第十話 無慈悲の拳
ノアは光で出来た弓を引き絞り放つ。
放たれた矢は、無数に別れ、不規則にされど規則的に飛んでいく。
ジョーも地面から岩でできた大木ほどの太さの人間の腕のようなものを生やし、竜の足をつかもうと伸ばす。
岩の腕は竜の爪に軽々しく砕かれ、光の矢はまたしても輝きだした鱗に阻まれる。
「見上げるなど不敬、ただ頭を垂れて受け入れなさい。私の咆哮は地を這うものへの祝福と知りなさい」
「……!? ――おいエニ! 聞いたかよ。ドラゴンがしゃべってるぜ! しかもかっこつけすぎて何が言いたいかまるで理解できねえ! ははっ!」
戦闘中にこんなにもおちゃらけてるのはどうなんだと他の冒険者に言われることがある。
これが鶏肉の、延いてはノアたちの戦い方。緊張し体が硬くなればそれだけ普段のパフォーマンスが出しにくくなる。ノアたちは、緊張を和らげると同時に戦況を報告し合っている。
それがちょっと……ほんのちょっとふざけちゃってるだけで。
「っ……! 聞いたけど今はこっちに集中してよね! ほら巻き込まれに注意してね! 森の嵐!」
あたりに風が巻き起こり魔力を帯びた葉や枝が宙に舞い魔物に向けて放たれる。
魔力を帯びた葉は魔物の足や首を跳ね飛ばし霧散させ、鶏肉の自慢の服の襟を切り飛ばした。
魔力を帯びた枝は魔物を貫き、鶏肉の頬を掠めた。
「いってえ! 当たってるって!」
「はあ……はあ……注意って言ったじゃん。でも、これでかなり数が減ったでしょ?」
「ああ、そうだな」
鶏肉は次の獲物を探して周りを見渡す。
服が何かに切れらたかのようになってるジョーと、枝の刺さったポーチを腰に下げているノアのことは見て見ぬふりをした。
「エニ……あとで、いっしょに謝ってやるよ」
「ドラゴンの技だってことにしない……?」
「無理だろ。ジョーの方見ろよギリギリ服の形保ってるぜ? ってかあれほぼ上裸だな。ジョーのやつよく避けたな器用に服だけ切られてらあ」
「……あとでいっしょに謝って」
「ああ。ほら次行くぞ!」
鶏肉は次の獲物へと駆けだした。
「魔物の数も減ってきましたね。さすがは上級冒険者パーティの『ノアと愉快な仲間たち』ですね」
これほどまでにパーティ名を後悔したことはない。
いや、全部名付けた鶏肉が悪い。何というか雰囲気が台無しだ。
(このパーティ名なんでみんなOKしたんだっけかな……?)
向こうで鶏肉がツボってる。後ろからキモい顔の魔物来てますよ。
「トリ君後ろ後ろ!!」
「ん? うぉああああ! キモ! ファイアーボール!」
あんな感じでよく俺ら今まで生き残ってきたよな。
「次はこちらから行かせてもらいますよ」
竜は口に火を含みジョーに向かて放つ。まさに火炎放射だ。
ジョーはとっさに岩で壁を生成しそれを防ぐ。
「どっかの誰かさんの魔法の方が何倍も熱いですよ! 服が切れててちょっとは僕も熱いですけど!!」
ジョーは地面に手を着き自身の腕くらいの太さの先の尖った岩の柱を生成し竜に向かって放つ。その速度は今までの魔法と比ではなく、目で追うのがやっとの速度で竜に迫る。
「早いだけですね」
竜はそれを軽くよけ、自身の周りに巨大な岩を二つ生成しジョーとノアに向けて放つ。
当然のことだが、下から上に向けた攻撃と、上から下に向けた攻撃とではどちらが強力かは言うまでもない。
ジョーとノアは飛びのき直撃は避けるが、岩の落ちた衝撃でまるで風に舞う葉っぱのように飛ばされる。
離れていた鶏肉とエニも吹き飛ばされている。
「苦しそうですね。とても苦しそうです。今救ってあげますよ」
大きな翼を羽ばたかせノアたちのいる場所に竜巻を起こす。
その竜巻は牙を持ち、自ら出した魔物すらも巻き込んでいる。
竜巻がやみ、風に巻き込まれたノアたちは1ヶ所集められ、そこにはノアたちと竜だけが残った。
ジョーの服は完全に破けた。
「これで終わりですね」
竜は雄たけびを上げると、地面から岩でできた巨大な腕が一本生え握り拳が振り下ろされる。
残酷な最後に、覚悟を決める暇があるとは限らない。
ノアたちは防御する暇すらなく、その拳を見上げることしかできなった。
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