第2話 ライバルは転校生
校舎の外に貼られた大きな掲示板。サッと目を滑らせて、自分の名前と友人の名前を探す。
あるかな……よし、あった。良かったぁ。
一番の親友で、幼い頃から知っているいとこ。さらには仕事の相棒、
澪とは同じクラスになれるように、一つ小細工したんだ。その方が情報共有に色々と便利だから。
成績が均等になるようにクラス分けされるようで、それなら中の下の成績の私と成績が被らなければ同じクラスになれる可能性が高まる。それで楽々とトップの成績を取れてしまう澪はすごいけれど。
校舎へ入って靴を履き替え、階段を登る。
……と、気になるのは後ろの気配。
やばい。さっきの少年、着いてくる。
同じ学年の教室を目指しているから行き先が一緒なのは当然だけど、嫌な予感がした。
私は2ーAクラスを通過する。
後ろから少年も通過する。
そして、2ーBクラスの前で立ち止まりドアに手を触れると、少年の足を止める音がした。
嫌な予感、的中だ。
顔だけ横を向けると、少年と目が合う。
「同じクラスで残念だったな」
そう言って、少年はニヤリと笑った。
やっぱり、こいつ好きじゃない……!
「残念とは言ってないけど?」
「それくらい見ればわかる」
顔に出ていただろうか。気をつけなくちゃ。
仕事では人の好き嫌いを出さないようにしてるけれど、自然体な女子高生でいると、どうしてもダメだね。
少年は空いていた教室の窓の隙間から、中をチラリと見た。
「まだ先生来てないみたいだな。助かったな」
「そうだね」
教室に入ったら、親友の澪が私を見つけて駆け寄ってきた。
「葵ちゃん! 遅かったねー!」
「ちょっと人助けしてきたんだ」
嘘っぽい理由だけど、澪は言葉そのまま信じてくれた。
そのトラブルがなければギリギリ間に合ってたけどね、と付け加える。
「ということは、元々遅刻しそうになってたってことね。……って、あれ? 一緒に入ってきた人、どこかで見たことある……」
「本当?」
「この学校では見たことないけど、どこで見たんだろう……」
そう言って、頭をひねった。
澪の記憶力はピカイチだ。彼女が言うなら間違いない。
一緒にいる時間の長い私たちだから、きっと私も見たことがあるはず。
……でも、うーん。記憶にない。
二人で考えても、どうも思い出せなかった。
頭に引っかかったまま、体育館での全校集会を終えて教室に戻る。
先生が教壇に立つと、教室のざわめきは収まった。
「みんな! 初めましての人もいるから、自己紹介をしよう」
爽やか系の先生が自分の名前を黒板に大きく書いて自己紹介すると、一人ずつの自己紹介が始まった。
名前順の席だったため、苗字が秋山の私は女子のトップバッターだった。
緊張はしない。小学校から最初の席は名前順が多くて、自己紹介には慣れてる。
「秋山葵です。同じクラスの長島澪は私のいとこで仲良しです。よろしくお願いします」
私は当たり障りのない自己紹介をして、次の人に回した。
その中でも、クラスの注目が集まったのは、私には第一印象の最悪な少年。
スッと立ち上がると、よく通る声で自己紹介した。
「名前は
帰国子女だったんだ。ふーん。
気になるのは帰国した理由だけど。
みんなもそれは同じだったようで、期待した視線が集中した。
「聞いていいかわからないけど、どうして日本に戻って来たの?」
勇気ある一人の男子クラスメイトが質問する。
「それは……今、世間を騒がせている怪盗ヴェールを捕まえるためだ。親が警察関係の仕事をしていて、探偵として捜査に協力するように頼まれた」
少年がそう言った途端に、教室中に声があふれた。
「すげー! そのために帰国って!」
「あの、怪盗ヴェールを捕まえるって、カッコいい!」
怪盗ヴェールを捕まえる⁉︎
私は心が穏やかではなくなったけれど、じっと成り行きを見守る。
少年を憧れる声が上がる中、一人の男子が手を挙げた。
「確か、城宮小学校だったよな? 覚えてる? 俺、小池!」
「覚えてるよ。直樹だろ」
「やっぱり健太だったか。おかえり、健太!」
二人は昔からの友情を確かめるように固く握手して、その場は盛り上がった。
……私も城宮小学校だった。
そして、親が警察関係の仕事。
思い当たった瞬間に声を出していた。
「あー! 健太ってもしかして!」
「やっと思い出したかマヌケ」
健太はニヤリと笑った。
この反応……最初からわかっていたんだ。
小学生の時の友達……ではない。
犬猿の仲で、顔を合わせれば喧嘩していた。
小学四年生になって、親の都合でアメリカに留学して、やっと顔を合わせないで済むと安心してたのに。
……私たちの天敵がクラスメイトだなんて嘘でしょ⁉︎
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