第10話 間男一派が墓穴掘ってる間にこちらは勢力拡大してる模様


「昨日はあれからヘイゼルが俺の部屋に駆け込んできてさ。……カストルにポロポーズされたって」


 ……ぷろぽーずゥ?誰が……俺がっ?!アィエェェェェ?アレェ?!俺そんな事言ったけぇ!?


「―――君の人生を任せてくれないかって言われたって、顔を真っ赤にして嬉しそうに言っていたよ」


 ……言ったな!言ったわ!!間違いない。


「あ、あぁ、その事なんだが―――」


 誤解されてしまって、と言おうとしたところでドーブルスがぽろり、と涙を零して言葉が詰まる。


「……ヘイゼルの事、頼むな。おれの大切な妹なんだ」


 そんな言葉と共にウッウッと男泣きを始めるドーブルス。

 そのただならない気配に“勘違いですごめんなさい”とは言えず涙が落ち着くのを待って何があったのかを聞いてみることにした。


「―――王族は子供の頃に、先んじて魔力を計測するんだけど、そこで魔力が低いと言われたヘイゼルは婚約を破棄されて、婚約者からも散々になじられた挙句に王家を追放されたんだ。

 ……だからあの子は、王族としてではなく母方の姓を名乗ってる。

 それにいくら王家の血を引いている元姫でも、元婚約者がこの国でも有数の大貴族だったからそこに睨まれるのを回避するためや、魔力が人の半分しかないという事で後ろ指を指されて、以降他の婚約が結ばれることもなかったんだよ」


 あまりにもあんまりすぎるヘイゼルの過去を聞かされて言葉が出ない。魔力の事や王位継承権をはく奪されたことは聞いていたけど、そんな事まであったなんてあまりにもしんどい話すぎる。


「……だからあの子は自分を必要としてくれたカッちゃんの言葉が嬉しかったんじゃないかな、って思うんだ」


「あの子にそんな過去があったなんて……」


 俺の言葉に、苦笑をするドーブルス。


「優しい子だからね。あまり自分のそういう話をしたがる子じゃないし……でもそんなヘイゼルが泣いて喜んでいたから俺も応援させてもらう事にしたんだ。正直、ヘイゼルも自分の結婚については諦めていたとようだったから余計にさ」


 ……そうか。誤解を招くような言い方をした俺がきっかけだけど、そんな事を聞くと自分の言葉に責任を取らないとな、という気持ちになる。

 あとこの国のそういうしがらみ本当に糞みたいだと思う。

 そして何より、そんなヘイゼルの過去の事を聞くと俺が言った言葉により重みが増して……こんなの絶対ヘイゼル幸せにしないと許されないよなぁ!!覚悟を決めろ腹を括れよ俺!!


「……安心しろ、俺がお前もヘイゼルも纏めて幸せにしてやらぁ!……できらぁっ!」


「カッちゃんすぐそういう事言う~!幸せにするのはヘイゼルでしょ!」


「おっとなんかニュアンス違ったかな?ん~、間違ったかな~!」


 そう言って顔を見合わせて笑いあうのであった。

 ヘイゼルの家への顔合わせはまた後日ドーブルスがセッティングして同行してくれるようだ。……その時はきちんとご挨拶しないとな。

 その日はそんな話をしてから解散となった。



 ―――だがそんな出来事があったおかげで、それから数日の間俺達の周りでもバタバタと変化があった。


 まずひとつはアッシュとアッシュの実家のガルシン家が俺経由でドーブルス派になったこと。

 元々ガルシン家は王子の間での派閥争いには加わらず中立の立場にいたが、アッシュが起こしたマッチョリー家との勝負を切欠にドーブルスの母方の実家とガルシン家の間でもやり取りを色々と重ねられた結果ドーブルス派として俺達についてくれたのだ。そこにはアッシュの説得があったのは想像に難くない。

 王子の間でも派閥の大小はあるが、ドーブルス派は元々殆どおらず王位継承の政争でいけば最弱の部類の派閥だったのでそこにわざわざついてもらえるということは本当に感謝しかない。


 そしてもう一つ、バルナに関わる事でも動きがあった。

 俺やアッシュは中等部の頃にバルナ本人から教えられたけど、バルナの父親は国内にある武器工廠を束ねる大商会・ハイムニクスの当主でそれは王族を含めた一部の貴族の知る秘密である。

 戦争中の国であればそのどちらにも武器を給与するので死の商人といわれることもあるが、大陸最高の大工廠群を抱えていて王家ですら口を出せない規模の大商会の、妾腹の息子がバルナなのだ。

 幸いにも大きな怪我はなかったとはいえよりにもよって軍閥のマッチョリー家が国に卸す武器の7割近いシェアを誇る大商会の子供にそんな出来事を起こした事で、マッチョリー家は派閥の中で村八分のような状態になりあれよあれよと転落していった模様。リバルくん、もうちょっと人の交友関係とかについて調べておくべきだったよなぁ……浅はかさは愚かしい。

 リバルの指示で動いてとばっちりを受けた形になったマッチョリー家にはドンマイとしか言えないけどね。おかげでというかマッチョリーパイセン以降の嫌がらせはピタリと止まった。


 そしてもう一つ、アッシュがドーブルス派についたこと後にバルナとその実家もドーブルス派につくことを表明してくれた。

 公に明言しているわけではないがハイムニクス商会もドーブルス派寄りの立場になるという態度を暗に示したしたことも大きい。王位継承の政争に対しては関わる事を避けていたが、リバルのけしかけたトラブルを機に俺を含めたドーブルス派に対して武器供与の提案があったのだ。……死の商人と言っても人の親ということなのだろうか。

 そんな流れもありドーブルスとアッシュ、バルナを引き合わせたてみたが皆意気投合して、すっかり良い友人達になったのは俺にとっても嬉しいことである、へへへっ。


 そうして俺の馴染みの友人達が合流したことで、今まで弱小派閥だったドーブルス派が一気に看過できない勢力となる一方でリバル陣営はかなり動揺しているとも聞く。

 何よりハイムニクス商会の逆鱗に触れたことで中立の勢力ではリバル派からは距離を置こうとする動きがあったり、リバル派の中でもよりにもよってハイムニクス商会に敵視された事で資質を疑う声も出ていること……このあたりはジェシカからの情報だ。

 友人が多いジェシカはうわさ話や色々な情勢の情報に詳しいが、曰く『女子は男子が思っているよりもずっと噂に生きてるから』との事。なるほどなぁ~。

 そんなわけで弱小派閥から一躍王位継承政争の中で侮れない勢力へと急成長することになった。

 

 そして今はドーブルスの部屋に荷物を運びこんでいるのであった。

 ドーブルスがカッちゃんと同じ部屋がいいんだもん!!!!!!!!!!!!友達なんだもん!!!!!!(要約)と主張した結果俺はタコ部屋からドーブルスと同じ部屋に移動することになった。王族専従騎士は仕える王族と同じ部屋で暮らすことも珍しくないようなのでドーブルスの意見はあっさりと通ってしまった。まぁタコ部屋暮らしよりは気楽だしいいんだけどね。


 「そういえばバルナに届いていた白い鎧かっこよかったねぇ、全身魔導鋼の上に白金鋼を重ねるなんて量産できない一点ものの鎧でしょ?」


「それな!まさからバルナもアッシュもレアスキルの上を行くユニークスキル持ちだとはこのカストルの目をもってしても見抜けなんだ。どっちもかっこいいよなずっこいずっこい!」


 アッシュは虹色の魔力を自分や装備に纏わせたり放射できるユニークスキル“魔力放出:虹”、バルナは一角獣と契約してその力をその身に宿すことができるユニークスキル“神獣憑依:一角獣”と2人ともレアルスキルの上を行くユニークスキル持ちだった。

 どちらも自分のスキルを誇示してなかったけど、ドーブルス派はユニークスキル持ちが2人&大陸有数の大商会&魔力5のゴミというよくわからない勢力になってじわる。少数精鋭ってやつですよHAHAHA!

 今頃リバル君は頭抱えてそうだけど、身から出た錆ってやつだからね。後悔してね、すぐでいいよ!

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