴族であろうとも店まで来なければ依頼は受けないことでも有名だった。
無事にリサへの贈り物を手に入れてアリシアは店を出る。
「期待以上のできあがりで良かったですね」
注文の品は思っていた以上に素晴らしいできだった。
タラッサの言葉にここ数日今まで以上にふさぎ込みがちだったアリシアの顔にも笑顔が広がる。
「今日はこのまま帰宅されますか?」
新しくアリシアの護衛につくことになったノエの言葉に、アリシアはつかの間考えた。
「そうね、運動がてら少しお店を見て回ろうかしら?」
ノエは父が新しく選出した護衛騎士だ。
金髪碧眼というキラキラしい見た目に反してかなりの武闘派らしい。
男爵家の三男の産まれで、後継者でもそのスペアでもない立場から早いうちに家に見切りをつけ、時には傭兵のような仕事もしたことがあるという異例の経歴を持つ。
それでいて必要があれば貴族としての振る舞いもできるというのだから、力だけではなく頭も切れるようだ。
本人は自分の容姿があまり好きではないのか、言葉遣いなどはやや粗暴で見た目とのギャップがひどい。
しかしあの父が折り紙つきで推薦しただけあって伯爵家の護衛騎士の中で一番腕が立つようだ。
今までの護衛騎士はアリシアと10は歳が離れていたが、ノエとは5歳ほどしか変わらないこともあり、気やすく過ごせる気がした。
「わかりました。では馬車は通りの向こうまで回しましょう」
歩く距離が長くなりすぎないように配慮したのかノエがそう言った。
店を見ながらゆっくりと散歩するにはちょうど良さそうだ。
久しぶりの散策に、自然と心も弾む。
(こもりきりもダメね。気分転換や運動も大事なんだわ)
しみじみとそう思いウインドウショッピングを楽しむ。
特別に欲しい物は無かったが、きらびやかな店先を眺めているだけでも楽しかった。
タラッサと共に歩く後ろをノエがついてくる。
そのノエが突然ぴたりと動きを止めた。
「ノエ?どうかしたの?」
いぶかしげにアリシアが声をかけるが、ノエは鋭い視線で辺りを見回している。
そしてすぐにアリシアとタラッサを馬車へと急かした。
結局家に戻るまで、ノエから説明はなかった。
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