烙印に口付けを
ぬい。
《1章》鐘の音
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
誰かの心の叫びが聞こえてくる。目の前には、軍勢が押し寄せてきていた。数が多すぎる。削りきれる確率は低すぎた。
聖堂の中に響き渡るうめき声を聞く。この誰しもが人間として生きていたことは、この視界の情報から理解ができた。無数に張り巡らされている透明な糸は、人間を操り人形に仕立て上げていた。操るのは、私たちが信じて心を許し共に戦うことを誓った相手、その人と契約の堕天使。
遠くで仲間の叫び声と天使の消失を知らせる鐘の音が聞こえた。それでもなお、聖堂の奥の召喚の魔方陣からは数多の低俗ではあるが、悪魔たちが解き放たれている。倒れたはずの人間に糸を括り付け傀儡として扱い続けている。
「危ない!」
背後から声が聞こえてくる。目の前にいる人形共を根こそぎ削っていた時だった。大きく鎌が振り落とされる音がする。この轟音をならせるのは、主犯格以外いなかった。
死を悟る。この世は敗北が決まるだろう。ここが最終決戦の場、ほかの地域は墜ちたとことを昨日の時点で知っている。
目の前が暗くなる。否、死に恐れて目をつぶる。
俺の目の前で刃物がこすりあう音が聞こえた。
「早く、後ろに下がって!」
「マリア!」
「いいから早く!」
目の前にいる白い翼を背中に抱いた女性は、俺に向かって叫んでいた。女神が声を荒げるとき、すさまじい強風が吹き荒れる。俺の体は軽く後ろへ押されてしまった。
いまだに刃物がこすりあう。俺はこの強風に対抗しながら体を起き上がらせている。
瞬間、彼女の剣は軽い音を立てて崩れ去った。
「マリア!!」
「大丈夫、あなたはメシア。早くいきなさい。ここから遠く走って、この嵐に見つからない場所まで」
鎌が彼女の首を狙っている。駆けつけたくても、守りたくても強風は先ほどよりも強さを増していた。
「また、ソテルはここに帰ってくる。だから」
鎌は彼女の首に触れていた。
「ここで、会いましょう。ここが、約束の地」
天から大きな鐘の音が鳴り響いていた。
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