第18話

しばらくすると部会が終わったため、皆それぞれ帰り支度を始める。私もペンケースやスマホをカバンの中にしまいながら、一緒に帰ろうと深瀬先輩を誘うか悩んでいた。付き合っていることは皆には内緒だから怪しまれるかもしれないし、今だって女子の先輩方に囲まれて話していて、とても話しかけられる雰囲気ではない。勇気が出ないまま、黒板前に立つ深瀬先輩の脇を通って小春と共に家庭科室を後にする。

「誘わなくていいの?一緒に帰ろうって。」

口には出していない自分の気持ちを言い当てられた小春の言葉にドキリとした。

「あんなに囲まれている中に入って誘うなんてハードル高すぎるよ…。」

「深瀬先輩、やっぱりモテるんだねえ。まあ、あのルックスと性格なら当然か。」

小春のつぶやきに賛同しているとスマホが短く震えた。通知を確認すると、深瀬先輩から個人メッセージが届いていた。あわてて確認する。

「どうしたの?」

急に立ち止まりスマホを操作し始めた私に小春が問う。

「深瀬先輩からメッセージ。えっと、えっ、今日一緒に帰らないかだって!」

小春と目を見合わせたのちに、『もちろんです!駅のホームで待ってます』と返信した。するとすぐに了解ですというスタンプが返ってきた。沈みかけていた気持ちが一気に上昇するのが自分でもわかった。

「よかったね、美恋!」

「うん!」


はやる心を抑えながら駅に向かい、改札で小春と別れホームへの階段を降りる。まだ深瀬先輩が着いていないと頭ではわかっていても、楽しみで足が早まってしまう。ホームに降り立つと、やはり深瀬先輩はまだいなかったためベンチに座って待つことにした。特にすることもないから音楽を聴こうとスマホとイヤホンをカバンから取り出そうとすると、横から「美恋ちゃん!」と名前を呼ばれた。

声のした方を見ると、深瀬先輩が肩を上下させてこちらを見ていた。どうやら走ってきたらしい。私はあわてて立ち上がって深瀬先輩のそばに駆け寄る。

「先輩、わざわざ走ってこなくてもよかったのに…。大丈夫ですか?」

息を切らしながらうつむいていた深瀬先輩がいきなり顔をあげたため目が合う。ドキッとして思わず目をそらすと、身体が熱くなりそうな言葉をささやかれた。

「だって、美恋ちゃんと少しでも早く一緒にいたかったからさ。」

「なっ…」

ストレートな言葉に顔というか全身が熱くなる。リンゴのように真っ赤な顔をした自分がちょうど滑り込んできた電車の車窓に映る。

「電車来たし、乗ろうか?」

深瀬先輩が電車を指し示す。私はなんて返事すればいいのかわからなくて、こくりとうなずいてから深瀬先輩の後に続いて車内に入った。

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