第40話 指名依頼と依頼人
田中さんから僕にあったという指名依頼の詳しい内容を聞く。
「まず単刀直入に言うが、依頼内容はあるダンジョンの中の案内とその護衛だ。ただもちろんそれだけならお前に依頼するような内容じゃない。第一にそのダンジョンっていうのがレベル5ダンジョンだ」
「レベル5ですか……案内って言ってますけど、さすがに僕も国内にある全てのレベル5ダンジョンを周ってる訳じゃないですよ?」
「それは俺だって百も承知だ。というか、向こうもそれは分かってたんだろうな。そのダンジョンっていうのが――最近お前がダンジョン配信者の天道カナを助けたあのダンジョンなんだよ。あそこならお前も探索し慣れてるだろ?」
「まあ、あそこなら確かに。探索者になってからしょっちゅう通ってましたし」
というよりも休日はともかくとして学校のある日の放課後に活動できる距離というのは限られてくる。
その範囲内にあってモンスターの質が高いダンジョンがあのダンジョンだったというだけだ。それでよく通っていた。
「まあ案内ぐらいなら出来ると思いますけど、あそこ生半可な実力だと結構危ないですよ? 護衛するにしたって探索者になりたての素人とかだと僕も安全に案内を出来る自信が無いんですけど……」
そもそも護衛の依頼自体が今回が初めてみたいなもんだしなあ……
「まあそんな不安があるのも分かる。こっちが貰ってる情報によると、同行するのはお前を除いて計4人だ。その内の一人は探索者の資格を持ってるだけのペーパーだが、他の三人は探索者としての活動をしっかりやってる連中だ。具体的に言うと、Bランクが二人にAランクが一人だな」
「そんな強そうな護衛がいて僕が同行する必要ってあります……?」
「言っただろ? ダンジョンの案内兼護衛だって。向こうさんは日本の高レベルダンジョンを実際に探索してみたいんだとさ」
「……日本のってことは、もしかしてその人たちって外国の人なんですか?」
「お、よく気が付いたな。これから言おうと思ってたんだがその通り、お前の言うように今回の依頼人は外国からのお客さん「無理です」――待て待てっ。急にどうしたってんだよ!!?」
「自慢じゃありませんけど、僕は英語が出来ません。せいぜいが『あいあむ、まつり、かんだ』ぐらいしか出来ません。ですので外国の人の案内とか普通に無理です!」
「そこら辺は心配するな。依頼人たちは日本語も出来るらしいし、いざとなったら翻訳機能の付いたアイテムなり魔法なりを使えば言語の違いぐらいどうとでも出来るさ」
「そ、そんなに素敵なアイテムがある……だと……!?」
あまりアイテム類とかに興味が無かったから知らなかったっ。魔法は――苦手だから無理だとしても、アイテムなら希望がある。そんなの凄いアイテムがあるんだったら学校で英語を勉強する必要なんてないじゃないかっ!
「まあお前なら簡単に手に入るような気もするが、言えば俺が持ってるのを貸してやるから問題ないな。俺も英語だけは苦手でな~、やっぱりこれ系のアイテムは持ってると便利なんだよ~」
「ですよね~」
「っと、話が逸れたな。ともかく言葉云々は心配しなくてもいい。んで後伝えなくちゃいけないのは~……ああそうだった。今回の依頼の目標だな。お前さん、そこのダンジョンの下層までは言ったことはあるか?」
「……はい? なんですか?」
「下層までは行ったことあるのか、って聞いたんだよ」
「それなら、はい。普通にありますよ?」
「なら猶のこと安心だな。依頼人が求めるところとしては、そのダンジョンの中層フロアボスを撃破して、下層の上澄みを簡単に探索できればそれでいいらしい」
「なるほど……」
あのダンジョンはレベル5とギルドに定められているだけあって、上層から他に比べると強いモンスターが多い。前回に行ったときはガルガンティアリザードの特殊固体と、これまたイレギュラーに遭遇してしまった。あれと同じぐらいの強さとは言わないけど中層に行けば、それに近いレベルのモンスターが出てくることだってある。
まあでも僕と同じAランクが一人と、Bランクの人が二人もいれば何とかなりそうな気もするけど……
「う~ん、やっぱり非戦闘員っぽい人が一人いるのが不安ですかねえ。本当に僕でいいんですか? 誰かの護衛とかやったことありませんよ?」
「向こうがそれでいいって言ってるんだから、いいんじゃねえか? それに何度も言うようだがお前のメインは案内だからな。同行者の中の二人は向うが付けている護衛らしいから何かありゃあソイツ等が何とかするだろ」
「……そんなに適当でいいんですか?」
「いいんだよ。ダンジョンじゃ何があるか分からねえんだ。最悪お前以外が全滅して帰って来たとしてもお前には何ら責任は無いし、依頼人もレベル5ダンジョンを指定している以上、そこら辺は承知している。というか、依頼人も探索者やってるから最低限の自衛は自分で出来るはずだ。出来なかったら知らん。適当に気絶させて時間がくるまでダンジョンの外に放置しておきゃいい」
「そんなもんですか……それで、その依頼人さんと同行者さんってどんな人なんです? わざわざ僕に依頼してくるって……もしかして僕の配信の視聴者さんとか、ですか?」
「まあその認識で合ってるぞ。お前を知った切っ掛けはお前が映った配信らしいからな。で、肝心のその依頼人なんだが……アメリカ最大手クラン『銀騎士』のクランマスター様だ」
「銀騎士、クラン……」
「お前……まさか分からねえのか?」
「いや、何か聞いた覚えはあると思うんですけど、こう、ここまで出かかってるんですよねー……」
「……まあ、いいや。別にお前が向こうに気を遣う必要なんて無いしな。普段通りのお前で接してやればそれでいい。だから後で調べたりしなくてもいいぞ」
「そうなんですか?」
「そうそう、良いんだよ」
まあ田中さんがそう言うならいいのかな……?
「それでどうする? 今回の依頼、受けるか?」
「ちなみにですけど、受けないって選択肢はありますか?」
「まあ……出来れば受けて欲しい」
「……分かりました。その依頼受けます」
そうして僕は今回の指名依頼を受けることにした。
案内だけならあのダンジョンの何度も行ってるから出来るはずだし、護衛に関しても向こうにも護衛がいるそうだからそこまで心配することもないだろう。
でもやっぱり若干の不安はあるけど、あそこのダンジョンの下層までの出現モンスターならほとんど把握してるし何とかなると思う。
何よりさっきの田中さんの表情……アレは本気で困っているように見えた。僕がこの指名依頼を断った場合、何かしら不都合なことがあるんだと思う。
田中さんには探索者になる時にお世話になったという経緯もあるので、受けたという理由もあるのだけど。
「依頼日は今日から二週間後だ。時間はその紙に赤丸がしてあるからそこだけはちゃんと見とけよ」
「分かりました。それで事前の打ち合わせとかは無いんですか? 護衛依頼をするときとかはそういうのがあるって聞いたことがあるんですけど」
「おお、危ねえ危ねえ忘れるところだった。一応その紙にも書いてあるが、事前打ち合わせは一週間後で場所はここの会議室を使う。そん時に顔合わせもあるからちゃんと忘れず来るんだぞっ!」
「オーケーです。それじゃあ僕はこれで失礼しますね」
「ああ、突然呼び出したりして悪かったな祭……ところでなんだが」
「はい?」
「お前が持ってきたそのケース、中に何が入ってるんだ? さっきからがさごそ音がしてるんだが?」
「ああ、今日僕が登録したテイムモンスターですよ。ちょっとした経緯でモンスターの卵が手に入ってそれを孵したんです」
「ほ~、そりゃあ珍しいもんを手に入れたもんだ。にしても――ソイツ、お前のテイムモンスターにしては弱すぎないか? レベル1ダンジョンのモンスターでも普通に苦戦しそうなぐらいの力しか感じないんだが……」
「田中さんから見てもそうですか。まあ確かに弱いんですけど、ちょっと気になってるところがあるので折角ですからテイムすることにしたんです。ああ、大丈夫ですよ。さすがにコイツを依頼に連れて行ったりはしませんから」
「いや、まあそこら辺はどうでもいいんだが……まあいいか。管理はちゃんとするんだぞ」
「は~い」
そうして僕は田中さんの部屋とギルドを後にした。
この後の予定はコイツの為に買い物を幾つかしないといけない。昨日、母さんにペット兼テイムモンスターとしてコイツを飼いたいと言ったら許可自体はあっさりと出た。
それで飼うんだったらエサとかトイレとかちゃんと揃えるようにと言われたのだ。
そこら辺はモンスターだから普通の動物と同じなのか?と疑問に思ったのだけど、千歳姉さん曰くやっぱりモンスターなので食事はともかくトイレなどはいらないらしい。体内に取り入れたものを全てエネルギーに変換しているのだろうか?不思議だ……
なので買い物は餌皿や爪とぎなど普通の猫と同じような小物類の予定だ。
そして僕はギルドからほど近いホームセンターに寄って買うものを買ってから家に帰ったのであった。
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お待たせしました!
ちょっと今回はあとがき無しでよろしくお願いします!
それではまた次回の更新をお楽しみに~!
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