ある作家の一生

瀬戸はや

第1話 物書きの才能

男はもしかしたら自分には 物書きの才能があるのかもしれないと思った。誰に褒められるわけでもなく、そんな風に思えたこと自体がもう始まりのように思えた。これは天部のものだ、天が自分に与えた使命のように 男は思った。

第1に自分は文章を書くのが嫌いではない。

特に得意というわけではないけれど決して嫌いではない。

第2に文章をずっと書いていられる。

嫌いじゃなくてずっと書いていられるということはそれだけで才能があるということだ。だから自分は作家になるしかない。

他に 特にやりたいものはなかったし、あと問題なのは作家で食べていけるかどうかだ。いくら 好き でも生活できなかったらどうにもならない。ずっと バイト暮らしというわけにはいかない 俺だって恋もしたいし 結婚もしたい 家庭だって持ちたい できるならば。だからどうか俺を作家で食べて行けるようにしてください お願いします。

作家になることに決めてしまうと、作家になること以外の 興味が急速に失せてゆく。作家になるために興味は持つが、目の前のそのこと自体には興味がない。こうして俺の視点は幼い頃から固まっていった。物事についての純粋な興味というのを失ってしまった。作家としては興味を持つのだが、物事そのものに対する興味は全然なくなってしまった。

作家になるためには 特に記憶力が重要だ。幼い頃から自分の身の回りで起こった いろんなことに対して記憶をずっと持ち続ける必要がある。できれば自分の身の回りで起こった全てのことに対して 詳細な表現と文章化することができれば ベストだ。

僕は幼い頃 自分の身の回りで起こった出来事に対してかなりの詳細な記憶を持っている。幼い頃に一緒に遊んだ相手とかその遊び。物心ついてからの遊びや その相手。それらについて僕は細かく記憶がある。まだ物心つかない僕の性を目覚めさせたのは真向かいに住んでいた3つ年上の 和遥君だ。今でもはっきり 記憶している全ては彼によって目覚めさせられた。ただ自分の記憶が全てだとは思っていない。和遥君よりもずっと昔 まだ僕が何も覚えていないような頃に僕は叔母によって今で言う性被害者になっていたのだ。僕は叔母から聞くまでそのことは全く知らなかった。叔母は2階で寝ている僕のところへ来てオムツを外しその小さな性器を口に含んでいたそうだ。僕はそのことを伯母自身の口から親類の集まりの中で聞いた。僕は驚いた 僕はもちろん 叔母が僕に対してそんなことをしていたなんて 全く記憶になかったし、ただ叔母は赤ん坊だった僕が 可愛くてしょうがなくて口に含んでしまいたくなったらしい。僕は自分自身 そういう気持ちになったことがあったので責める気にはなれなかった。実際 僕は叔母に対してそのことに関しては何も言っていない。叔母は僕のオムツを変えるついでに いつのまにか そんなことをしてしまったんだろう。僕は恋人に対して同じようなことを何度もしたことがあるので叔母を責めるような気には全くならなかった。むしろ 幼い僕を大切にしてくれた叔母に対して感謝している。赤ん坊の頃の僕は色が白くて血色のいい とても可愛い子供だったらしく叔母が色々口に含んでみたくなってしまう気持ちはだからよくわかる。僕だって恋人の唇や乳房だけでなく いろいろなところを口に含んだ。あまりに可愛らしいものを目の前にすると、そんなことをしたくなるものだ。食欲と愛欲は同じような部分があるのかもしれない。それは多くの人が経験したことだろう僕もそうだ。

僕は生まれてすぐに2人の人間によって性的な経験をした。一人はまだ赤ん坊の頃の僕に対する叔母、もう一人は幼稚園児になった僕に対しての和遥君だ。彼はもう若くして死んでしまった。僕は彼にされたことは、まあまあ覚えている。いずれにせよ 僕もあまりにも子供だったので性的被害と言っても幼い 遊びの一つだったし、みんな似たような経験をしているはずだ。

シグモンド フロイドではないけれど 人間のあらゆる行動の根源には性的欲求があるのかもしれない。僕はそれが全てだとは思わないがフロイド が言うことはかなり正しいと思っている。そうでなければ美しく可愛らしい娘を見た時、自分がどうしてあんなことをしたくなるのか説明がつかない。僕は美しい娘の体の美しい部分を全て口に含んでしまいたくなる。大きな二重の美しい瞳、鼻筋が通った美しい鼻、白くなめらかな娘の乳房、そして何と言っても形がよく美しい娘の唇。それらを全て口に含んで、できれば食べてしまいたくなる。まさに性欲と食欲は同じ道をたどる。美しさに目を奪われ、そして美しさゆえに欲しくなる。人間にとっての欲望とは、究極的には食欲なのかもしれない。美しいからこそ欲しくなり、口に含んで食べてしまいたくなる。

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