朝日と導きへの呼ばれ
ほぼボロ切れと化した遮光カーテンから眩しい光が寝室に差し込む。壁に張り付いている時計はまだ5時を指していた。動くにはまだ数十分の余裕がある。掛け布団を思いっきり引き上げて温もりに浸ろうとしていた。
耳のすぐ横で静かな寝息が聞こえてくる。昨日まで見せていた性格とは真逆の、大の字に近い体勢で眠っている。少しでも心落ち着く場所になってくれているのであれば、うれしい限りだ。俺はメアリーの寝顔に安心していた。
今日は、この子とともに教会に行かなければならない。何かひどい仕打ちがないことを願っている。同時に、何か大ごとが起きるのではないかと自分の身の不安を考えていた。
「何を見たんだろう」
何もない天井を見つめながら、眠っている間に見た光景を思いだそうと模索していた。微かに残るのは、眩しかったということだけ、もしかしたら今差し込んでいる朝日を知らないうちに感じ取り眩しいと寝ている間にも感じていたのかもしれない。ないとは言い切れないが、そうではないような気がしている。懐かしい、思い出さなくてはいけないような、そんなことを心が叫び続けている感じがした。
横になっていては思考が止まらずらちが明かない、ゆっくりと体を持ち上げる。静かに寝室の扉を動かしてリビングへと向かった。カーテンを開ける。眩しい光を細い目で見つめて外を眺める。
「窓を開けろ!窓を開けろ!」
太くうるさい声がした。窓の外には黒い鳥。三本足の黒い鳥が窓のふちにとまって叫び続けている。
「窓を開けろ!連携組織アルカディアからの呼び出しだ!」
アルカディア、いつの間にか宗教、秘密組織、情報組織の協力関係が形となって組織となった後に付いた組織名。光の我々は、楽園に迎えるように、平和な世界になるようにと名付けられた。三本足ということは、あの国の組織だろう。
「直々にお出迎えですか、八咫烏様」
「やっと窓を開けたか!主が玄関の前で待っている!早く迎え入れろ!」
「なら、窓じゃなくて、先に玄関といえばよかったのでは…」
「何つべこべ言っている!早く迎え入れろ!」
「…わかりました」
玄関へ向かう。掃除がおろそかになっているこの家に、組織のいわゆる中枢を担っている方をお招きすることとなる。よいのだろうか、少しの申し訳なさを感じながら、玄関の戸を開けた。
「朝早くに、烏煩かったでしょう?」
「いえ、そんなことは…」
「ふふ、いいのよ、謙遜しなくて。おはようございます、彼女はおいで?」
「…おはようございます。いますよ、寝室で寝ています」
「寝れているのであればよかったわ、一安心」
「よかったら、上がっていただいて、少し休んでいただければと」
「いいのかしら」
「はい。少し汚くはありますが…」
「気にしなくていいわ、私の家もそうだから。こうも仕事が続くとなるわよね」
目の前に立っている赤に菊の花が広がった着物を着ている女性は、ゆっくりと下駄を脱いでリビングへと足を進めていく。
「本当に掃除できてないな!」
窓にいたはずの八咫烏は、女性の方にとまりながら叫んでいた。
「こら、あなたは掃除という掃除をしたことがないでしょ?口を慎みなさい」
「
気安く呼び捨てで女性のことを呼んでいる烏を背にリビングに到着した。彼女らをソファに誘導したうえで、紅茶を俺は準備し、慎重にテーブルの上に置いた。
「ありがとう」
「いえ、逆にこちらのほうまでご足労をかけしてしまったのですから」
「気にしなくていいわ。こちらの国で総会が行われるから来ていただけですし、司教様が私のほうへ昨日、ご連絡してくださったのだから、特に問題はありません」
「総会…」
「ええ、あなた方も、参加ですよ?」
「え?」
驚くしかなかった。総会。宗教、組織すべての上の位の人たちが集まり、今後の戦争について議論していく場、お互いの技術について情報共有が行われたりもする、一番にこれからの先を決定する議会会議である。その場に、俺たちも参加する、一牧師でしかない、契約のいない俺と、悪魔と分かっている彼女がその場に行く。恐怖と不安しかなかった。
「あ、そういえば、私、お名前伝えていなかったですよね。失礼いたしました」
「あ、いえ、俺のほうこそ…」
「あなたの名前は知っております、ソテル・トマ様でしたよね?」
「司教がお伝えに?」
「いいえ、もともと、私共の中でも噂になっておりましたから、知っておりますよ」
噂?どういうことなのだろう。
「変な噂ではありません、心配しないでください」
心を見透かすように、斜め前に座る女性は微笑みながら紅茶を一口くちにした。
「蘇我
玖々璃、先ほど八咫烏が読んでいた名前、そして、聞いたことのある名前だった。よくパソコンのモニターに流れてくる情報の中で見かける呼び名だ。大体は、情報の共有をしてくれている、そして、誰かの疑問に対し答えているのを見かけている。
「初めまして、玖々璃様」
「そんなに固く考えないでください?それでは、心の声が聞こえなくなってしまいますよ」
「え?」
「聞こえなくなってしまっては、あなたの眠っている記憶は帰ってこないのですから」
俺を見つめている玖々璃の瞳は刃のように感じた。何か本当のものを見ようとするような、見透かそうとしているような何かを感じる。しかし怖くはない、逆に包み込んで許してくれているような、不思議な感覚に心はなっていた。
「さて、女神の目覚めですね」
玖々璃の声とともに、寝室の扉が開く音が聞こえた。
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