第29話 新たな足跡 友情の出会い

杏菜は、ガイドヘルパーの堀込と一緒に外へ一歩出た。湊と一緒に出かけたことは何度かあったが、他の人と出かけるのは、目が見えなくなって、これが初めてだ。初めて会っても、結局は指示に従って、先に従わないと前に進めない。


声と白杖の感覚を頼りに進む。歩いている途中で凸凹の感覚が靴底から伝わる。健常者の人でも気になって、歩いたことはあるあの黄色い凸凹の道路だ。点字ブロックを正式には視覚障害者誘導用ブロックという。まさかこれが役に立つとは目が見えていた時は、全然思いつかなかった。白杖をトントントンと動かして、凸凹を探す。




「杏菜さん、外出するのは良いんですけど、目的地決めてないですよ」


「あ、そうだった。外に出るのがあまりにも久しぶりすぎて嬉しいんだ。


 しかも、この白杖使うのも何か楽しいし」


「楽しんでいるようでよかった」




 堀込は、なるべく通行人にぶつからないよう、自分の腕をしっかりと掴ませた。




「目的地は、決めてあるので、着いてきてもらえますか?」


「うん、わかった」




(僕は友達か。もう敬語は終わり。慣れてきたってことかな)




 堀込は初対面ですぐに打ち解けられる杏菜に嫉妬した。仕事上でなければ、人見知りが強い堀込にとって、人との距離を縮めるのは難しかった。2人が向かった先は、堀込の職場でもある。視覚障害者情報提供施設の【ブルーベリー】だった。外壁にはブルーベリーのイラストが描かれている。スロープの上をゆっくりと進む。カンと白杖があたった。




「だんだん杖の扱い方が上手くなってきましたね。そのまままっすぐ中に入ってください。自動ドア開きますから」




 堀込は玄関の自動ドアを先にセンサーに手をかざして開けた。




「ここはどこ?」


「心配しないで、今の杏菜さんにとって役に立つものがあります。」




 堀込が案内する施設は、視覚障害者のたくさんのサポートが受けられるものだった。点字の本はもちろん、音声図書常勤でカウンセラーが待機している。週に3回ほど、盲目の人を集めたコミュテニィも行われている。同じ境遇の人が集まって、話せる場所だ。レクリエーションもあるようだ。視覚障害者の雇用相談も承っている。




 杏菜は、匂いや雰囲気を体で感じ取った。いろんな人が話すのが聞こえる。ずっと引きこもっていた杏菜にとって、新鮮で、ワクワクしてきた。老若男女様々な人がいて、自分1人だけじゃないことに安心する。




「世界変わるなぁ」




 瞼を閉じて、あたりを感覚で感じる。この空気感悪くない。




「その子だれ?」




 近くの女性ヘルパーとともにソファに座っていた女の子が話しかけてきた。




「結子ちゃん。その子は今日、初めて来たんだよ。いろいろ教えてあげてね」




 先天盲の女子中学生だった。割と歳が近いことに嬉しかった。杏菜はもうすぐで18歳になる。




「はじめまして、笹山杏菜です」




 手探りで結子の手を握ろうとする。堀込は、杏菜の手をつかみ、誘導してあげた。




「ここだよ」


「杏菜ちゃんっていうの? 私、結子。結ぶ子って書いてゆうこだよ。


 よろしくね」


「結子ちゃん、歳が近い子に会えてよかったね。いつもおじいちゃんとおばあちゃんに会ってたからね。嬉しいね」


「ううん。おじいちゃんもおばあちゃんも優しいから良いんだよ。でも、年が近い方が話しやすいかも」




 声の調子が高くなるのがわかる。杏菜も嬉しかった。年下の友達ができた。


 まともに話せる女友達ができたのは久しぶりだった。それからというもの、杏菜は、この【ブルーベリー】に通うのが楽しみになっていた。堀込は、自分が相手するより話し相手がいてよかったと安堵した。

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