第40話 『は? お前なんかが先生を語るな』

「何で黙ってんだ」

「何でって」

「禁術使ってまでお前のこと生き返らせようとしてたんだ。生き返ったって知ったら喜ぶだろうに」

「生き返ったって言うのかな、これ」


 もふもふの羽毛に埋もれた自分の手を見る。


 大きさも、爪の形も。あの頃とはずいぶん違う。

 単に子どもだからというだけではない。髪の色も瞳の色も違うし、魔力量も違う。


 私はアイシャで、違う人間なのだから当然ではあるのだけれど……生き返ったというのとは、ちょっと違う気がした。

 生まれ変わった、という方が近いのかもしれない。


 フェリがじゃれついて指を甘噛みしてきた。甘噛みとはいえ、嘴の先が尖っているので結構痛い。

 フェリの額のあたりを掻いてやりながら、言う。


「ノアには言わないで」

「何で」


 さっきから同じことを繰り返すフェイを睨みつける。


 他人に聞く前にまずは自分で考えてもらいたい。

 魔法大学で培った論理的思考力はどこに行ってしまったのだろう。

 魔法管理局で頭の硬いお役人たちとばかり接していると、さしもの魔法大学次席もそんなことになってしまうのか。嘆かわしい。


 研究棟に保護したグリフォンを放った時も魔法管理局からはめちゃくちゃに怒られたものだ。

 貴重な魔法生物を保護したのに。半壊した研究棟だってちゃんと直したのに。


 そういう融通の効かない連中の相手はさぞ疲れるだろう。思考力が蝕まれるのもやむを得まい。


 仕方がないので、私の見解を述べる。

 

「下手したらグレイスを騙る不届き者として消されそう」

「それは……やりそうだな」


 同意するフェイに、そうでしょうそうでしょうと頷いて見せる。

 彼は渋い顔で眉間に皺を寄せながら、どっかりとソファに座り直した。私も向かいに腰を下ろす。


「あいつ、みょーーーーにお前のこと、なんて言うか……持ち上げるからよ。我慢ならなくて言ったことあるんだよ。そんなたいそうな奴じゃなかったぞって」

「ありがとう」


 思わずお礼を言ってしまった。


 よかった、私の知り合いにもきちんと否定してくれる人がいて。

 ノア、君の先生は今目の前にいる友達に「魔法以外はフクロウ以下」とか言われるくらいたいしたことのない奴だったんだよ。

 早く正気に戻って。


 まぁ、その結果が今のノアだとすると、何と言うか、うん。

 成果はなかったんだな、という気持ちだけれども。

 誰も何も言ってくれないよりかは救いがある気がする。


「そしたら『は? お前なんかが先生を語るな』って」

「言いそう」

「挙句『お前先生の何なんだ』ってさ。そっからもう完全に敵認定されちまったみたいで、顔合わすたびに厄介者扱いよ。アイツちょっとおかしいって」

「ごめん」


 やれやれと肩を竦めるフェイに、何となく謝った。


 そりゃあノアのことだから、崇拝する『先生』を大したことがないとか言われたらそうなるだろうな、という気がする。

 むしろ異教徒扱いで済んでいるならマシなほうで、消されていてもおかしくなかったんじゃないかと思えるくらいだ。


 そういうことをやりかねない何かを感じる、気がする。よかった、フェイが五体満足で。

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