第五話 おさらいをしよう
何事もなく朝を迎え、川から水を汲んできたノアは仲間を見渡す……仲間?
魂が抜かれてしまったかのような奴が一人。
目元を真っ赤に染め、鼻には固まった鼻水がついてるやつが一人。
ニコニコ笑いながら鼻歌交じりに準備してるやつが一人。
全員知らないやつなんですけど、あの肉一枚を引きずりすぎだろ。
確かにめちゃくちゃ美味かったけどっ。
とはいえ、みんな冒険者の中でも上澄みの上級冒険者だ。準備が終わるころには普段通りに戻っている。
「思ったんだけど」
「おう、ノア。多分俺も同じこと思ったぜ」
「お、じゃあ鶏肉同時に言おうよ」
「ああいいぜ、あとトリフィムな」
「「せーの!」」
「みんなの魔法をおさらいしようと思う」
「街に戻ってあの肉を買ってこよう」
ジョーとエニに鶏肉がボコボコに殴られてる。
「すみませんでした。ノア様どうぞ」
やりにくコイツ。
「俺たちはこれから今まで戦ったことのない魔物と戦うことになる」
三人が無言でうなずく
「最近覚えた魔法や、あまり人前に出したくないとっておきの必殺技とか、みんなに隠してる魔法があればここで一回全部吐き出して。新しく戦略を練ろう」
「出し惜しみして勝てる相手ではないでしょうからね」
「賛成~」
「俺も賛成だ」
「うん。ありがとう。じゃあ、まずは俺からね」
焚火跡を囲むようにして四人が座り、ノアが自分の魔法について話始める。
「俺の魔法は光魔法。光の弾を生成して敵に打ち込んだりできる。兄貴と違って複雑なものは生成できないけど俺は光で武器を生成することができる。今作れるのは剣と弓と最近――も生成できるようになった。あと、これも最近覚えたんだけど――まあ、使えるの1部分だけだけどね」
「なるほどな、かなり心強いな。じゃあ次は俺な」
鶏肉が自慢の襟を直しながら話始める。その表情は悲しみとは少し違うなんとも言えない表情をしている。
「俺の使える魔法は火の魔法だ。知っての通り指に火を灯したり、人の頭くらいの火の玉を生成することしかできない。新しく覚えた魔法も特になしだ。センスが無くてな……」
しおらしくなっている鶏肉を見てノアたちは、なぜこいつは自覚がないのかと思っている。
ただ、言ってやるのも違うと思い黙ってはいるが、このままだと鶏肉の自己肯定感が下がり続けてしまうのも問題だ。最近ガチで落ち込んでる。
今回の戦いで気が付いてくれればいいとノアたちは切に願う。
子供でも扱える魔法しか使えないのに鶏肉は冒険者なのだ。それも上級の。
「では、次は僕が」
ジョーは自分の顎を触りながら、頭の中を整理するようにゆっくりゆっくり話始める。
「……」
その姿をエニがじっと見つめる。
「僕の魔法は、土と岩魔法です。土魔法でほんの少し地形を変えたり、岩魔法で壁や、先をとがらせて槍のようにして敵に伸ばしたりできます。師匠と違って空中に岩を生成したりはできません。あくまでも僕は地面からになります。隠してる魔法や必殺技も特にはありません……」
「じゃあ、最後は私ね~。私の魔法は植物魔法。魔物を喰らう花や、敵に巻き付く荊を生み出したり、自己回復を促進する花を咲かせることで傷を治したりもできる。ここまではみんな知ってるよね~。なんと私は最近新しく魔法を二つほど覚えました!! 敵の攻撃を防いだりできるすごい頑丈な大木を生成できるようになりました! あとは、植物魔法の延長で新しく生みだすんじゃなくて、もともとある植物に魔力を込めて飛ばしたりもできるようになったよ~。あんまり大きいのはできないんだ、せいぜい葉っぱや小枝くらい」
「エニ……お前さてはめちゃくちゃ強いな?」
鶏肉はうらやましそうにエニを見る。
「でしょ!? 私めちゃくちゃ頼もしくない? でも、私魔力貯蔵量が多くないからすぐ疲れちゃうんだけどね~」
トリ君がうらやましいよ……。エニがそうこぼした吐息のような小声は誰にも、もちろん鶏肉本人にも聞こえてはいない。
「みんなありがとう。これなら今まで通りの戦い方を変えるほどではないと思う。霊峰ラコンに着くのはおそらく明日、ドラゴンと戦うのもその日だと思う。でも、いつ不意打ちが来るかわからないから、みんな気を引き締めていこう」
「おう」
「はい」
「うん」
「まずは今日メルの森を抜けよう」
森に足を踏み入れると、そこはまるで自然の聖域だった。
競うように伸びた木々の間から差し込む陽光は、まるで優しい手が森の床を撫でるように明るさを運んできた。
地面には斑模様の影が落ち、落ち葉を踏みしめる足音だけが聞こえる心地よい静寂が満ちていた。
ノアたちはその暖かい雰囲気に惑わされることもなく警戒心を緩めずに進んでいく。
これが上級冒険者の立ち振る舞いだ。
冒険者の死因の多くは慢心、油断に他ならない。
あ~、こらこら鶏肉君、ジョー君珍しい虫を追いかけないで!
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