第一章EX とある少女


 最初は金のためだった。

 欲望は移り、増し、最後は一つに。

 男は殺すために殺し続ける。


 ノアたちがメルの森でじゃんけんで肉を取り合い、エニにトリフィムが泣かされてる頃。

 フリードの街灯もない路地裏。


「この国にいるのはわかってるんだけど、完全に迷子になっちゃった」


 路地裏で天を仰ぐ少女はつぶやく。


 赤い色が好きだった。断末魔が、躊躇のない命乞いが好きだった。

 男は人間が好きだった。だから殺し続けた。


 その男の目に暗い路地裏に一人でいる少女が目に入る。


 男は魔法でナイフを生み出し、刃先を舌でなめながら近づいていく。


 男が瞬きをした瞬間少女の姿が消える。


 男は目を見開き、あたりを見渡す。

 すると背後から声が聞こえる。


「死に抱かれて眠るなら、死はお前を包んだだろう。死を恐れて隠れるならば、死はお前を許しただろう」


 男は振り向こうとしたが、その少女の顔を見ることは叶わなかった。少女は男に触れる。


「死んで得る誉れもあるけど、勝者は、常に生きてる人だよ」


 少女は横たわる死体に視線を落とす。


「次は主人公になれるといいね君」


 少女はそういうと路地裏を駆けだす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る