第6話 処罰はあったんだろうか……


 「ちょっと先生、やめて下さい!」

 駆けこんだD先生が、Cを止めます。

 「いいんです、先生!

 こいつが、列を乱しよったんです!」

 「私が頼んだんです!

 やめて! 本当にやめて!」

 D先生が必死に止めますが、暴力をふるい続ける自分に興奮して、歯止めが効かなくなっているのか、それでもCは、M田くんを殴る殴る。


 「男子、先生を止めて!」

 ついにD先生が叫びました。


 「よっしゃ!」

 許可が出たので、周囲の男子生徒が、一斉にCへと襲い掛かりました。

 Cの髪の毛をつかんで後ろに引き、膝の裏に蹴りを入れる。引き倒したCを囲んで、踏みつけるように蹴る蹴る蹴る。頭を蹴られて朦朧としたCを引きずり、谷底へ蹴落とす。

 ……ぐらい出来たら良かったのですが、やったことは、両手をつかんで、M田くんから引き離すことぐらいです。

 それでもまだCは、「放せェ!」と叫んでいましたが。


 そのとき、ようやく、三組、五組の担任がやってきました。

 「どうしました?」

 「大丈夫ですか?」

 状況が分からない三組担任と五組担任。


 「M田が何かしよったんですか?」

 D先生がM田をかばう位置に立ち、他の男子生徒がCの両腕を押さえていることから、M田絡みで、何かあったことは察したようでした。


 「M田くんは落とし物届けに来ただけやで」

 「C先生が、いきなりM田を叩き始めてんや」

 「無茶苦茶や」

 「M田は悪ないで」

 すかさず周囲の生徒たちから、M田は悪くない、悪いのはCだと言う声が飛びます。

 その言葉から、三組担任と五組担任は、何となく状況が分かったようでした。


 「ほら、お前ら、もうC先生を放せ」

 「止まるな!

 関係ないヤツは、さっさと進め!」

 三組担任は、生徒たちを怒鳴り、進むように促します。

 いやいや、そもそも止めていたのは、Cやろが。


 その場に、M田、C、D先生、三組担任、五組担任が残り、生徒たちはぞろぞろと進み始めました。

 「また隠蔽かい」と、誰かが呟いていたことを覚えています。


 このエッセイのタイトル、キャッチコピーは『決闘変』ではなく、こっちの『遠足変』を思い出してつけました。

 あれは暴行事件だろと、今でも思います。

 M田君に非は無い。

 担任のD先生に頼まれただけで、自ら列を乱したわけじゃない。

 勘違いのまま、暴力をふるい続けたC。

 何か内々で処分があったのかも知れませんが、少なくとも表面上は、遠足前も遠足後も、そのままでした。

 ただ、私たちが卒業して数年後、教師を辞めたと噂で聞きました……。

 

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