綺羅星のナジュマ

安芸ひさ乃

 青空は高い。ナジュマは母国を出て、初めて青空にも違いがあるのだと知った。母国の青空には砂が舞い、大皇国の空はうっすらとした青で、この国の空は抜けるような青だ。

 どれも美しくて好きだ、とナジュマは思う。個々見合う美しさというものがあり、それはひとの手の内にない。あるがままの美しさをその場で見ることが出来る幸運に、ナジュマは心から感謝している。

 国を出なければ、こうしたことを知ることはなかった。ナジュマは今でもあの熱砂の国で、綺麗に飾られた宮の奥深く、仕舞い込まれて生きていただろう。いつか誰かの胤を仕込まれて、それだけの為に生きていたのだろう。

(あー! 国を出てよかった!)

 ぐいっと両腕を伸ばすと衣装を調整していた侍女が「姫様!」と声を荒げた。

「すまないね。でも大丈夫だろう?」

「大丈夫ですけれども! 嬉しいことはわかりますが、もう少し落ち着いてくださいませ」

「落ち着けないよ! だってやっとなんだよ!」

 一年、待ちに待った結婚式は実に豪勢なものである。ただでさえ筆頭公爵家の結婚式であるし、国王代理が揃い、異国の女性達が煌びやかにさざめいている様に外野が興奮しているらしい。更に遠く、祝いとばかり配布されている酒と食べ物に集う聴衆の笑い声があんまりにも和やかでナジュマは笑った。平和でよいことだ。

 こんな結婚式は他にない。最初で最後、この国で一番の、ナジュマの結婚式。

 部屋を出て進む先、しっかりとした白い軍服に身を包む男が背を正して立っているのをナジュマは認めた。長がそれなのだから周りも気を抜くことなく背を正している。少しばかり可哀想な気もしてしまうが、実に壮観な眺めだ。

「ネビィ!」

 ナジュマが大声を張り上げるのに男は笑った。ネビィ。ヒネビニル・デレッセント将軍。ナジュマのただ一人の男。

 ナジュマより年嵩なことを気にする巌のような男を、ナジュマは何より気に入っている。だってチビでもハゲでもデブでもヒョロガリでもないし、何より可愛いので!

「結婚するよ!」

 大舞台を控え、怯えもなくひたすら快活なナジュマをヒネビニルは手招いた。

「ああ、おいで」

 今、グランドリー王国の新たな一頁が始まる。

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