第58話 だから、もう少しだけ

 きらきらと、星よりも明るく暖かいそれが、私の瞳に光を注ぐ。

 この家にあった分だけではない。十や二十ではきかない。街中のランタンをかき集めないと足りないくらいの、光の粒が空を彩る。


 お父様も、お母様も。

 この光景に見とれていた。


 私と手を繋いでいるノアを見る。彼も空を見上げていた。

 ランタンの明かりに照らされた横顔は——とても。

 とても、きれいだった。


 じわりと胸の奥が暖かくなって――それなのに、喉の奥がきゅっと狭くなる。

 ああ、私は、この魔法が本当に、好きで。

 彼もきっと、好きでいてくれたことが――嬉しい。


 なすべきこと、なんて、大げさだったかもしれない。そんなもの、言い訳だったのかもしれない。

 そうじゃなくて――ただ、私が、ノアといたい。そう思った。


 ノアが、私を見る。

 溢れる光を映した瞳で、彼が私を見つめる。


「だから、もう少しだけ……僕と一緒にいてくれないかな」


 繋いだノアの手を、ぎゅっと握る。彼も私の手を、握り返した。


 ランタンに照らされた中で、私は両親に向き直る。

 ぽかんとしていた両親は、はっと我に返ったように私を見た。


「心配してくれてありがとうございます。お父様、お母様」


 ぺこりとお辞儀をする。

 2人の愛情は、大切なものだ。引っぺがしたりしては、いけないものだ。

 今世はきっと、大切にしたい。それは間違えないつもりだ。


 ……だけれど、それでも。


「でも……私、もう少し、旦那さまのところにいようと思います」


 私の言葉に、寄り添い合った両親は黙って、耳を傾けてくれている。

 私はえへんと胸を張って、言った。


「旦那さまは、私がいないとダメなので」

「待って、すごく語弊がある」


 ノアが隣から口を挟んできた。

 悪戯めかして笑って見せると、彼はやれやれとため息をついた。

 私たちのやり取りをじっと眺めていた両親に、向き直る。


「旦那さまのところで魔法を勉強して、そして」


 両手を空に向かって広げる。

 夜空にきらめく光たちを見上げて、さわやかな森の空気を吸い込んだ。


「私もランタンで、空をいっぱいにしたいんです!」


 ノアがすっと右手を空に向けた。

 集まっていたランタンたちが、ふわりふわりとさらに空高く、舞い上がる。

 そしてそのままゆっくりと、街の方へと列を作って、飛んで行った。


 残ったランタンは、4つだけ。


「もう危ないことはしません。だから、お願いです」


 もう一度、両親に向かって頭を下げる。

 私より一拍後に、ノアも頭を下げた。


 両親は、しばらくの間黙っていた。

 辺りがしんと静まり返って、風で木々が揺れる音だけが、わずかに聞こえる。


「アイシャ」


 お父様が、私を呼んだ。

 唇をキュッと結んで、お父様の顔を見上げる。

 お父様は――少し寂しそうな、それでいてちょっとだけ嬉しそうな顔で、笑った。


「いい先生を見つけたんだね」


 その言葉に、私は大きな声で元気よく、返事をする。


「はいっ!」

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