第15話 或る日までの幼なじみ
玄武もグリフォンも消滅し、ただ一人大空洞の真ん中で寝転んでいるミトラ。そんなミトラの元へ、入り口で控えていた小金井碧が駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「……動けねーのら」
「まあそうだよね! 洞窟がいつ崩れるかもわからん事だし、急いで洞窟を――」
「待つのら! 念のため、洞窟の周辺に小さな亀が居ないかどうかを探してみて欲しいのら」
「何を言ってるの、玄武はもう死んだでしょ」
「確かに、私が奴の体を吸収できたのは玄武が死んだ証拠のら。だからこそ、万有の言ってたことが気がかりでしょうがないのら」
万有の言っていた事とはすなわち、『玄武は死んだふりができる知能をもつ』事だった。
「万有は玄武を仕留め損なったと言っていたのらけど、万有の能力的に真正面で戦って仕留め損なうはずがないのらよ。となれば、玄武には二つ命があると考えるのはおかしくない事のはずのら」
「まあ、確かに?」
碧はククリナイフを取り出し、地面に刺して目を閉じる。
「何を――」
「静かに。今、音を聞いて子亀の位置を特定してるの……居る! 50m先に、四本足の小さな生物が!」
ナイフを抜き、一直線に走り出す碧。しかし碧が7歩踏み出した後、地面に白い魔方陣が現れると共に三体の獣人が召喚される。
「……悪いが、急いでるんでお前ら相手に『賭ける』余裕はない。理論値で攻めさせて貰う」
ナイフを順手に持ち替え、大きく一歩踏み出して振りかぶる。
「『覚醒』! マジになった今の私の攻撃は、100%アタる。この勝負、一瞬で片が付くぞ」
先頭に立つ猿人に向けてナイフを振り下ろす碧。咄嗟に木の棍棒で受ける猿人だったが、ナイフが当たった瞬間棍棒は風船のように砕けて破裂してしまう。
碧はそのまま猿人の肩にナイフを突き立て、思いっきり切り裂く。すると猿人もまた、棍棒同様に粉々に爆発する。
顔に血を浴びながらも碧は残り二人の猿人に目線を向け、次の瞬間、目視では捉えられないスピードで残りの猿人も切り刻む。
次にミトラの前に立った碧の体からは、洞窟の入り口でみたそれより遙かに濃いオーラが放たれていた。
「あーあ、一日に二度も覚醒を使う羽目になるなんて。覚醒使ってこの感覚を得たところで、ちっとも面白くないってのに」
「わ、悪かったのらよ」
「あっ、言葉に出ちゃってた! ごめん! ……って謝ったところで、増援が来ないうちにさっさとあの子亀を仕留め――」
刹那、ミトラと碧は一瞬だけ周囲が星空に変わったのを感じた。一瞬の出来事ながら、二人はその感覚が何を意味するかを瞬時に悟る。
「おーいたいた。こいつだな? かつて玄武だった子亀ってのは」
声がした方向を振り向く二人。目線の先には、手足をジタバタさせる小さな亀を両手で掴む茶髪の男がいた。
「万有! どうしてここがわかったのら?」
「そのナイフにアラームを仕込んでたからだ。アラームは玄武が死亡した時、その事実と共に場所を俺に知らせてくれるようになってる」
「そうだったのらか……」
暴れ続ける玄武を左手に持ちながら、次に万有は碧の方を向く。体を大きく震わせて驚く碧の様子を気にせず、万有は碧に向けて歩き出し、碧の目の前に立つ。ジッと碧の顔を見つめる万有に対し、碧はきまずそうに目をそらす。
「久しぶりだな、碧」
「そ、そうかな?」
「ああ。『もう会えない』って突然言われて、それっきりだ」
「そ、そうだったね……アハハ……」
「幼い頃にした『学校も、職場も、どこへ行くのも二人一緒に』っていう約束を破って、あの日お前は消えたんだ」
「……」
「なあ、どうしてだ? 俺がなんか悪いことしたか? 俺が知らない逆鱗にでも触れたとか――」
「違うよ、万有。私はあの日、君より先に大人になっちゃったんだ。好きな人が出来たとか、絶望的な将来を見たからとか、いろんな事に気づいた結果ね」
「何だと……?」
「万有、あの時の私にとって君とその約束は邪魔だったんだ。だから一方的に別れて、生意気にも自由になろうとした」
「……なるほどな」
「私はあの時の自分を許してない。だから今の私は、子供の時のように君と仲良くできないんだ」
万有は
「まさかとは思うが、一生そうやってふてくされてるつもりじゃないだろうな?」
「そのつもりはない。私は今日までずっと自分を許すために何をすれば良いかを探してきた。そして今日、その子のお陰で何をすれば良いかを見つけられたんだ」
「それって――」
「例のヒュドラ捜索、私も協力するよ」
「「!!」」
二人同時に驚く万有とミトラ。ミトラは立ち上がり、碧の服の裾にしがみつく。
「本当に碧も協力してくれるのらか!?」
「これでも私、冒険者歴は万有より三年長いし。それなりに人脈も広いから、方々で聞いてみるよ」
「俺より長い……そうだったのか」
「これ私の電話番号。情報が手に入ったら連絡するから、登録しといて」
万有に小さな紙を押しつけた碧は、ミトラが裾から手を離したのを確認してから大空洞の出入り口へ歩き出す。
「情報の調査なんて、一緒に暮してても出来るだろ」
「そうしようとも思ったんだけど私、他にも色々問題抱えててさ。情報収集しつつそれらを落ち着かせて、それから改めてそっちに行くよ」
「そうか。頑張れよ」
「うん。それじゃあね二人共! またいつか――」
「待て!」
出入り口をくぐろうとした碧は、万有のその声にふと立ち止まる。
「俺はもうお前を許している。正直に喋ってくれたし、理不尽が理不尽でなくなってスッキリしたからな」
「……いいの?」
「いいんだ。だから情報提供目的でなくても、いつでも掛けてきてくれて構わない。昔、親と喧嘩して深夜俺の部屋に駆け込んだようにな」
「ハハッ! あったなそんなこと。わかった、寂しくなった時は掛けるね」
碧は笑顔で万有に手を振り、洞窟の奥へと消えていく。それを見送った後、万有は小亀の頭を思いっきり殴りつけて気絶させ、バッグに入れた後ミトラを小脇に抱えて大空洞を出るのだった。
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