第20話
深瀬先輩と会えない週末はあっという間に過ぎて、翌週の月曜日の放課後。今日の部会は実習と買い出し前の最終確認としてホットケーキのデコレーションについて相談する予定だ。
私たちのクラスのホームルームが早めに終わったせいか、家庭科室に着いたもののまだ鍵が開いていなかった。仕方なく小春と並んで立って喋る。
「今日の体育、マラソンしんどかったね…。」
私が言うと、体育用に髪をお団子に結ったままの小春がうんうんとうなずく。
「昼休み後にやるとかまじ鬼畜!しかも汗でメイク崩れそうでヤバかった。」
「小春、メイクしてるの?」
「ちょっとだけだよ、校則に引っかからないレベルでね。あ!いいこと思いついた!」
突然の大きな声にびっくりした。小春はまつ毛がきれいにカールした目をキラキラさせながら私を見ている。
「明日の放課後、買い出し行く前にちょっとメイクしようよ!道具は私の貸すし!」
「ええ、メイクなんてしたことないよ?」
「だからこそしてみようよ!買い出しだけど、せっかく深瀬先輩と出かけられるんだからさ。」
「たしかに、どうせならちょっとでもかわいい私を見てもらいたいかも。」
私のつぶやきに小春は満足そうに口角をあげた。
「もう来てたんだ、ごめん!今鍵開けるね!」
階段から鈴木先輩が姿を現した。家庭科室の鍵を開けてくれたため、室内に足を踏み入れる。閉め切られていた家庭科室は、日差しが入っていることもありぽかぽか暖かかった。
丸椅子に座って待っていると、続々と先輩方や島田君が家庭科室に入ってきて部会が始まった。しかし深瀬先輩の姿はない。鈴木先輩の話を聞きつつグループチャットを確認すると、『日直だから遅れます』とメッセージが来ていた。遅刻するだけで欠席ではないらしい。つまりもうすぐ会えるんだ。それだけで一人安堵して口元が緩んでしまう。
「ホットケーキのデコレーション、何がいいか意見出して~!」
鈴木先輩の呼びかけに家庭科室のあちこちから意見があがる。いつも板書をしている深瀬先輩がまだいないため、鈴木先輩は話を聞きつつ意見を黒板に書いていて大変そうだ。思い切って声をかける。
「先輩、私板書しましょうか?」
「えっ、いいの?助かる~、ありがとね!」
黒板前まで歩いていくと、鈴木先輩にチョークを手渡された。字は決して上手い方ではないけど、心は込めて次々出てくる食材を板書していく。定番のバターにはちみつ、いちご、フルーツジャム、生クリーム、おかず系にするなら添え物としてベーコン。大体の意見を書き終えたところで、家庭科室のドアが開いた。
「ごめん!結構遅れちゃった!」
息を切らす深瀬先輩の姿が目に入ると、急に心拍数が上がった。
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