優しい男の逆転劇~ハーレム作るなんて難しい~

色井 悠

プロローグ

0.異世界召喚ってなんだよ


 都内にある至って普通の高校に通う俺・真田 郁は、高校2年生にもなって身内以外の女性との接点がまるで無かった。姉や妹がいるでもなく、可愛い幼なじみがいるでもない。クラスメイトの女子とは必要最低限の会話で過ごしてきた。男友達は普通にいるが、女友達と呼べる存在はあまりいなかった。


 そりゃ俺だって健全な男子高校生だ。彼女が欲しいとは思う。だが見た目も学力も平均的で、運動も平均的。そんな俺がモテる事などあるわけがなかった。女子と普通に話せても告白という一大イベントが起こる事は夢のまた夢。ただの妄想に過ぎなかった。勿論自分から告白する勇気は持ち合わせていない。


「1度でいいから彼女が欲しいよなぁ……」

「彼女が欲しいの?」


 俺は自分の部屋で独り言を言っただけなのだ。だが悲しい事に幻聴が聞こえてしまった気がした。自宅には誰もいないはずだ。母親もパートに出ている為実質家には俺だけのはずだ。なのに。


 何故、隣に女性がいる?どこから入ってきたんだ?いや、それ以前にこれは幻覚だ。そうに違いない。モテないのを拗らせて女の人の幻覚を見るなんて哀れにも程があるだろう。何やってんだ俺は。


「彼女が欲しいのならハーレムなんてどうかしら?」

「あっれー、おかしいな……まだ幻聴が聞こえる」

「幻聴じゃないわよ!」


 女性の声は少し拗ねたように聞こえた。そもそも女性が家の中にどうやって入るんだ。鍵はしっかり閉めたはずだ。これは幻覚。そう、幻覚だ。


「はぁ、もうまどろっこしいわね。これでわかったでしょう?幻覚でも幻聴でもないわ」


 むにゅ。ふわっ。


 突然手を引っ張られ、温かくて柔らかい感触が手の平に伝わってきた。これは、まさか。女性のむ――――


「本物?いや、そんなまさか……」

「これでも信じないの?仕方ないわね。こうなったら脱ぐしかないのかしら」


 待ってくれ、そんな所母親に見られでもしたら俺は気まずい空気で同じ食卓を囲まなくてはいけなくなる。それだけは非常にまずい!


「分かった信じます!信じますから脱がないで!」

「そう?分かってくれて何よりだわ」


 そう言ってさっきまで服を脱ぎかけていた手を下ろしてにっこり微笑む女性。この子は一体どうやって入ってきたんだ。ストーカー……では無さそうだ。着ている服がゲームに出てきそうなデザインをしている限り、信じられないがまさか異世界から来たとか言わないよな。


「自己紹介が遅れたわね。ごめんなさい。私はリサラ・ステリアル。実は異世界から来たの」

「そうだよな、異世界なんてあるわけが……え?異世界から来た?」

「そうよ?異世界。実は私のいる国の国王が暗殺されてしまってね」


 やっぱり異世界から来たのか。まぁ、ピンク色のセミロングヘアの時点で異世界感はバリバリにあったのだが。改めて言われると実感が無さすぎる。しかも急に国王が暗殺されたとか。重い。重すぎる。


「他の次期国王候補が酷い者ばかりで。そこで次期国王に相応しい男を異世界から召喚しましょう!って事になったのよ」


 そして端折りすぎである。なにがどうなったら国王が暗殺された話から次期国王候補が酷いという話になるのか。そこからまた端折って異世界から召喚って事になるのか。さっぱり理解出来なかったぞ。


「待ってください。落ち着いて話してもらえませんか?話の整理ができませんよ」

「あ、そうよね。ごめんなさいね」


 彼女、リサラさんは慌てていたらしく焦って話し始めてしまったようだ。落ち着いて話してくれた内容をまとめると、


 リサラさんが住んでいる異世界の国・セルティマータ王国の国王が何者かに暗殺されてしまった。


 国王不在の為次期国王候補を集めたがどれも相応しくなかった。

それならば異世界、つまり俺のいる世界から次期国王に相応しい者を召喚する事になった。


 リサラさんがこの世界に来た理由はなんとなく理解できた。だが何故俺なんだ?なにもかもが平均的な俺が国王なんてまずありえない。もしかして次期国王に相応しい人材を一緒に探してくれという事だろうか。


「でも俺の周りに次期国王に相応しい人材なんていないと思いますよ?」

「何を言っているの?貴方よ」

「は……はい?え、話聞いてました?」

「ええ。聞いてたわ。詳しい事は向こうで話すから、早速行きましょう」


 未だに話の整理が着かず、わけのわからないまま異世界に行く事になってしまった。

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